陽織、ドライブする
合宿最終日。試験が終わると、教室のあちらこちら、というか合宿所全部に、生徒の屍?が転がっている。
三年生のフロアは、もっとひどいらしい。
そういえば、昨日久しぶりに会った和嶺の顔も死んでいた。目の下のクマ、酷かった。
合宿からの帰りのバス。
ほとんどの生徒は、爆睡している。
起きているのは、最終日の試験も余裕だった湊人や千織、美織などなど。
美織は陽織の隣で、本を読んでいる。
陽織はバスに乗る前に、千織と羽織からもらった美術館のお土産をバッグに一生懸命つけていた。
「お前、ほんとぶっきようだなー!」
バスに乗って30分経っても未だつけられない陽織から、湊人がバッグとキーホルダーを奪う。
ブーツと膨れる陽織。
美織は、そんな様子をクスクス笑って見ていた。
東京に戻ると長野とは違う、モワッとした暑さを感じる。もうすぐお盆だ。
巷のスーパーやショッピングモール、ホームセンターでは、盆飾りが店頭に並ぶ。高度成長期、都内のお盆は七月に済ませる家が多かった。日本中の人が集まるようになった昨今では、七月のお盆は一般的ではなく、八月という認識になっている。
個人病院はお盆休みがあるが、大学病院などは平常通りだ。そのため、神月家では、夏休みやお盆だからと、どこかに出かけるなんてことを経験したことはない。
祖父はまだ現役の医師、祖母もバリバリと祖父の病院を手伝っていて、お盆の時期は2人でのんびり過ごしている。
今年は和嶺が受験生なので、家の中は平常通り。高嶺も大学が夏休みに入ってからは、アルバイトやら何やらと、忙しく家にいない。
そんなある日、珍しく高嶺が陽織に声をかけてきた。
「これから神嶋さんに頼まれた依頼に行くけど、陽織も行ってみる?」
陽織は過保護な高嶺が珍しい、と思いながらも、自分の目が届かないところで、何かあるのが心配なのだ、ということが理解できた。
合宿も終わり、後期の講習までは暇を持て余していたので、二つ返事で立ち上がった。
「ちゃんとした依頼ってはじめて!どこまで行くの?何持っていけば良い?」
陽織は完全にイベント気分だ。
高嶺は苦笑しながらも、特にはないが、できるだけ登山に行くような動きやすい服装、と言った。
「え?巫女服とかじゃないの?」
「まさか、アニメじゃあるまいし。」
高嶺に着いていくと、いつもとは違うオフロードタイプの車を出す。
「おー、本当に山の中!」
陽織は高嶺に言われた通りTシャツに綿のズボン、スニーカー。上に羽織る長袖シャツも持った。高嶺もジーンズに長袖のシャツを着ている。
高嶺のバッグには、キッチンから拝借してきたペットボトルの水とお茶を数本、タオル、ゼリー飲料、シリアルバーも入っていた。
「本当に登山みたい。」
「場所は山、とまではいかないけど、人里離れた廃病院だからね。車もどこまで入れるかわからない。」
高嶺は徐々に真剣な顔になっているが、陽織は完全にピクニック気分だ。
なんと言っても、兄と2人で出かけるなんて、たぶん生まれて初めて。
車が荒川を渡り隣の県に入り、さらに利根川を渡り、もう一つ先の県に入る。
高速は混んでいると困る、と言ってナビと前もって調べた裏道を使って移動していた。
途中、数ヶ所のコンビニでトイレ休憩と、軽食を購入。
そして徐々に山が近くに見えてきた。
車内では、高嶺がサマースクールのことや、学校の様子を聞いてきた。高嶺も大神先生の教え子なので、先生のここだけ話に花を咲かせる。
陽織がスケート引退理由に、医学部受験を話したら、高嶺が嬉しそうに食いついてきたので、少し引いた。
「無理無理無理!」
と言うと、かなり寂しそうだった。
小さな山をいくつか超えしばらく行くと、山里が見えてきた。小さな山を背にした古い日本家屋が見える。
そのほとんどは空き家で、廃病院以前に、こちらも祓っておかないと、やばいのでは?と言うくらい薄暗い。
「この辺りは、ほとんどが50年以上空き家らしい。以前はたくさんの兄弟が、近くに家を建てて住んでいたのだろう。今は、高齢者だけが住んでいる家が、数件残っているだけだ。」
高嶺が自治体の広報誌のような説明をしてくれた。
山里を過ぎると、その先に新しいと言っても築30年くらいの住宅地が見えた。
廃病院は、その手前の山の麓にあった。
高嶺が一番近い空き家の庭先に車を停めると、もう一台車が入ってきた。こちらもオフロードタイプで、三人乗っていた。
運転手が降りて、こちらに近づいて来る。
と、その中の1人が両手を広げて駆け寄って来ようとする。が、助手席の人に腕を掴まれていた。
「な!」
車から降りてきたのは、神代三兄弟だった。
「はあ?兄上っ、あいつも今日来たのか?」
湊人が今にも舌打ちしそうな顔で文句を言った。
「あいつ、めちゃくちゃ不器用だぞ!」
いや、不器用関係ないし!
「高嶺さん、陽織さん連れてきたんですか?」
悠人が驚きの声をあげた。




