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陽織、若手の起用(神様の娘編)

林田たちが家に来た翌月曜日、黎人の元に彩奈からSOSのチャットが入る。

そういえば、今朝は林田に会っていない。

林田が明王大病院に緊急搬送されたらしい。


林田の話を聞いているうちに、彼が大神の血を引く者であることが分かった。

祖母の母親が奈良の大神家の出身だったが、能力が全くなく、一般の男性と結婚して東京に出ていた。

その後、祖母はわずかに視える人だったらしいが、それ以外の人は全く能力がないため、林田本人は単に一般の人にしては、感がいい、視ることができる、というまま大学生になってしまったらしい。


その林田が、どうして?

黎人と綾人が慌てて神鬼のところに行くと、彩奈がいた。

「一体何があったんですか?」

彩奈に聞くと、昨夜のことを話し出した。どうやら昨日は普通に帰宅した後、2人で外に食事に行ったようだ。

その帰り、いつもは見かけない店を見つけて、彩奈は少しヤバい、と思ったらしい。

林田の腕を掴み、とにかく急いでその場を離れた。

その後、なんとか家に帰ったが、林田が何か怯えたような顔をしていた、と言う。


そして今朝、全く起きてこなかった。

熱があるわけでも、苦しそうにしているわけでも、何かあったわけでもない。

ただ眠っている。

「どうしますか?社長。」

綾人が聞いてくる。

「まずは、その店、とやらを見てみたいな。」

と言うが、綾人は違う!と言いたげに睨んでくる。


「とりあえず、我が社の社員が巻き込まれた案件として、神嶋さんに依頼を出します。」

と、言い直して綾人を見ると、うなづかれた。

「彩奈さんは、ここにいて下さい。我が社の社員が巻き込まれた、ということで、これから僕が神嶋さんに依頼を出します。大至急で。」

黎人はそう言うと、綾人を連れて部屋から出て行き、神嶋に連絡をとった。

神嶋も、彩奈から今朝話は聞いていたが、何せ人手不足なので、どうしたものか、と悩んでいたらしい。

これが、黎人からの依頼となれば別だ。

黎人が依頼を出せば、それなりのお金が動く。

お金の額は国が出す依頼の比ではない。

一流の術者が集まる。


黎人と綾人が会社に戻ると、彩奈の元に翔太と洸太、葉鳥、幸穂、そして大樹と円香、陸斗と七緒が現れた。翔太と洸太は義理とは言え、兄になった人だ。

大学生になった大樹と陸斗は、初めて大人と同じ扱いの仕事になる。

彩奈は、昨夜の話を8人にする。

いつも通る、自宅近くの商店街。

そこにはない、見たこともない店がポツンと一軒あった。本来、そこは何年も前に潰れてしまった古い店があり、今は駐車場になっているはずだった。

しかし、その店の姿は、他の人には見えないのか、行き交う人は見向きもしない。


一瞬、林田がその店の方を見たことで、彩奈も気づいた。そこには前に潰れた店とも違う、さらに古くさい店があった。まるで、昭和初期のドラマに出てくるような。

しかし、その姿はどうみても不安しかなく、彩奈は林田の腕を掴むと、すぐに去った。


その晩は、特に何事もなく、そして翌朝。いつもなら彩奈よりも早く起きて、支度をする俊介が眠っている。しかも、普通の眠り方ではない。

まるで魂が抜けてしまったかのような。

彩奈は何度も起こすが、全く目覚める様子がない。

すぐに神鬼に連絡をいれ、そのまま救急車を呼び、搬送してもらった。


「それじゃ、まずはその店があったと言う場所に行ってみよう。あと、どちらか2人は林田さんについていてほしい。何か変化があるかも知れない。」

そう言われて、陸斗と七緒が病院に残り、他の6人は現場に向かった。


昼休み、黎人はお弁当を食べながら林田のことを考えている。

「付きまとわれ体質なのに、今まではこう言ったことはなったらしい。どうして急に。」

黎人が考え込むと

「昨日、社長のお宅にいらしてたんでしたね。」

「ああ。」

「陽織様とは?」

「普通に会ったが?」

綾人は、答えて良いのか迷うようなら顔で、話し出す。

「陽織様のちからは色々な霊が好む、と言われますよね。でも、普段は厳重なお守りやら結界に守られている。もし、憑かれやすい林田くんに、陽織様の残り香のようなものが残っていたのなら。」

「いやいや、全く、触れてもいないぞ。」

と、言いかけて、ふと思い出す。

昼食の時、陽織が皿を出す手に林田が触れて、慌て離す、というシーンはあった。林田も陽織もびっくりしたが、そのあと彩奈が大袈裟に陽織の手を消毒する、ということがあり、笑い話になった。

触れたとしたら、それくらいだ。それでも、その妖か悪霊が陽織のほんのわずかなチカラに引き寄せられたとしたら。


「だいたい、そんなことがあったら、僕は今頃悪霊の餌食だ。」

と、黎人が言うと

「お守りを作ってる社長に近寄るヤツはいないでしょう。」

と、綾人に返された。

「もし、そいつが林田に取り憑いたなら、もう現場にはいないかも知れない。むしろ、病院が危ない、が。」

そこで黎人は考える。

病院には神鬼がいる。

あの瑞姫でさえ、騙せなかった神鬼が。

「まあ、任せるしかないか。」

本音は納得していないが、今はそう言うことしか黎人にはできない。依頼主としては。


「うー、ストレス溜まるー!!」

「すぐ現場に飛び出したがるクセ、もうやめて下さいね。コシロの時で、懲り懲りです!」


そうだ!健康食品コシロを任されていた時は、まだ大学生という肩書きもあったから、時々、それを口実に現場を飛び回っていた。

だいたい、会社経営なんて、机に座ってなくたってできる!最初の一年でよくわかった。

そのあとは、まずは陽織、その次は術者、そして大学、最後に会社、と言う優先順位で行動していた。

なのに、今は第一が会社にされている!陽織のことさえ、二の次なんて!

ストレスが溜まるはずだ!


結局、現場に行った6人は、2人が見たと言う古い店と遭遇することなく、その日は過ぎてしまった。

一方、病院の方では、林田が急にうなされたり、苦しむ姿が見られたと、いうことだ!

洸太は林田本人に取り憑いていることに考えを変え、引き離す戦法に軌道修正する。


夜、その報告を陸斗から受けた黎人は、

「引き離すって、一体どうやるつもりだ?」

と、呟いた。

だいたい、取り憑いたものの背景や、存在そのものもわかってないのに。

危険臭がする!

「どうしたの?黎人さん?」

鷹人のお風呂の準備をしながら陽織が聞いてくる。


「引き離すって。」

「ああ、ちょっと仕事の件で。」

黎人は誤魔化した。

陽織には知られないように。

陽織が知れば、おそらく出張ってくる。

陽織の力なら、確かにキレイに浄化できるかも知れない。林田をすぐに助けられるかも。

でも、今の陽織は姫花のことで手一杯だ。それ以外のことで、チカラを使わせたくない。


黎人はすぐ大樹に、現場で見つからなくても、何か情報は得ているのか、と言ったチャットを送った。

しかし、大樹からは

「特に何もわかっていません。」

と言う返事だった。

  それで引き剥がすのかー!?







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