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陽織、お土産選び

家族連れで歩いていても、帽子やメガネをしていても、黎人は目立つ。

若い女性グループが、時々チラチラと見ているのがわかる。

「モデルさん?」

「どこかの俳優?」

いやいや、ちょっとお金持ちのサラリーマンだから。


「そういえば、向こうのお店に天てれの取材で矢作翔吾が来てたよ!」

近くにいた女性グループの声がする。

天てれ?矢作翔吾?

陽織はなんの話わからない。

陽織が顔を顰めると

「陽織は気にしなくていいよ。」

と、黎人が顔を覗き込んだ。

「でも、天てれって?もしかしたら天神さんの?」

「んー、そうかもしれないね。」

そう答える、黎人自身あまり気にも止めていない。


「ねえ、たっくん。軽井沢っていうよりも、ここは信州?だから、自然のお土産がいいんじゃない?」

「んー、なんか食べ物ばっかりだねー。家族にはそれでいいけど。あ、あれは?ほらここで工房を開いている人の作品だって。」

「あ、ご当地キャラもあるみたい。」

と、なかなか決まらない。


旧軽銀座の奥まで行くと、色々な工房があった。

鷹人は次々と目移りしながらも、木彫りの動物を作る工房に行って、友だちの数と自分の分と、お揃いのお土産を買った。

その他にも、黎人は会社や綾人、ご近所など、日持ちがしそうな人気のお菓子をいくつか購入し、帰りは荷物でいっぱいになり、姫花のベビーカーについているカゴまで荷物が入っていた。


ホテルのランチで食事をして、一度別荘に戻ると、陽織と姫花は疲れてしまったので、別荘でゆっくり。また男2人は夕飯の買い出し、と称して出かけて行った。

「肉ばっかりはやめてね!」

と言ったが聞いているのか!?


夕飯の後、

「帰省ラッシュに巻き込まれるのは嫌だから、明日の午後帰ろう。」

黎人が突然言った。

もう!来るのも突然なら、帰るのも突然なんだから!

陽織は呆れる。

「たっくんも、朝のうちに、お部屋に散らかした怪獣や本は片付けてね。」

お風呂から上がった鷹人に言うと、着替えと歯みがきをして、はーい、と部屋に戻った。

お土産もあるから、持ってきた2つのリュックに入るのだろうか?

と言うかなぜリュックを二つ?


姫花が眠ると、なぜか黎人は自分のベットに陽織を誘導する。

「明日には解決してるかなー。」

まあ、こういう話をしたいのだろう、とわかるので、陽織も答える。

「三友の件?湊人に丸投げしたの?」

聞くと、黎人が思い切り口を塞いだ。

「ぼくといる時は、その名前は厳禁ね!」

?なんで?

「もう、陽織は誰の奥さんなの?それって結婚式の翌朝にも言ったよね。」

イヤイヤ、名前を言っただけじゃないか!

「とにかく、その名前をベッドで言ったら、寝かせないからね!」

う。それは嫌!

陽織は黙ってコクコクうなづいた。

 

その頃。

「今までの被害者の共通点は、若い人ということ。双極性障害が深刻化して自死、自傷があったこと。他には?」

「男性2人はパワハラと、学生はアカハラです。」

「アカハラって実際にあるんだ。」

ここにいるメンバーは全員明王の学生か出身者。明王は職員になる時に、学術的なことだけでなく、メンタルバランスも徹底的に調べられるという。

そのため、数少ない女性の教授たちも、みんな家庭との両立ができている人が多い。よって、アカハラもほぼない。


昼間、病院のことで調べ回っていたメンバーもとりあえず戻ってもらい、今は10人フルメンバーだ。


ただでさえ術者はそれだけでメンタルをやられることが多い。可能な限り彼らへの負担を減らすのも、明王の役割だ。

だからこそ、陽織誘拐の時には迅速に対応したし、加害者は厳しく罰した。


「ただ難しいのは、パワハラやアカハラって、人によって捉え方が違うことだよね。」

「あからさまな無視や嫌がらせ、仲間外れならいいけど、本人がそう受け止めて自分を追い込んだ場合は、どうにもならな。」

そこまで言って湊人は千織の顔を見た。

はじめは千織は?と、意味不明だったが、湊人のはあーというため息で、理解してしまった。

「陽織ちゃんは、ただのわがままだから。」

「だよなー。仲間外れって、違うだろ〜!」


「三人の女性はいずれも同じ病棟の並びにいます。」

「それじや、今晩はそこで、まずは待機、かな。」

湊人は千織、大樹、円香を連れて病棟の中。宏輝、陸斗と、羽織、七緒は病棟の入り口付近で、葉鳥と幸穂は病棟の窓下で待機となる。

「幸ちゃんごめん。外って暑くない?虫もいるし。」

「大丈夫です!結界貼ってもらってるので。それに、外の方が、中よりも変なのワンシャカいないし。」

幸穂が答えると

「あー、羽織の場所が一番嫌かも。」

と、葉鳥が遠い目をした。


羽織は病棟の入り口に立ちながら、寄ってくる小物を次々と祓ってる。

「羽織、ここでチカラ使うと、後でもたないぞ。」

宏輝に言われるが、うざいのなんのって。

「依頼がないと、病院の全体結界、できないんですよね。」

七緒もまるで蚊や蝿を追い払うかのように、手を振ってる。

「あれは、チカラが相当いるからね。黎人さんや高嶺さんクラスを集めないと。」

陸斗は前回やった病院の大量結界の時、まだ見学をしていた。


中でも、似たようなことが起こっていて、千織がずっと湊人にしがみついている。

「千織、俺動けない!」

「だって、気持ち悪いもん。陽織ちゃんじゃないけど、無理無理!」

「あー、陽織がいると、エサになってくれたからなー。」

エサ?

大樹はその言葉に固まる。

「そんなに、すごいんですか?」

円香が聞くと

「だって、陽織は特Aランクの松坂牛だもん!」

と湊人が答えた。

湊人くん、その言い方!と千織が嗜める。


『陽織はいつも泣いてるよ。』

大樹は黎人の言葉が、耳から離れない。


「陽織いれば、たぶん、内側も外側も、全部寄ってくるよ。まあ、黎兄が全部祓っちゃうだろうけど。」 

「陽織ちゃんから、さっきお土産買ったから楽しみにね、ってメールきたけど。」

千織がボソッというと、はあ?と湊人が顔を向けた。

「やっぱり、どこか遊びに行ってんだ!」

と、スマホを睨んだ。湊人には、未だに連絡はない。


もうすぐ、日にちが変わる、という時、一番手前の部屋の中に不穏な空気が流れた。

「来た!」

湊人が小声で3人に合図をする。部屋の中にいるのは大山千智だ。

4人はそっと中を覗き込むと、徐々に女性の霊が現れた。

「辛い、よねー。あなたの、せいじやないのに。かわいそーに。」

霊の声が聞こえてくる。

「生きていても、しかた、ないよねー。死に、たいよねー。しなせてくれ、ない、なんて、なんて酷い。」


千織と円香の顔は真っ青だ。

女性の頭や顔はぐしゃぐしゃに潰れて、いる。足や腕も、あらぬ方向に向いている。

「噂、通り、だな。」

湊人が小声で言う。

30年前に起きた事故。

でも、女性はここではなく、この近くの交差点で車に飛び込んだ。その後、三友に搬送されたが、息を引き取った。

「ここも、いい迷惑だな。ただ搬送された、だけなのに。」

「病院なんて、そんなもんだよ。」

湊人が大樹に言う。


外の宏輝たちにも、湊人たちの会話はインカムを通して聞こえている。

「どうする?対話、するの?」

羽織が聞くが、そんな余裕がある者は、ここにはいない。祓う、だけだ。

「宏輝、白狼出せる?」

湊人からの声がした。

「OK!」

「じや、俺も銀龍出す。大樹たちはカバー。」

大樹と陸斗はうなづいた。


湊人と千織がそーっと千智の部屋に入ると、急に女性の霊が消えた。

「湊人さん、高橋さんの部屋に現れました!」

大樹の声がした。

「くそ、逃げられた!」

「湊人くん、大山さんは無事だよ。」

千織が千智の脈をみて答える。


黎人が急に目を開けた。

「どうしたの?」

いや、と陽織に笑って胸に顔を埋めてくる。

   湊人、早すぎ!


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