陽織、鷹人に料理を教える(神様の娘編)
2階の自分たちの部屋にあるベッドの上で、陽織は眠っている。
その横にあるベビーベッドでは姫花が寝ているが、時々起きてきょろきょろとする。
すると鷹人が声をかけている。
鷹人は自分の部屋から子供用のいすをもってきてベッドの下において、本を読んでいる。
黎人は部屋にある机で仕事をしていた。
「鷹人、そっちは暗いから本を読むならこっちのテーブルで読みなさい。目が悪くなる。」
と黎人が声をかけると、
「ぼくもパパみたいに目が悪くなって、眼鏡がしたい。」
と言い出したので、ダメといって、椅子ごと明るいほうへ持ってきた。
「僕だって、子どものころから目が悪かったわけじゃないんだから。」
鷹人はブーと膨れたが、目が悪いと困ることを延々と聞かせると、少しだけわかってくれた。
そのうち姫花がお腹がすいたのか泣き出した。
その声を聴いて反射的に陽織が起きだして、姫花を自分のほうに抱き寄せた。
黎人と鷹人は立ち上がって、陽織のほうにいくと
「姫花のおむつを替えておくから、陽織は自分のほうを用意して。」
そういうと、鷹人が陽織に消毒用のお手拭きと、ウエットティシュを渡していた。
「ありがとう。」
と陽織が答えると、鷹人は陽織の背にクッションも持ってくる。
色々気が利く。
お尻が気持ちよくなった姫花をそのまま抱かせてあげると、陽織は授乳を始めて。
鷹人の時もそうだったが、どんなに寝ていても子どもが泣く声に反応するのがすごいと思う。
そう思う、とあの悪夢のような4日間は、陽織にとってもそうとう辛かったに違いない。
それだけでも、記憶を操られていたとはいえ、本当に陽織に申し訳なくなる。
「陽織、明日僕は仕事だけど、一人で大丈夫?母上に来てもらう?」
と聞くと、首をかしげる。そして
「たぶん大丈夫」と答えた。
その、たぶん、て、なんだろう。今朝もそういって、寝てしまったけど。
黎人は眉間にしわを寄せた。
お昼はパスタがいい、というので、黎人が作ることになった。
作るといっても、相変わらず、茹でたパスタにパスタソースを絡めるだけだが。それでも、陽織は気に入っている。
「たっくん、ママ、夜シチュー作るから一緒に作ってみる?」
と陽織に聞かれて、鷹人は嬉しそうに、大きくうなづく。
「じゃあ僕も!」
と黎人が言うと、
「黎人さんはごはんを炊いてね。」
と言われて、少しがっかりした。
姫花に母乳を上げている陽織は、どんどん神気や霊力を奪われている。本当はしっかりと食べてほしいのに、相変わらず食べる量が少ない。
だから、少しでも食べられるように、おやつをだしたり、好きなゼリーを食べたりとしていた。
昼食と姫花のお風呂を済ませると、鷹人がエプロンをして手を洗って、陽織とシチューの用意をする。
ジャガイモやニンジン、玉ねぎにカリフラワー、マッシュルームを用意して、まずはマッシュルームの皮の向き方を教えてもらっている。
これなら指で剥くから黎人にもできる、と一緒に作業をした。
玉ねぎの皮むきも手伝った。
人参の皮をピーラーで剥くと、陽織が縦半分に切ったものをまな板にのせて鷹人の前に置いた。
下が平らになったので、切りやすいということらしい。
皮をむいたたまねぎ、じゃがいも、そしてカリフラワーは小さく手でちぎるように、鷹人にいう。
最後に鶏肉を切って、材料がそろった。
材料がボールやざるの中にそろうと、鍋にバターを熱して、陽織が炒め始める。
深い鍋に鶏肉を入れて先に炒め、その次に人参やジャガイモから入れて最後にカリフラワーを入れて煮込み始めた。
煮込み始めると、コンソメを入れて、しばらく煮込んでいる間に、陽織が休んでいる。
鷹人は、まじめにずっとお鍋の中を覗き込んで、陽織に逐一報告をするのが面白い。
煮込んでいる間、姫花が泣いて、おむつを替えて、という作業が入ったが、その間も鷹人はずっとお鍋から離れなかった。
「たっくん、そんなに見ていなくても大丈夫だよ。そろそろルーを入れて混ぜようか。」
と陽織に言われて、火を一回止めると、黎人とルーを入れてしっかりと混ぜ合わせて、牛乳を入れた。
そんな風にして出来上がったシチューは親子3人の共同作業の傑作だった。
陽織も休むことができたからか、鷹人は立ちが作ったからか、いつもよりもたくさん食べてくれた。
「たっくんとパパが一緒に作ったから、いつもよりおいしいね。」
と陽織に言われて、鷹人は嬉しそうに、お代わりもしていた。
翌朝、陽織のことを心配していると、黎人の出勤より前に、陽香がやってきた。
高樹が自分の出勤前に送ってきたようだ。
「帰りも主人が迎えに来るから、今日は1日お手伝いできるわよ!」
と楽しそうだ。
とにかく、子どもが全員結婚してしまった陽香は時間を持て余している。
あまり社交家ではないので、近くにいる友人といったら、美咲くらいになる。
ママ友というのもいないので、喜び勇んで今日は来たということだった。
「女の子の子育ては陽織で経験があるもの、任せてね!」
と言われたが、その陽香が育てた自分がこれじゃないか、と陽織は思う。
「ママが育てると、わがままな子が育つということはわかったわ。」
と陽織が答えると、さすがにちょっと膨れる。
陽香は姫花が泣くと、まずは抱き上げて色々話しかけている。
「お腹すいたの?オムツかなー、甘えたいのかな?」
と、それからオムツを変えて陽織に渡してくれた。
陽織は、そう言うことはまどろっこしいと思っていたが、意外とその方がいいのかもしれない。
機械的にオムツを見ても、確かに汚れてない時もある。なるほど、と思いながら母乳をあげた。
「陽織はちゃんと母乳育児して、偉いわねー。」
陽香に言われて、何当たり前のことを?
と疑問に思う。
そう言えば、瑞姫は胸の形が悪くなる、といと言ってた。そういう考えでミルクだけの親もいるのかなー。
「んー、陽織はいっぱい出るから、逆に飲んでくれないと、痛くなっちゃう。」
「そっかー。でも、陽織は赤ちゃん大好きだもんね。それも、あるのかもしれない。」
「大好きだよ?でも、もういいかなー。黎人さんはわからないから、平気で4、5人でいうけど。」
と陽織が膨れる。
「男の人はわからないわよー。ママだった2人でいいかなー、って思ったもの。でも、それじゃ陽織は生まれて来なかったでしょ?」
そう言われると、ちょっと辛い。陽織はすでに1人消してしまった。生まれなかった子は、どうなるんだろう。
そう考えて、ギュッと姫花を抱く。
姫花のほっぺがぷにゃとする。
「ママ、陽織のお腹からいなくなった赤ちゃん、どこに行ったんだろう。」
陽織が、ボソッと言うと、陽香は陽織のことを姫花ごと抱きしめた。
陽織は知らないけど、2回流産している。
陽織が今口にしたのは、たぶん2回目のこと。
でも、もし知ったら。
そう思うと、陽香は怖くなる。
「大丈夫。きっとどこかのママの子になって、今頃幸せに暮らしているわ。」
そう言うのが精一杯だった。
「姫ちゃんは、ママが守るからね!もう、絶対悲しい思いさせないから。」
あの、悪夢のような4日間は、誰も覚えていない。
覚えているのは、神鬼と、黎人、陽織、鷹人だけ。
美咲や高樹さえ知らないこと。
だから、陽織は無闇に話すことはできない。
でも、あんな辛い思いを、2度と姫花にさせたくなかった。姫花が泣いても、誰も気づかないなんて!
「ねえ、ママ。姫ちゃんは、いつ自分が花嫁ってわかるんだろう。陽織は姫ちゃんのそばにいたい。ママのように、姫ちゃんがお母さんになる時も、ずっとそばにいたい。陽織は姫ちゃんを離したくないよ。」
陽織がそう言って泣く。
自分が花嫁と知った時も、どうしてって、何度も思った。でも、姫花は、姫花がまた同じ思いをするなんて、嫌だ!遠くに行くのは、嫌だ!
陽織はそう思って、何度も姫花に頬擦りをしながら泣いた。




