陽織、デンマークとの取引(神様の娘編)
社長室内は大勢の男の人が慌しく動いている。
それをみた途端、陽織は回れ右をした。
奥にいた黎人は、回れ右をして部屋を出ようとする陽織を慌てて引き止める。
「ごめんね、陽織。どうしても陽織の力が必要なんだ。」
腕を掴まれて、悲鳴をあげそうになったが、相手が黎人と知って、口を抑える。
そのままキョロキョロする。
「え、と、わたしなんで、ここに?」
「説明はあとで。とりあえず、通訳してもらっていい?」
「通訳?」
黎人は簡単に説明して、神保が綾人に、綾人が陽織に渡した紙を見ながら、相手と話して欲しい、と言う。
何かデンマークの会社がやらかしたらしい、と言うことだけは、わかった。
「それで、どうすればいいんですか?」
「とりあえず、今回の異物混入の素材があったことを話す。そして、責任を持って新しいモノを送ってもらう。それができなければ、賠償責任として、お金の支払い要求をする。そんな流れで。」
そんな、流れ、流れ?無理!無理!相手に責任とれ、なんて!
5時前に、こちらの担当者が相手に国際電話をする。
すると、デンマークのアイラーの担当者がでた。
しばらく英語で話をしていたが、どうやら英語で話しているのは、直接の責任者ではなく通訳らしい。
そこで、陽織に変わる。
「ゴ、モーン。」
と、陽織がデンマーク語で挨拶をし、そのまま責任者に変わるようにニッコリ笑って、お願いする。
テレビ通話にしたのは、これも狙った。
しばらくすると、直接の担当者が出てきて、陽織とデンマーク語で話をしていた。すると、陽織がいきなり
女王様モードになっている?
あれだけ、責任取れなんて無理!って言ってたのに。
陽織の合図で、こちらの拡大写真を見せて、データも見せた。
そのうち、実は他からも苦情が入って、と言うことがわかった。
ちょうど先週、現地で、こちらで言うインフルエンザのような病気が流行り、技術者が大勢休んだ。
そのため、不慣れな新人が作業をした。
一応、責任者が最後に確認をしたが、それが不十分だったため、多くの企業に不適切な商品を発送してしまった、とのことだった。今週からは、それが元に戻っている。と言う話で、順に適切なモノが届くだろうとのことだった。
「えーっ、それは困りますわ!できればこちらを最優先にしていただけませんか?お願いします。」
と、陽織が最後にニッコリ笑った。陽織の笑顔に、相手の責任者の顔がデレデレしている。
そして責任者が、もちろん!と答えたので、
「絶対ですよ!今週中に、絶対、絶対お願いしますね!」
と、告げて、そのあと、笹神に変わった。
テレビ通話じゃなかったら、黎人は相手を殴ってやりたい、と思いながら、その様子を見ていた。
陽織はお役御免になると、周りを男性が囲んでいたことに気づいて、そのまま固まった。
「陽織!」
黎人は慌てて、陽織のそばに駆け寄る。
「ありがとう、助かった!」
「ウエーん、怖かったー!」
陽織は、散々、流暢なデンマーク語でやり合っていたのに、いきなり泣き出す。
「そういえば、途中からなんか言葉の雰囲気、変わったけど?」
と黎人が聞くと
「アイツ、お嬢ちゃん、いくつ?って聞いてきたのよ!バカにして!だから、あら、おじさまのお歳の十の位と一の位を逆にした歳ですわ、って答えた!」
「?それって何歳?」
「25歳!」
「イヤイヤ、盛りすぎだろ!」
「失礼ね!これでも22なんだけど!」
その後、話がまとまって、資材の部長、営業部、総務部、そして研究開発室長から陽織は労いを受けた。が、本人は、怯えて黎人の後ろに隠れている。
「いや、しかし社長の奥様がデンマーク語ができるとは、驚きですな。」
「たしかドイツ語もできましたよね。コシロの秘書課長から伺っています。」
と、次々に陽織に話しかけてくる。
陽織は怖くて早く帰りたい。
「黎人さん、陽織、もう帰っていい?」
黎人の背中で、陽織が小声で言う。
「あ、少し待って。おおよそ原因と今後のことが決まったら、あとは各自に任せて帰れるから。奥で待ってていいよ。」
そう言われて、陽織は綾人に案内されて執務室に入った。外では、まだ各担当の長が騒いでいる。
10分ほど経つと、やっと静かになって、黎人が入ってきた。
「今回のことは、湊人も労ってあげなくちゃ。」
「湊人?」
「うん、湊人が最初に気づいた。」
そうなんだー。と、陽織は感心した。
よく見ると、陽織は普段家にいる時の格好のまま来ていた。しかも、すっぴんだ。それも、お嬢ちゃん、と呼ばれた理由だろ。そう思うと、黎人は吹き出しそうになる。でも、それだけ急いでくれたんだ、と嬉しくもなった。
「それじゃ帰ろうか。」
黎人は陽織の手を握り、また周囲から隠すように部屋を出て駐車場へ向かった。
一応、陽織も社員証は持ってきた。
そのまま黎人の車で、陽織は家に戻った。
今日は姫花のことも、鷹人のことも、美咲一人にお願いしてしまったので、大変だっただろう。
「ただいま戻りました。」
と、陽織が声をかけると、鷹人が
「おかえりなさーい。」
と、玄関に飛び出してきた。美咲も一緒だ。
「ありがとう、母上、急なお願いを聞いてもらって。」
「本当よ。主人から電話があった時は、何事かと思ったわ。陽織ちゃんの手を借りたいからって。」
「うん、助かった。湊人にも、ありがとうって伝えておいて。後で謝礼するって。」
「謝礼?」
「ん、感謝状?まあ、父上と相談する。」
そう言いながら、黎人がネクタイを外して、ワイシャツを脱いでいる。
陽織はワイシャツを受け取ると、そのままランドリールームに行く。
黎人はそのまま上に上がると、Tシャツとチノパンで降りてきた。
陽織は姫花を抱いて、何か話している。
まだ、お腹を空かせてないらしい。が、陽織の匂いに気づいて、甘えて泣き出す。




