陽織、子どもは可愛い(神様の娘編)
そう言えば、
と、陽織の気を紛らわそうと、陽香が話し出した。
「鷹人の七五三の用意はもうしたの?」
?
「たぶん、黎人さんがしてると思う。なんで?」
「鷹人が七五三なら、大地もよね?」
そうか、同じ歳になる。
「あのね、この前和嶺の結婚式の時思ったのだけど、高嶺と梓沙さんの結婚式、簡単に済ませてしまったじゃない?だから、七五三くらいは、ちゃんとやってあげたいって。」
なるほど、と陽織も思った。
「今週末には、姫ちゃんのお宮参りもあるし。美咲はそういうところちゃんとしてるから。」
高嶺と梓沙は、高嶺がまだ学生の時に結婚したので、披露宴をやっていない。
「天神さんも、変な人よね。一人娘なのに、いい加減っていうか。剛樹の跡取り云々はあんな派手にやったのに。」
たしかに。
陽織は蓮也の言葉を思い出す。
大事な娘というなら、高樹のように嫁にやりたくない、守りたいと思うものだと。天神には、そういう気持ちがなく、まるで娘を道具にように見ている、と。
黎人はその言葉から、梓沙の父親が、大和ではなく、違う人間なのではという考えに至ったらしい。
「ねえママ、自分の子はやっぱり可愛い?」
「当たり前じゃない!陽織が黎人さんと結婚するの、どれだけママだって、本当は早すぎる!って思ったが。できれば、大学卒業するまでは、待ってほしかったわ。それなのに、陽織ったら、もう!それじゃなくても、陽織はカナダとかドイツとか、本当に一緒にいられなかったんだもん!陽織が京都にお嫁になんか行ったら、ママついて行くわ!」
「え?それは嫌かも。」
姫花がスヤスヤと寝ると、陽織はゆりかごに横たえた。今日は、一階のリビングにずっといる。
1人なら2階の寝室で、1日過ごすつもりだった。
お昼も食べずに。
陽香は、そんな陽織のことが、わかるのかな?と、思ってしまう。
陽香と2人、お茶を入れて陽香が持ってきた、ケーキを出した。
「ピアノは姫花の部屋に置いたの?それじゃ陽織が弾けないじゃない。」
「別に、わたしはいいよ。それより、うちにあるわたしの部屋、もう、片付けていいよ。特に、あの、スケートの、衣装がある、部屋。」
「どうして?そんな寂しいこと。」
「だって、高嶺兄様の部屋、もう、あまり荷物ないんでしょ?それなら2階の三部屋、和兄様と美織ちゃんが使えば、一緒に暮らせるよ?」
陽織の言葉に陽香はあ、となる。
「あのね、美織ちゃんも赤ちゃん生まれるでしょ?陽織は、美咲お義母様がいるから、何かとお願いしてるけど、美織ちゃんは大変だと思うの。梓沙さんも大変だけど、その、やっぱり誰か頼れる人が近くにいると、安心かな、って。」
陽香はそんなこと、思いもよらなかった。
うちは狭いから一緒には暮らせない。
高嶺は、天神の土地を借りて家を建てた。
今や、その全てが梓沙と高嶺のものだ。
陽織は、結婚する前から神代の親が家を建ててくれていた。
和嶺と美織は。
神月の家は、余るほど広くない。
美織の実家も広いが、まだ弟たちがいる。
となると、いずれは神月の家を受け継ぐことがあるとしたら、和嶺たちだ。
でも、まだ一緒に住みたい、とは思わないだろう。
せめて、二世帯なら。
「ウチも、ココみたいに広かったらね。黎人さんの家だけでも、うちの倍はあるもの。」
「そうなんだー。」
陽織はよくわからないみたいに、答える。
「だいたい、陽織は黎人さんのお給料ってちゃんと把握してるの?」
?
「知らないよ?お給料なんて、教えてもらったことないもん。よく、それ言われるけど、黎人さん陽織に教えてくれないもん。そういうところは、前から。陽織は知らなくていい。陽織は心配しないでって。」
陽織はそう言って、ちょっと膨れる。
「年間で、10億くらいだよ、って言われた。税金とか色々引かれると、ろく?なな?でも、10億が大きすぎてよくわからない。」
「?10?お、く?え?ちょっと、それ。なに?高樹さんも、すごいなーって思ったけど、10倍以上じゃな、い!」
陽香が目を丸くする。
「だから、よくわかんないって言ったのに!」
「だって、前にわたしが着たドレスも、300万?くらいで、アクセサリー入れると、1000万くらいって、お義母様言ってたかな?でも、あれはあの、議員とかを脅すためだったから、いいんだって。」
「陽織、なんて贅沢。」
「別に、わたしが欲しいって言ったわけじゃないもん!結婚式の時だって、陽織あんなに何枚もドレス着たくなかったし。」
「ほんとうよ!美緒ちゃんの時に、お値段聞いて、びっくりしたもの。流石にウチでは無理って言っちゃったわよ!」
わたしが欲しいわけじゃないのに!!
と、陽織は怒ってる。
「それに、陽織はもう赤ちゃんいらないっていうのに、3階改築して子ども部屋増やすからって。やだよー。いつも苦しいのは陽織なのに!」
美織もそれなりに悪阻はあるが入院するほどじゃない。梓沙もだ。
陽織はひどい。毎回入院してなんとか持ち堪えている。出産は普通よりちょっと大変くらいなのに。
そのうち、お昼近くなって、陽香がそうめんを用意していると、姫花がぐずり出した。陽織が抱き上げて、笑いかけながらオムツをら取り替えている。
そのまま、授乳もして、また何か話している。
鷹人の時もだけど、陽織が赤ちゃんに話す言葉が陽香には、よくわからない。
一体何語なんだろう?
そうめんの用意ができると、リビングのテーブルに並べた。そうめんなら、陽織も食べやすいし、多少は食べられる。
姫花を代わりに抱いて、陽織を先に食事させた。
そうめんの上に、きゅうりや鳥のささみ、卵なども載せて、少しでも栄養をつけさせるようにした。
「あ、明日は1ヶ月検診なの。」
そう陽織が言うので、ついていく約束もした。
翌日、陽織は陽香と一緒に病院へ行った。
今回は美咲は用があるので、高樹が車で迎えに来た。
しかも、なぜか高樹がついてくる。休みを取ったらしい。
「なんで父様まで!」
午前中は姫花の検診。
姫花はあの4日間があったので、鷹人ほどは発育が良くなかった。陽織はそれが心配だった。
小児科の医師は後ろから高樹が睨むように見ているので、少々気の毒だった。
午後の陽織の検診で内診が終わると、また2人が入ってくる。
「だから、なんで父様ついてくるのよ!外でママと待っていてよ!」
東山が苦笑している。
「あの、陽織さん?わたしまだ、許可してないと思うのですが?」
何を?と、聞きかけて、あ、と思う。
なんでわかるの!
「え、と、その。すみません。」
陽織が下を向く。
「別に、その、無理矢理、とかじゃないですよね?」
と言われて、後ろで聞かれているのが、怖い。
陽織が返事ができない。
「その、ご想像に、おまかせします。」
と、陽織は後ろをチラチラ見ながら答えると、東山も察したのか
「あの、院長先生?その、女性ではないとお話しにくいこともありますので。」
と、退室してもらった。
「あ、えと。わたし先週高熱出して4日、神鬼先生のところに入院してたんです。」
すると、すぐに東山が電子カルテの履歴を確認する。
「それで、神力がなくなっちゃったみたいで。」
そこまで話すと、なんとなく理解してくれた。
「でも、昨夜は関係ありませんよね?」
なんでわかるの?
怖いんだけど!
「あ、それは、その。」
陽織は返事に困る。
「その、もうすぐウチ増築するんです。」
?
「子ども部屋が3つじゃ足りないからって。」
3つもあるのに?
「その、男の子は3人以上って。」
うわっ、何その明治みたいなの!
「主人も、3人兄弟ですし。義父も、義祖父も。」
陽織が考え込む。
「その、男の子が1人で何かあったらって。跡取りがいないと、困るから。」
「だからって、その、昨夜は関係ないですよね?」
陽織は無言になる。
「あのねー、退院の時も言ったけど、ちゃんと嫌な時とか、ダメな時、とかきちんと言わないと。」
「う。」
わかってるけど‥。
でも、他の女の人となんて、嫌だ!
「わたしの都合も、ちゃんと聞いてくれますよ?でも、その、わたしより、忙しいので、その、大変だし。そういうのを、ちゃんと労うのも、大切って。」
「ご主人が?」
「あ、いえ、その義母が。」
東山はだんだん陽織が気の毒に見えてくる。
これは一度院長先生と、相談しないと。
そう、考えた矢先
「あ、でも、父様には黙っていてください。わたしの、その、問題なの、で!」
「でも、自分では嫌だ、って言えないのでしょう?」
そういわれてしまうと、否定できない自分が情けない。
「わたし、あまり役に立っていないから。」
陽織が下を向いてしょんぼりする。
「役に、って、そんな大変な思いをして二人も子どもを産んでくれたのに、役立たずとか言われてしまうの?」
東山が急にあきれたように言う。
「あ、違います。そういうことは言われないけど、でも、そのお仕事もちゃんとできなかったし、その、子育てだって、黎人さんに手伝ってもらっているし、ちょくちょく入院しちゃうし。情けないっていうか。本当に役に立っていないんです。だから、子どもを産んで子育てをしなさい、って言われると、その反論しずらいというか。」
東山は考え込む。
「でも、また体重減っているわよ。無理しているんじゃないの?」
無理?
「あ、今はちゃんと育休もらって、休んでいますよ。昼間は姫ちゃんのお世話と、お洗濯やごはんの用意以外はほとんど休んでいるし、大学の時と違って、勉強とかもしていないし。」
お洗濯やお掃除も、自分ひとりでやっているわけではない、ちゃんと手伝ってくれる人?がいる、
と付け加える。
家政婦ではないが、家事専門の精霊がいるから。
「それならいいのだけど。でも、育休ってことは、復帰するってことでしょ?大丈夫なんですか?」
東山は不安になる。
陽織が出ていくと、東山は首をかしげる。
あまりうるさく言うと、ウザイとかしつこい、って言ったり。
お姑さんがいると、すごく礼儀正しく淑やかにふるまうし。
時々、自信がないようにふるまうこともあるし。
どれが本当の陽織なのだろう?
陽織が外に出ると、両親が姫花を抱いて待っていてくれる。
「ありがとう。」
そういって、陽織は母の腕から姫花を受け取る。
やっぱり子どもはかわいい。でも、生まれるまでの間があまりにもつらい。
それが陽織には耐えられない。またそれが繰り返されると思うと、正直恐怖になる。
「黎人さんのバカ=。」
陽織は小さな声でつぶやいた。




