陽織、空旅を楽しむ?(神様の娘編)
陽織は姫花を抱くと、大きな荷物を黎人に持ってもらい、4人でホテルを出た。
1日、と言っていたのに、午前中で一度出る黎人に、支配人がやってきた。なにか粗相があったのでは?と。
それに対して
「いえいえ、ちょっと妻が体調を崩したので、一度別荘に戻ります。」
と言って、車を出した。
黎人は別荘に戻ると、荷物を置き、お昼の相談を鷹人としている。
「ごめんなさい。あの、わたしと姫ちゃんはお留守番するから、たっくんはパパと遊んできて。お昼も食べてきていいよ。」
と、陽織が笑って言う。
とりあえず、陽織は姫花の着替えと、自分の着替えをして、おくるみと一緒に、洗濯機に入れた。
「乾燥させちゃうと、縮んじゃうかなー。」
と言いながら。
「そうだね。じゃあ、鷹人。明日行くっていってた滝に行こう!ついでにお夕飯の材料を買ってきて、バーベキューにしよう!」
黎人は鷹人を心配させないように、明るく言ってくれた。
鷹人は、心配そうに陽織たちの方を何度か見たが、別荘の玄関でいってらっしゃいをされると、喜んでい車に乗った。
陽織はその後、姫花と2人で2階の寝室に行った。
姫花をベッドの上に転がして、笑いながら遊ぶ。
笑うようになった姫花は、陽織がうさぎのパペットとクマのパペット、とたくさんのおもちゃを出すと、キャッキャと、笑いながら夢中になって掴んで遊ぶ。
目はたぶん大丈夫。
「姫ちゃん。こっちこっち。」
と呼ぶと、顔を向ける。
耳も大丈夫。
大丈夫。
きっと、大丈夫!
夜はバーベキューをして、鷹人がたくさんお肉を食べた。どこかの誰かさんみたいだ。
翌日、カルプリの森は空旅散歩以外にも楽しめる、ともう一度行ってみることにした。
結果、陽織は姫花を抱いて、鷹人と黎人にギュッとしてもらう約束で、リフトに乗ることになる。
駐車場に着くと、ちょうど昨日出会った、柏木麻衣が、家族連れでやはり立っていた。
「あれ?」
先に声を出したのは、黎人だった。
「柏木さん?神北の柏木係長?」
声をかけられた、麻衣の夫、優也が振り向いた。
「あ、神代社、と神代、さん。」
陽織は黎人が声をかけた男性から隠れるように後ろに立つ。麻衣に昨日のことを謝りたいのに。
「お久しぶりです。社長も、あ、と。ご家族で?」
「はい。柏木さんも、ご家族連れなんですね。」
2人が互いに挨拶をしているが、陽織は知らない男性が怖い。
「あれ?陽織、ほら柏木さん。去年、陽織の卒論手伝ってくれた神北の。」
と、言われ、陽織は驚いて顔だけだす。
卒論?そう言われて、麻衣もこちらを見た。
「ほら、陽織がアジア圏の情報がないって、神北社長を脅して紹介してもらった。」
黎人が笑いながら言う。
「あ.脅して、ないよ。脅したのは、陽織じゃなくて、先生、だよ!陽織はチクったって、泣いただけだもん!」
柏木はその言葉を聞いて笑ってる。
「あー、聞きました。神北社長が女子大生に脅されたって。」
と、お腹を抱えて笑ってる。
「だから、おどして、ない、で、す。あの、その節はたくさんの情報、その、ありがとう、ございました。」
陽織がやっと出てきて、ペコッとお辞儀をする。
意味がわからない麻衣だけが、憮然とした顔をしている。
「あ、えと。妻の麻衣と息子の優希と娘の結衣です。こちらは、うちの親会社の神代製薬の社長、神代さん。と、奥さん、ですよね?」
「あ、はい。」
陽織は昨日のことを抜きにしても、柏木には頭が上がらない。
「あの、昨年ご主人さまのおかげで、その、大学の卒業論文が、無事、完成?いたしまして。」
なんで疑問なの?
と、黎人が聞くと、
だって、途中なのに父様が出しちゃった!
と、怒っている。
なんだろう。
この、小動物のような子は。
「あ、あと、その。昨日は、その、お恥ずかしい、ところを。」
と、陽織がまた黎人の後ろに隠れる。
「いえ、わたしの方こそ、ちゃんと注意すればよかったんですが、なんか、その。逃げちゃって。」
麻衣も恥ずかしそうに下を向いた。
その後、黎人が空旅リフトに乗ることを告げると、柏木も、同じだと言う。
「えー、黎人さん、本当に陽織も乗らなくちゃダメ?陽織、姫ちゃんと待ってるー!」
並んでいる時に陽織が言うと、黎人が
「ダメ!また知らない男の人が来たら、怖くて陽織泣くでしょ?」
と言われてる。
(知らない人は泣くほど怖いのに、大会社の社長は脅すんだー。)
と、後ろに並ぶ柏木夫妻は同じことを考えた。
「ママ、ぼくもママと姫ちゃんをギュッとしてるから、大丈夫だよ。」
と子どもにも言われている。
「陽織、うさぎ山だよ。ほらうさぎ!」
名前がうさぎだからってなに!?
リフトから見る景色は、雄大で綺麗だった。
鷹人がジップラインをしたいと言うと、黎人にまだ早い、と言われていた。
陽織は下を見ると怖いので、ずっと抱っこしたいる、姫花の顔を見ている。
「陽織、階段の上から飛び降りたり、ハクで跳ぶのは平気なのになんで?」
「自分で飛ぶのはいいの!自分で加減できるから!それに、下なんて見ないもん!」
と答える。
よくわからない。
「じゃあ、ほら前見て!もう、着くよ。」
なんか、前のリフトはぎゃーぎゃーうるさい。
「え、とあの人はあなたの会社の人?」
麻衣は夫に黎人のことを聞く。
「あー、あんまり他の人がいるところでは、大きな声で言えないけど、親会社っていうのかなー。神代製薬って知ってるよね?」
麻衣はうなづく。当然!大会社だ!
「そこの、社長。」
え?えー?えーっ!
麻衣は目を見開いた。
だって、子どもは連れているけど、もしいなかったら、ただの学生カップルだ!
しかも、奥さんは馬鹿っぽい。
「なんで、その、奥さんをあなたが知ってるの?」
「去年、大学の卒論で、どうしてもアジアの子どもの食生活の情報が欲しいって。欧米はなんとかなったからって、うちの社長に連絡してきたんだ。で、俺がアジア圏の担当だから、紹介された。」
「大学、卒論?」
「まあ、奥さんは学生結婚、って聞いてたけど。若いよね。子どもっぽいっていうか。」
「こうほく、の社長、脅した?って?」
「学生の時、ご主人に内緒でうちの会社、受けたんだけど。それを神北社長が告げ口して、大喧嘩したんだって。なんだっけ?ドイツ語とロシア語、だったかなー、ペラペラみたいだよ?だから海外行くの、OKです!って、面接で言ったみたい。」
そう言って、優也は、大笑いする。
「子どもいるのにねー。てか、なんで就活なんて、してたんだろう?」
え?どう見ても、コミュ症にしか見えないんだけど!
山の上に登り、冬はスキーで降りるゲレンデだ。
夏はそのまま違うリフトで降りてもいいし、いろんな方法で楽しめる。
「わたし、歩いて降りる。」
陽織が言うと、黎人と鷹人が揃って、えーっ?と言う。だんだん、似た者親子になってる。
結局、なんとか違うリフトで、また空旅を楽しんで?4人は麓でお昼にした。
柏木家族は、今日帰るとのことで、そこで別れて、陽織も挨拶をした。
「ウチはいつ帰るの?」
鷹人が聞くと、黎人がいつにしようか、と呑気な答えをする。確かに自分の家の別荘なので、宿泊費はかからない。色々と不自由もない。
とは言え、黎人も鷹人も月曜日からは仕事と幼稚園が始まる。
「パパ、ぼく、まーくんと、大くんと、小鳥ちゃんにお土産!」
と言ってきた。
「そうだねー、お盆が終わったら帰ろうか。」
と、黎人が言った。
お盆が終わる。
あ!三友記念病院!
「大丈夫?その、黎人、さん?湊人たち、今大変なんじゃ、ない?」
おそらく、黎人は神嶋のあれこれから逃げるために、ここにいるのかもしれない。
「いいんだよ。たまには、ぼく抜きで、なんとかしてほしい。もう、大神先生の話なんか乗るんじゃなかった!長なんてヤダ!!」
あ、やっぱり。
その頃、都内では。
「え?黎人さんたち、どこかにでかけちやったんですか?こちらの電話にも出ないし。」
神嶋からの電話を大神が受けていた。
「そうなんです。それが湊人に聞いても、前の日みんなで、三友の話してた、と思ったら翌朝、早朝から家族でどっかに行っちゃった、って。」
「はあ?三友、お盆中にお願いします、って言われているのに!」
「お盆、明日で終わり、ですねー。」
大神が、虚ろな目で答えた。
「会社も、社長は1週間お休みですって。」
「だから、三友のために休み、とってくれたんじゃ、ないんですか?」
「あとは湊人が、頼まれてるみたいなので、湊人に聞いてください。おれも、なにも聞いてないので。」
大神はそう言って、電話を切った。
黎人のヤツー!




