黎人、綾人がいない日々(神様の娘編)
8月に入って、絵梨花のために綾人が産前休暇に入った。綾人は一人息子なので、神柴の母は色々綾人の世話を焼きたがり、絵梨花としてはやりにくいこともあるようだ。
確かに、美咲には悠人と湊人のこともあるから、黎人一人だけに構っているわけにはいかない。
特に、祈梨と悠人は初めての子なので、何かと不慣れなことがあり、まだまだ大変だ。
祈梨の家には大学生の弟2人もいるから、母親が手伝いに来てはくれているものの、毎日とはいかず、結果、美咲も協力している。
湊人も大学5年で、バイトはしているが基本、実習や勉強で忙しい。
そのため、今年の夏、陽織が家で大人しくしてくれていることに、美咲はすごく助かっていた。
当たり前のことなんだけど!
と、ちょっと怒りながらも。
陽織は退屈を持て余しながらも、毎日姫花と楽しく過ごしている。もうすぐ3ヶ月になる姫花は、夜寝るようになった代わりに、昼間は起きている。
うー、とか、あー、とか言いながら、陽織が作った赤ちゃん用の布絵本を見ていたり、音が鳴るおもちゃを手に遊んでいる。まだ寝返りできないのが幸いで、ハイハイされたら、本格的に目が離せないと、色々片付けもしていた。
お盆を前にした金曜日、陽織がバケットを焼いていたら、湊人からメールがあった。
土日のどちらかで、簡単な料理を教えてほしいと。
ん?誰が?
人数は10人?え、10人!?
わたし料理教室の先生じゃないんだけど。
黎人に連絡したが、忙しいのか返事がなかった。
レイリーもお盆中はお休みになる。
今日を最後に明日から夏休みだ。
鷹人は、幼稚園から帰ってくると、パンが焼ける匂いに気づいて、すぐにキッチンにやってきた。
「パン!パン!僕の好きな、フランスパン!」
「ご飯の前だから、だめ!」
と言うと、えーっ、と残念そう。
今日は黎人が毎年恒例の懇親会で遅いので、鷹人がお風呂に入ると、夕飯にした。
かぼちゃのスープとフランスパン、お魚のムニエル、サラダという組み合わせだ。
「白いお魚と、パン!たっくん大好き!」
今でも、時々鷹人は自分のことをたっくんと言うが、それは甘えたい時だけ。
「たっくん、パン、いくつ食べる?」
と聞くと
「3個、あ、4個!」
と答えた。
んー、食べ盛りだなー。
お箸も上手に使えるようになった。
スープも、音を立てないで飲んでる!
すごい。
「かぼちゃのスープ、今日のは冷たい!美味しい!」
「うん、冷製スープね。」
ふーん、とわかったようなわからないような。
ところで、明日なんの料理を教わりたいんだろう?
それも言ってくれないと、困るんだけど。
「みぃちゃんがね、たっくんが強いのは、ママのご飯食べてるから、なんだって。」
鷹人が笑って言った。
強い!?
あ、霊力のことか。
鷹人は一歳前に、霊を祓ったし、鍵は開けるし、扉もドアノブを掴まないで開けてしまう。式も飛ばした。そのことは、この前黎人に怒られていたが。
勝手に部屋を開けたり、式を使ってはダメ、と。
勝手にやるのは赤ちゃんだけ、と言われてから、部屋もノックすることを覚えた。
陽織はわがままに育ったので、子どもの躾は向かない。たぶん、いいんじゃない?ですませてしまう。だから、黎人にきちんと躾をしてもらうと、助かる。
実際、トイレや食事、着替えなどほとんど美咲かレイリーで習った。
陽織1人だったら、絶対に無理だった!
う、ぽややんってまた言われてしまった。
はあー、とため息をつきながら、鷹人が起きている間に陽織もお風呂に入る。姫花が起きたら大変なので。
「たっくん、ありがとう。もう、お部屋行って大丈夫だよ。」
そう言うと、おやすみなさい、と言って鷹人は一人で自分の部屋に行く。本当にしっかりした、良い子だ!
ゆりかごで寝る姫花を横目に、髪を乾かしている。
ドライヤーの音はうるさいので、手から風を出した。
便利だなー。
あ、でもちょっと寒いかも。
その頃、会社ではいつもの懇親会に、大樹たち新人バイトが参加していた。
大樹たちは前日彩奈に頼まれて、林田の件の依頼を受けた。おかげで、林田とは知らない仲ではない。
とはいえ、どう接したら良いのかわからない。
湊人と宏輝は、慣れているので、色々な人と話している。
すごいなー、湊人先輩。
ところが、そんな湊人を見ていたら、いきなり社長が来て、湊人の頭を叩いていた。
?
「お前、また、断りもなく!陽織からどうしたら良いのか、メールが来たぞ!」
「えー?だから返事がなかったの?前はすぐにOKって言ってくれたのに!」
「千織ちゃんたち3人と、誰かわからない人10人じゃ違うだろう!」
ん?
「あー、千織も行くよ!あとは羽織、佳織さんと、円香、七緒の女子5人.あとは相方。で、10人!」
「なんだそれ?」
「宏輝がさー、陽織のご飯で霊力上がるって言ったら、他の巫女でも、上がるんじゃね?ってなって、それなら教えてもらいたいって。」
「前もそんなこと言って、美織ちゃんと3人来たじゃないか!あのあと、陽織疲れて、夕飯食べられなかったんだから!」
と、黎人が怒った。
「えー、そうなの?あれはチョコレートが原因だと思うんだけど。」
「とにかく、明日来るなら、陽織は見てるだけだからな!材料も持ってこい!後片付けも、みんなでやれ!バーベキューでいいじゃないか!」
「イヤイヤ、バーベキューは料理じゃないでしょう!」
そう言う話の後、黎人は陽織にメールをしていた。
湊人もしている。
たぶん、同じようで、違うこと?
2人のメールで、なんとなくわかった陽織は、あした届く材料次第だなー、と漠然と考えることにした。
懇親会は、その後、綾人がいない黎人は早く帰りたくて、またどこかに消えたり、と、まあまあな感じで終わった。最後に社長からの挨拶、となった時、黎人がいない、と林田が騒いで、社長室で仕事をしていることが判明した。
「なんで仕事なんか、してたんですか!?」
と臨時秘書の林田に怒られて、
「仕事して何が悪い!」
と、逆ギレしていた。
本当にワーホリだ。
とりあえず、黎人の挨拶でお開きになった後、バイト5人はあしたのことで話しをするため、羽織の会社近くのファミレスに移動した。
懇親会でも、全く飲まない黎人は、そのまま車で帰宅した。
子ども2人は寝てしまったので、黎人はお風呂に入るとやることが特にない。夕飯も、懇親会で林田がやたらと色々料理を運んでくれた。
ただいまー、と、2階に上がると、陽織がベットの中で、本を開いたまま、うつらうつらしている。
「あ、ごめんなさい、わたし寝ちゃってた。」
と慌てるけど、特に何もないので、そのままでいいよ、と自分もベッドの中に入った。
陽織も毎日が家事と育児の繰り返しで、ちよっと体力的に余裕がある。
(少しはふっくらしたかな?)
と、抱きながらそう思って、黎人もほっとする。
最近は、うなされることもない。
「愛してるよ、陽織。」
と囁くと、ニコッと笑って
「わたしも。」
と、ぎゅっとしがみついてくる。
そしておでこをクリクリと胸に押し付けてくる。
100年でも200年でも1000年でも。
今度こそは、彼女を離さない!




