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湊人、決意する!

月曜日、湊人がバイトに行くと、自分が渡されている、会社のパソコンに黎人からメールが入っていた。

そういえば、おととい黎人の家で巫女たちが料理を作り帰った後、何かあったのだろうか?

昨日黎人たち一家は出かけたらしい。

しかも早朝から。

てっきり日帰りで帰ってくるだろう、と思っていたが、どうやら宿泊での家族旅行らしい、ということだ。


メールをあけると、なぜか重い資料が添付されていた。

添付されたものには、

『三友記念病院 変死事件について 資料』

と題名がついていた。

(あー。おととい話していた件か。)

そう思って、資料に目を通す。

なるほどと思った後、メールを見て仰天した。

「今回の件はすべて神代湊人に依頼する。8月16日日曜日までに解決すること。」

と書いてある。

(すべて?ちょっと待て!あとでまた集める、と言っていたのはなんだ?まさかまた気まぐれで、自分はやらない、ということなのだろうか?)


最近忙しすぎる兄は、突然気まぐれでどうでもいい仕事は放棄するところがある。

7月までは忙しそうにしていたし、おそらくお盆が終われば中間決算でまた忙しくなる。

そう考えて、今回は旅行に行ったのかもしれないが、丸投げとはどういうことだ?


と、湊人は黎人のスマホに電話やらメールやらを入れるが、まったく出ない。

しかたないので、社長室に行った。

すると社長室の入り口に林田がいて、鍵を開けようとしているところだった。

「林田さん?」

「あー、湊人くんおはよう。」

「えと、どうして林田さんが?」

「あれ、先週言わなかったっけ?神柴さんが今、産休を取っていて、俺代理秘書!それに社長は今週いっぱい夏休みだから。」

(夏休み?聞いていない!)


実家に連絡をしたが、美咲も知らないという。

湊人はしばらく考えて、よし!と気合を入れた。

先日、翔太は林田の件で黎人に評価されて、リーダーとして資質があると言われていた。

颯斗は以前から黎人に認められている。

医学部というだけで学生の身分だが、友人たちはすでに社会に出て仕事をしている。

せっかく、黎人が湊人に任せてくれたんだ。自分だってできる、と湊人は心に決めた。


高校最後の依頼で行った、人魚の霊が出た事件、本来なら忙しくて関わらないはずの黎人が、最後に現場に来た。

悠人と二人、神嶋を従えて出て行ったとき、かっこいいと思った。

自分も大学生になればあれくらいになれるのか、と考えていた。

でも、いまの自分はあのときの黎人よりも年上なのに、まったくできていない。

専門が違うのだから仕方ない、と悠人は言ってくれたけれど、それでも悔しい。


湊人はその日の昼休み。ここにバイトできているメンバーだけを集めて、今回の依頼について簡単に話をした。もちろん、社員食堂なので、詳しいことは話せない。

話せるのは、いつ決行するか、メンバーはどうするか、リーダーは自分が勤めることなどだ。

「湊人、大丈夫?」

宏輝に心配されたがやるしかない。

「結構、今回のって、簡単にはいかないよね。」

宏輝に言われて、ちょっとだけ頭を抱えたくなる。それでも大人組に頼るわけにはいかない。

というか、自分自身がすでに大人、なのだから。


とりあえず大樹、陸斗、円香、七緒は絶対。

ほかにも千織、羽織にも連絡をする。

千織はお盆ということもあり、休みがとりやすいと言われた。羽織も似たような話だ。

残りは、高校生の桐吾たちにも声をかけるかどうか、というところだ。


連絡をすると、葉鳥と幸穂も協力してくれるらしい。

現場が総合病院となると、規模が大きい。霊の数も予想がつかない。

人数が多いにこしたことはない。


決行日は盆の入り、いわゆる迎え盆と言われる日の13日。

もしかしたら、このあたりには黎人たちも帰ってくるのではないか?と期待はしているのだが、まったく連絡がないという。

湊人のスマホにも、黎人が見た形跡すらない。


病院の外来診察が終わる、夕方、全員で集合した。

病院の事務長が出てきて、簡単に湊人に説明をしてくれたが、それはすでに資料にあったことだ。

二年前ほど、隔離病棟と言われる部屋で、ある男性が命を絶った。

会社でパワハラをうけただけでなく、自分がやってもいないことの責任を取らされて、退職に追い込まれた30代の男性だった。そこから彼は心が壊れた。

妄想を見て、いつも何かを恐れて怯えて、そして、最後には突然亡くなった。

隔離病棟はそういった患者を受け入れる場所なので、徹底的に自死につながるようなものは持ち込みを禁止しているし、窓にも鉄格子がはめ込まれている。

病棟の入り口、フロアの入り口は施錠され、簡単に他のフロアや部屋に入ることもできない。

それだけに、その男性の死因は心臓発作による心肺停止だが、その原因となるものが分からなかった、と言う。


そして、その半年後にも似たようなことが起こる。さらに半年、つまり一年前にも、若い女性が隔離病棟で心臓発作による心肺停止を起こして亡くなった。半年前にも。

ちょうど2月の寒い朝、20代の男子学生が亡くなった。いずれも発見したのは、当直の看護師で、朝がた亡くなっていた。

ここで問題なのが、その全て、家族が隠したいがために、解剖は行っていない。だから、本当の死因がわかっていないかもしれない、と、湊人は心配している。もし、人為的なことが原因なら?

2年間で4人。今回は、今年のお盆の最中が、2年前、昨年と、続いた時期になる。

「変死、と言っても、例えば顔が潰される、とか、足が切り落とされると言った、スプラッタ的な内容ではないんですね。」

そう言って、羽織たち六本木の事件を担当した女子たちはホッとする。


顔が潰される、と聞いただけで、千織は真っ青になったが、羽織はそれを9ヶ月ほど前、経験しただけに同じようなものは避けたい。

それでも半年に1人ずつ、身体的には健康な若い人が心臓発作を起こして亡くなる、なんてことはありえない。


「というわけで、俺たちもその隔離病棟に行くグループ、病院についてさらに詳しく調べるグループ、それから、亡くなった4人について調べるグループに分かれよう。」

「はい、質問!」

陸斗が元気に手を挙げる。

「4人には、何か共通点があるんですか?」

「いや、今のところは全くない。あるのは精神的に病んでいて、身体的には持病のようなものがない、20から30代というだけです。」


「ネェみなちょー。死んだ4人、調べるよりも病棟見たほうがいいんじゃね?」

陸斗がそう言うと、湊人がびきっ、と怒る。

「てめーは鷹人か!?ざけんな!病棟は一番に見にいく!今回、似たような患者がいれば最優先で調べる。」

湊人はそう叫ぶと、二班を病棟に向かわせて、宏樹と羽織、陸斗、七緒に周辺の聞き取りを任せた。


「陸斗、湊人のこと煽んなよ!」

別れて早々陸斗は宏輝に怒られた。


病院内はお盆休みで、さらに診療時間外とあって静かだ。もちろん総合病院なので救急外来だけは受けたいる。それ以外の外来は日曜日までは休みになっていた。

いつもはやっているらしいが、今回だけは臨時で休んでもらった。


「湊人さん、今病棟にいる20代、30代は3人です。坂本麻也26歳、会社のパワハラとセクハラが原因の双極性障害。高橋由里子33歳、こちらもほぼ同じ。ただ彼女は会社の先輩と不倫をした上に、捨てられたようです。」

「そりゃあ、男も悪いけど、本人も悪いよ。」

真面目な葉鳥が呟く。なかなか厳しい。

「3人目は大山千智34歳、こちらも高橋とほほ同じですね。しかも、彼女は妊娠していて、不倫相手の前で、お腹の子どもを殺す、と脅して自分の腹部を刺したそうです。そのまま救急搬送されて、胎児は死亡しています。」

「う、なんか、陽織ちゃんがいたら殺到しそう。」

千織が青くなる。陽織がいなくて良かった。

「でも、それって、絶対に不倫相手の家族も、タダじゃ済まないよね。」

「うわっ、修羅場。」


「今回は全員女性。」

気を取り直すように、湊人が言った。


「鷹人がお土産買いたい、って言ってたから、今日は歩いて旧軽銀座に行こう。」

湊人が決行に決めた日の朝、黎人がそう言った。

別荘から旧軽銀座は歩いて行ける。

人混みが多くならない、できるだけ早めに時間に、4人は出かけた。

今日、姫花はベビーカーだ。

「あのね、ぼく、ここにしかいない怪獣が欲しい!」

と鷹人は言ったが、黎人と陽織は微妙な顔をする。

軽井沢にしかいない怪獣ってなんだろう?












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