陽織、林田の訪問(神様の娘編)
6月の終わり、黎人は林田に誘われて、この前話をしたメンバーで夕飯でどうか、と言われた。
陽織のことは心配だったが、美咲がたまには行ってこいというので、任せることにする。
もしかしたら、陽織がお仕事をしてあこがれていることって、こういうことなんだろうか。
メンバーの中には綾人もいて、あの後何を言われたのか、少々気になる。
待ち合わせは店に直接。会社内の人にはあまり知られないように、という気配りがあった。
「あ、綾人こっちこっち。」
と、林田たちが綾人を手招きしている。
いつの間に名前呼び、しかもタメ口。
黎人は綾人の方を見たが、綾人は素知らぬ顔で手を振りかえしていた。まるで昔からの友人のように。
「俊介さん、いいお店知ってるんですね。」
綾人も林田をさん付けではあるが名前よびだ。
他のメンバーも、席に着くと、飲み物を注文する。
居酒屋、というからちょっと身構えていたが、お洒落な個室のある店で、小料理屋に近い。
「あ、僕アルコールは、」
と黎人が言うと、
「あれ?前、社長飲んでましたよね?」
と聞かれた。
「え、と。本当は苦手なんだけど。」
と言うと、綾人が
「黎人くんは、会長命令で、アルコール厳禁なんです!」
とズバッと答えてくれた。
そこまで言わなくても。それにしても、なんか自分だけ呼称で呼ばれるのは、嫌だなー。
「それから、その、外では、呼称はやめて欲しいかも。その、社長っていうの。」
と言ったら、5人は首を捻って考えていた。
「んじゃー黎人、くん?」
!なんか一気にバカにされた気がする。
「じゃあ、あらためまして、かんぱーい!」
と、林田の隣りにいた、黎人と同じ歳の広報室の神川朔弥が音頭をとる。
林田は明王の薬学部を出た、同期の町永とも仲がいいようだが、研究職なのでここにはいない。
他には、やはり林田と同期で院卒の、粟島駿。同期で学卒の金島啓太、松居孝明がいた。
林田と粟島の2人は文系院卒ということもあり、周りの兄貴的な立ち位置だった。
この中でも、1番年下は朔弥と黎人なので、確かにくん付けで呼ばれても仕方ない。
「はい、ではまず黎人くん、この前の件皆さんに謝りましょう。」
綾人に言われ、黎人は目を丸くする。
「この前の件?僕何かした?」
「皆さんを呼び出しておいて、自分はさっさと帰っちゃったでしょう?」
黎人は目を逸らす。
「えー、一応帰る、って言ったじゃん。」
なんだ、この駄々っ子みたいな男は?
「そういえば、黎人さん、一時顔色悪かったしお弁当もなかったけど、奥さんと何かあったんすか?」
と、啓太が聞いてきた。
え?いきなり、あ、さん付けだ。
「え?あ、陽織がえ、と妻が高熱出しちゃって、入院しちやったから。」
「え?そんなことあったんですか?」
綾人まで驚く。まあ、当たり前か。
みんな知らないから。
「もう、大丈夫なんですか?」
と、駿が聞いてくる。彼も妻帯者だ。
「うん、退院して先週から普通に生活している。」
なぜか全員が心からほっとしている。
「小さい子がいると、妻の病気って応えますよね。」
駿が続けた。
「あー、粟島さんのウチもまだ小さいですよね。」
確か昨年、育児時間をとっていた。
「はい、女の子で、やっと2歳になります。」
などと、いつのまにかあ、妻帯者4人の話を独身3人が聞く、という図になっている。
「綾人は?絵梨花さん、いつだっけ?2人目。」
「8月の終わりです。」
「え?じゃあもうすぐじやん!いいの?こんなとこにいて。」
と林田が気を使う。
「大丈夫ですよ。今日は実家の義母もきてますから。」
「陽織、様は?」
「うちも、今日は母が。」
「美咲さん?」
「うん、なんで?」
「いや、絵梨花が最近、東山先生と仲が良くて、色々相談されるらしく。」
「相談?」
「陽織様のことで。」
疑問を浮かべる5人に、産科の医師だと教えた。
「それが、その。陽織様は美咲さんとご一緒の時は大変淑女のようだと。」
黎人は目を丸くする。
そして吹き出した。
「もしかして、綾人心配してる?」
「あ、はい。その、もしかして陽織様は美咲さんの前では常に、その。」
それをそばにいた5人は
「え、と。黎人?さん?それ、俺たち聞いて良い話?」
「あ、あー。大丈夫!陽織のことは、ほらビデオレターでみんなは見ているから。」
「ビデオレター?」
綾人は結婚式に出ていないので、知らない。
「陽織の変わり身だよね。陽織ってさ、なんというか話す相手とか、話す場合によって、コロコロ変わるんだよね。さすがっていうか!僕ともそう。まあ、僕もだけど。
機嫌良いときとか、怒ってるとき、とか、真面目にやるときとか、ふざけてるときとか、全然違う。
たぶん、母上と東山先生のところに行った時は、変なこと言って、後で怒られないようにしてたんじゃないかな。あはは。
あ、僕と2人の時に、東山先生に''しつこい“って言って、怒られてた。
その前は、先生に“うざい“って言ったらしい。」
黎人は笑っているが、主治医に、うざいって。と、他の人は驚く。
(そんなこと、いう子に見えない。)
「家にいる時は、母上相手でも、結構言いたいこと言ったりわがまま言って、怒られている時もあるよ。でも、陽織は基本、母上のお気に入りだから。可愛がられてるっていうか、可愛がりすぎ?。」
「良いなー、ウチは俺も彩奈も兄弟多くて、あんまり実家に関わることってないから。学生の頃から同棲してたし。関わるって言ったら、この前の結婚式の時くらいだし。」
「えーっ!?」
それこそ、黎人たちは、全く知らなかった。
「でも、子どもとか生まれれば違うんじゃない?」
「そうそう!同棲してたなら、もういるんじゃないの?」
周りの友人たちが林田をからかう。
しかし、
「ないかなー、俺たち7年一緒にいるけど、彩奈の仕事が仕事だから、すれ違い多いし。」
と、林田は笑う。
林田と彩奈が、それほど長い付き合いだったなんて、術者仲間は誰も知らなかった。
「結婚かー、良いのかなー?俺も、彼女になんか早く、とかいわれてるけと、まだ、そんなとか思っちゃって。」
と、孝明もぶちまける。
黎人の手前、仕事の話はなく、ほとんどが子どもや奥さん、彼女と、まるで普通の友人のような話しが3時間近く続いた。
気づくと、黎人はほんの少し飲んでしまっていた。
まあ、これくらいなら酔わないが。
帰り道、大きなため息を吐く黎人に、周りがどうした?と聞いてくる。
「陽織が。」
綾人は、まずい!と思う。
「お酒の匂い、全くダメなんだよねー。」
「えーっ、そうなんすかー?」
「すっごい、敏感!」
黎人がダメ、と言った理由がわかった。
「ねえ、わかると思う!?」
と、言うと、朔弥はわからない?と言う。
まあ、普通のやつならそうだろう。
「でも、違うんだ!ほんとうに、敏感なんだ!どうしよう!」
真面目にしゃがみ込む。
頭を抱えている。涙目になっている。
あの、黎人が!
「大丈夫ですよー。帰るまでに電車も乗るし。」
「無理!警察が持ってる、飲酒運転の検査機みたいなくらい!絶対、怒られる!」
え?実は恐妻家?
「じゃあ、ガムがいいですよ!」
「ミント系タブレットがいいですよー!」
「歯磨きタブレットは?」
と、口に次々に色々突っ込まれる。
うーっ。
「綾人ー、ちょっとキスしてみてー、わかる?」
「嫌ですよ!何言ってんですか!?」
完全に会話が酔っ払いモードになっていた。
7月の日曜日、彩奈と林田夫妻が、黎人の家にやってきた。
姫花ももうすぐ二か月を迎える。少しだけ目を合わせて、あーあーというようになっている。
中でも鷹人が好きなようで、手を出すとぎゅっと握ってくる。
兄妹仲良く大変嬉しい。
特に、霊力的なところが似ているのか、二人でいると心地よいらしい。
林田夫妻は、はじめて来る黎人の家の大きさに、,玄関前で口をあんぐりと開けている。
「都内でこの豪邸、って。」
「さすが、黎人さん、って感じだよね。」
そして、いつものように黎人が陽織と二人玄関に出迎えると、さらに屋内の広さにも驚く。
まずはいつもの通り、リビングに通してお茶を出す。
暑い季節になったので、冷たい麦茶にした。
「外は暑かったでしょう。」
と黎人が言うと、林田はそれでも、何と答えたらいいのかわからず、戸惑っている。
なぜ?
「あ、あのこちら。」
と彩奈が手土産を黎人に渡した。
「あ、お気遣いいただきありがとうございます。」
と挨拶をする。
陽織は、黎人の横斜め後ろに座り、林田から見られないよう、こっそりと隠れている。
「あれ?彩奈は初めて?」
と聞くと
「うん、小さいころ母屋のほうには、行った記憶がうっすら。」
と言われて笑う。
「でも、彩奈さんの家のほうが広いじゃない。」
と黎人がいうと、
「いやいや、あれはほとんどお寺と墓地だから。」
と嫌そうな顔をした。
陽織はまだ、黎人の裏に隠れてる。
どうも林田が苦手なようだ。
おそらく、あのエレベーターでストーカーされたのが原因だろう。
「え、えと、社長?なぜ、その奥様は。」
と聞くと、陽織はますます黎人の背中にしがみつく。
そして怯えている。
「俊介、陽織に何かした?」
と、彩奈が林田に聞いている。
「いや、エレベーターで待ち伏せしただけ。」
と、悪気なく答え、彩奈に怒られた。
「え!?」
と驚き、陽織の方へ向く。
「陽織、ごめん。ウチの夫がおバカな事して。その、怖くないから!バカなだけだから!」
黎人も、陽織の手を握ると、大丈夫だよ、と声をかける。
「陽織、ほら彩奈さんのご主人なんだから、怖くないよ。」
と。
しかし、林田本人は、と言うと
(なんだ、この可愛い小動物みたいな子は?)
と、声に出そうになった。可愛すぎる。
「あれ?そういえば息子さんは?」
「あ、たぶん自分の部屋。呼んでこようか?」
と黎人が立ち上がろうとしたので、陽織^_^制して自分で呼びに行った。
「陽織、相変わらずの男嫌いなんだ。」
「え?男嫌い?」
「嫌いっていうか、苦手?よく、2週間とはいえ、会社で仕事してたなー、って少し感心した。あ、同級生は違うんだって、湊人たちは男にカウントされてないみたい。」
あははは、と彩奈と黎人が笑った。
「そうか、俺はちゃんと、男と認識してもらってたって事ですね!」
なぜか林田が嬉しそうだ。
そして数分後、鷹人は降りてきたが陽織はいない。
「あれ?ママは?」
と聞くと、姫花の授乳中らしい。
「姫ちゃんが落ち着いたら、連れてくる、って。」
と言う、幼稚園児らしがらぬ受け答えに、2人は驚く。
「あの、これはその、跡取り教育、と言うものなのでしょうか?帝王学?」
と、林田が訳のわからないことを言い出す。
「え?鷹人はまだ年少さんだよ?何言ってんの?」
鷹人は2人に、初めまして、と挨拶をして名乗る。
やっぱり、ちがう!
「それにしても、明王大学といい、神代製薬といい、社長の家といい、なんか居心地がいいですね。」
林田が突然言い出した。
黎人は目を開いて、林田を見て、そのあと彩奈を見た。




