陽織、家族で軽井沢(神様の娘編)
お盆になると、世の中ますます嫌なものが溢れて来る。陽織はそれに合わせて、外に出られなくなる。
会社も、休む人が増え、工場や取引先の動きも鈍くなる。黎人も早めに帰宅できるようになる。
去年は軽井沢に行ったり、とにかく2人目が欲しくて、色々と画策していた。
今年の夏は、何も考えなくても、陽織は大人しく家にいる。でも、それによって、陽織本来の明るさや奔放さが、感じられなくなって行った。
やることがないと、陽織は泣いていた。
姫花のことを考えて、不安や心配が溢れてしまうのだろう。こんな子じゃないはずなのに!
こんな顔をさせたくないのに!
「陽織、明日の朝、軽井沢に行こう!」
突然、黎人が言った。
「今からじゃホテルとか取れないし、別荘ならある程度のものはあるから。」
「ちよ、ちよっと待って、黎人さん。世の中お盆だよ?絶対に道路が混むよ。」
「うん、だから朝の3時に出る。」
はあ?
さっきまで、湊人たちがわいわいやっていたのに、なんでまた突然?
「とりあえず、支度だけして。僕は自分のと、鷹人のものを見るから、陽織は姫花の方をお願い。」
「で、でもお仕事。」
「うん、僕、来週いっぱい夏休みだし、鷹人も夏休みって言ってたし。」
それなら、いきなり明日の朝じゃなくても。
と思ったが、まあ、仕方ない。
何日行ってるのかわからないけど、とりあえずオムツを一袋まるまる。あとは着替えを3枚あれば、洗濯は向こうでできるし。おくるみも!絶対に涼しい!
「あ、管理人の人に、連絡しなくちゃ。」
もう、絶対にびっくりしてるよ!
あとは涼しいから上着も。
「たっくんに、パーカー持つように言って。」
わかった、と手をふって鷹人のところへ行く。
鷹人は去年、置いて行かれたと言う記憶があったのか、喜んで自分の着替えを用意している。
幼稚園のお泊まりが先日あったからか、自分の下着やTシャツ、ズボンと、着替えを用意することはわかるらしい。あとはパジャマ。
お気に入りの怪獣のリュックに、詰め込んでいる。
陽織もバタバタと、自分の下着と着替えを数枚、化粧道具、涼しいので長袖のカーデガン。と、姫花の荷物を旅行用のスーツケースに詰め込んだ。
オムツが!
「陽織、紙おむつは向こうのスーパーで、買おうよ。」
と言われて、先に言ってくれ!と、怒りながら、慌てて数枚に減らした。
早めの軽い夕飯の後、お風呂もそこそこに、黎人はベッドに入った。
気合い入ってるなー!
黎人がさっさと寝てしまったので、陽織は慌てて美咲の元へ行き、明日早朝に軽井沢の別荘に行くことを伝えた。もちろん、はあ?と驚かれた。でも、黙って出がけるのはもっと怖いので、ちゃんと伝えておかないと。
午前3時、黎人と陽織は荷物をトランクに入れると、チャイルドシートを助手席に、ベビーシートを後部座席にセットして、陽織が後ろに座る体制でスタートした。
はじめての助手席、ということで鷹人は、まだ午前3時という早い時間にもかかわらず、まったく眠くならないらしい。
途中から高速に乗ると、鷹人は興奮して、目をキラキラさせている。
「パパ!抜かれた!」
「わ!あの車抜いて!!」
「すごいすごい!」
と鷹人があおるので、黎人も法定速度ギリギリで飛ばすから、陽織は気が気ではない。
「やめて!たっくんパパをあおらないで!」
真っ暗な中、高速を走るのは正直言ってドキドキする。
ジェットコースターとかが苦手な陽織は、怖くてしょうがない。
「大丈夫だよ、車に結界が貼ってあるし、ぼく運転うまいから事故なんて起こさないよ!」
いや、そういう問題ではない!
途中、パーキングエリアでトイレ休憩と簡単な飲み物を購入した。
とりあえず、鷹人がお腹がすいたときと昨日温めて残ったパンをそのまま持っては来ている。
「じゃあ、鷹人はパパとトイレね。陽織は?」
「姫ちゃんを置いていけないから。」
そういうと、じゃあ、交代ね、といって先に二人が下りて行った。
その間、後部座席で陽織はシートで寝ている姫花とぼーっと周りの景色を見まわす。
まだ山は遠くに見えている。
さんざん、黎人たちと依頼で出かけたときに見慣れた景色なのに、子どもが一緒というのはまた違って見える。
「ママ、ぼく牛乳買ってもらった!」
そういって二人が帰ってきたので、陽織は一人で降りてトイレに行った。
一人で、というのがまずかった。
トイレから出たとたん、嫌なものがついてくる。
しかも大きい。
気が付くと、陽織はあわてて走り出した。
周りの人は、ただ急いでいるのかな、というくらいなので不審そうな顔はされない。
しかし、車が見えてくると、黎人が気づき、慌てて運転席を降りてきた。
「陽織!」と叫んで抱きとめると、さっと手を出して祓ってくれた。
「ありがとう、慌てちゃって。最近やってない、から。」
陽織はまだ真っ青な顔をしている。
黎人は少しだけ落ち着くまで、そうして待っていてくれた。
そのあと、陽織は姫花のベビーシートに覆いかぶさるように、横になってインターを降りるまで眠っていた。
鷹人も途中から眠ってしまったのか、最後は黎人一人が起きて運転していた。
(ちょっと退屈)
などと思いながらも、朝の七時、車は軽井沢の町に入っていく。
別荘に到着すると、黎人は鷹人を起こして、荷物を一緒に運ぶ。
陽織も目を覚ましたので、姫花を抱き上げた。
2階に部屋は3つ。
鷹人にどうする?と聞くと、自分だけ別の部屋がいいと言って、怪獣のリュックとカバンを両方持って、好きな部屋に入っていった。
姫花はいつものゆりかごではなく、ベビーシートごとおろして、ゆりかご替わりに使う。
管理人さんがちゃんとおむつまで用意してくれていて、助かった。
ずっとおむつ替えをしてなかったので、まずはおむつを替えると、ぐずりだした。
鷹人と黎人は二人で、冷蔵庫をあさっている。
「まずは朝ごはんだよね。」
「あ、パパ、パンがある。お野菜とハムもあるよ。」
パーキングエリアで買った牛乳はもう飲んでしまったらしく、新しい牛乳がないか探している。
しかし、ジュースはあるものの、牛乳がなくショックを受けたようで、がっかりしていた。
「じゃあ、まずは近くのコンビニまで牛乳を買いに行こう。」
え?休まないの?
と陽織は驚くが、二人は元気だ。
陽織が姫花の世話をしている間、二人は出かけた。
あれって絶対にドーパミンが出ている状態だよね。
後で疲れるのに!
黎人はともかく、鷹人が心配になる。
姫花が落ち着くと、陽織は冷蔵庫にあるもので、簡単に朝食を作り始めた。
サンドイッチだ。
卵とレタス、ハムとチーズにレタス、という簡単なものしか作れないが仕方ない。
(コーヒーは淹れられるので、あとは二人が牛乳を買ってくるのを待とう。)
そう思った。
しばらくすると、二人は牛乳のほかにプリンやシュークリームをもってかえってきた。
近年のコンビニスイーツはおいしいので、まあいいか、と陽織も多めに見た。
サンドイッチとコーヒーと牛乳、それにプリンなどのスイーツで朝食をとり、そのあとどこに出かけるかを考える。
「黎人さんは休まなくて大丈夫なの?」
と心配するが、平気平気と笑っている。




