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陽織、林田の事情(神様の娘編)

黎人は彩奈のほうを見ると、彩奈はバツが悪そうに、顔をにやけさせた。

「実はさ、黎人にそのことを話しておこうと思って。」


林田と彩奈が出会ったのは、大学生の時。

彼は経済学部だったが、一年生の時に取った一般教養の日本文化のフィールドワークで、彩奈と一緒になったらしい。

山間の村で日本の原風景についての、レポートを書くという作業をしている最中、突然林田が何者かに付け狙われた。林田本人は、慣れているのか

「あっちへ行け!」

と叫んで、逃げ回っていた。

が、誰も林田が何から逃げているのかわからない。

唯一わかったのは、彩奈だけだった。

彩奈は、林田を付け回しているのが、その山に住むいたずら好きな餓鬼だと気づき、そのまま祓うのではなく、話しをして林田から離れてもらった。

それが二人の出会いだった。


林田は視える人間と、それまで会ったことがなかったため、感動し。彩奈に感謝し、付きまとうようになった。もちろん、彩奈がきれいということもあったが。

彩奈は、林田が軽そうに見えて、実はまじめで誠実なことに好意をもち、徐々に付き合いを始めて。

もともと、彩奈は術者だけど巫女ではない。力を使ったら食べて回復するタイプだ。

姉御肌で、後輩重い、正義感が強い彩奈にとって、おちゃらけて話す林田は、最初はウザイ存在だった。

しかし、そんな彼の本当の姿を知るうちに、術者仲間とは違う、まったく違う世界の人なのに、自分を理解してくれるというのが、居心地がよくなった。


やがて、彩奈は警察に、林田は大学院に進んだが、様々な企業から内定をもらうも、唯一居心地のよかった神代製薬に就職を決めた。


その話を聞くと、黎人は

「なんでもっと早く話してくれなかったんですか?」

と彩奈を睨む。

「ちょっと待て!私は俊介を術者にするつもりはないからね!関係ないからいいんだから!」

と彩奈に返される。

「でも、18年も大変だったでしょう。」

黎人が林田に言うと、林田はあはは、と笑い飛ばした。

「まあ、慣れっていうか、知らないうちに居心地がいい場所を探していた、っていうか。」

それが明王大学で、彩奈で、神代製薬だったらしい。

確かに林田はT大学も合格していた。大手商社や銀行からも内定をもらっていた。

「それに、ただ視える、付きまとわれる、逃げる、ってだけですから。」

と林田は答えたが、

「いや、逃げることができるだけでも、力がある程度ある、ってことです。」

と黎人は力説する。

ほしい!今の人で不足で、貴重な存在を見つけたかもしれない!

と、内心思っていると、二階から陽織が姫花を連れて降りてきた。


陽織が姫花を抱いている姿を見て、彩奈が目を輝かせる。

「うわ!その子が姫花ちゃん!かわいい!」

陽織は彩奈に姫花を抱かせると、彩奈は嬉しそうに、ほっぺを触ったり、足を触ったりしている。

そして、陽織はまた黎人の横後ろに隠れるように、ソファーに座る。

「だから、林田さんは危なくないから大丈夫だよ。」

黎人が笑う。

「そうだ、陽織、彩奈さんが桃のタルトを持ってきてくれたんだよ。」

桃!と聞くと、陽織は顔をほころばせて、キッチンへ行きさっそくいただいたタルトを、切って持ってきた。

「陽織、桃好きだもんね。自分の使役している白兎様にまで白桃って名前つけるくらいだから。」

彩奈に笑われても、気にせずみんなの前に切り分けたタルトを置いた。

そして、座ると黎人が怪訝な顔で陽織を見た。

「何?」

「なんか、ちょっと疲れてる?もしかしたら、力ちょっと足りなくなってる?」

「え?大丈夫、だよ?」

と答えるが目が泳いでいる。

もう!というと、黎人が素早く陽織にキスをした。

その光景に、林田は唖然とした。

「あ、俊介、気にしないで。普通に霊力分けているだけだから。ねえ、姫ちゃん!」


「でも、陽織も大変だね。子ども産むたびに霊力を半分くらい持っていかれるんでしょう?」

陽織はコクコクとうなづく。

「もしかしたら授乳でも?」

と聞くと、さらに小さくうなづく。

これじゃ、依頼どころではない。依頼なんかうけたら、霊力不足でかなりやばいことになる。

「え?術者の人って、子ども産むと霊力を奪われるの?彩奈も?」

「んー、たぶんそうだね。でも、彩奈さんは元が普通だから。なくしても半分くらいだから、そのあと食べれば、十分に補給できると思うよ。」

いつの間にか黎人が話しに加わった。

「一番怖いのは、祈梨さんみたいに本来力がない親から生まれた時かな。よく祈梨さんのお母さん、無事だったと思ったもん。うちの母上だって、意識を失ったっていうのに。」


意識・・・。

かなり物騒な話になり、林田は顔色が悪くなる。

「陽織は食べないんだもん!だから、ほら、陽織が好きな桃もってきたんだから、きちんと食べて!」

彩奈に言われて、陽織はフォークを桃にさして、口に入れた。

「おいしい!」

と陽織の顔がほころぶと、林田は顔を赤くし、黎人に睨まれた。

「陽織、あっち向いて食べていいよ。」

?

黎人がわかりやすく、林田に陽織の顔を見せない、という言葉をいうと、彩奈が笑った。


「その、それでですね、みんなの手前ちょっと言えなかったんですが。」

と、林田が目を逸らしながら、

「実は彩奈も、その、2月、予定日でして。」

と言う。


え?

ホントに!?

待って!

「ちょっと、彩奈さん!現場わかってる?今、すっごく人手不足なんだけど!」

と、黎人が立ち上がる。

「ちょっと、黎人さん!ダメだよ。おめでたいことなのに。」

陽織に止められる。


陽織がいない、

美織も祈梨もいない。

絵梨花も。

と言うことは、パートナーも全力で戦えない。

黎人は別として。

ここで、かなり戦闘能力の高い彩奈まで前線からいなくなる。

また湊人や羽織、幸穂たちの負担が増える。

怒られる。しかも、来年湊人たち理系組は国試だ!

「ネェ、黎人さん、わたし、その、もうそろそろ大丈夫、だよ?」

「はあ?そんな青い顔で、体重も全然減ったままで、何言ってんの?」

ブーと、陽織が膨れる。


「ほら、だから俺ちゃんと社長に教えてもらって、彩奈の代わりに。」

と林田が言うが、それに関しては、3人から

「ダメ!」

「無理だよ。」

「危険です。」

と、否定された。


「確かに俊介さん、欲しいけど、彩奈さんがダメなら結果ダメだよ。危ないし、僕としては、普通に会社の仕事頑張って欲しいです。」

と、真面目に言われた。


「陽織も、体重が40キロ超えたら、連れていくね。」

と言われて、無理じゃん!と怒った。

「わたし、体重が40キロ超えるのって、いつもたっくんや姫ちゃん生まれる前じゃない!無理に決まってるよ!」

「はい、それならもっとダラダラして食べる。」

「ダラダラして、食べるって。」

林田が笑った。





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