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陽織、もう一人の花嫁(神様の娘編)

姫花が生まれて1ヶ月がすぎたころ、陽織は会社に行って1年間の育児休暇の申請をした。

黎人は、色々なことが決まって陽織も落ち着いたので、6月2週目から、正式に出勤し始めた。


今後のことも決まりほっとしていたところ、暫くぶりの会社で疲れが出たのか、申請した翌日、陽織は突然高熱を出して倒れた。

朝、緊急で神鬼のところへ運び込まれ、原因を探す。

陽織のことは神鬼に任せるしかない。そう思って黎人は1人家に戻った。

鷹人は幼稚園、姫花はとりあえず美咲が見ている。

しかし、何がなんだかわからないまま、半日が過ぎた頃、黎人の周りで何かが大きく変わった。



「ただいまー。」

黎人は家に戻ると

なぜ自分が今出かけていたのか、忘れてしまった。

   あれ?どこに行ってたんだっけ?

「瑞姫さん、ちゃんと姫花の面倒を見ているの?」

家に戻ると美咲が黎人の妻、瑞姫に、姫花の面倒を見るように注意をしている。

え?瑞姫?

瑞姫‥。


瑞姫。


夕方、鷹人の迎えに行くと話すと、瑞姫は少しムッとした顔になったが、すぐに快く迎えに同行する。


何か変だ。


ーーーーー


陽織は、ガラスのような何かに阻まれて、黎人に声がかけられない。

「黎人さん!黎人さん?」


家の中にある写真が全て、陽織ではなく、知らない女性のものになっている。

服も全て?

「あなた、わたくしこんな幼い服は嫌ですわ!」

女性はそう言って、黎人といつものお店に行き、大人っぽい服を何着も買っていた。


「鷹人のお迎え!」

黎人が思い出したように言って、そのままレイリーに回った。

「鷹人、お迎えに来たよ。」

この笑顔はいつも通り。だけど、鷹人は女性に対して

「この人、だれ?」

と聞く。すると、黎人は迷わず

「お前のママじゃないか。何言ってるの?」

と普通に答えている。

   姫ちゃんは?姫ちゃん

   一体どうなってるの?


ーーーーー


瑞姫は鷹人に冷たい視線を向けたが、すぐに

「何を言っているの?鷹人のママでしょ?」

と優しく微笑んだ。


3人はいつものように車に乗って、自宅に戻るが、鷹人ははっきりと怯えている。


帰り道、デパートの地下で夕飯を買い、それを食卓に並べたいる。

  何かおかしい?

「瑞姫、今日は夕飯作らないの?」

黎人が聞くと

「わたくしはあなたのお相手が仕事ですもの。」

と、妖艶な顔で微笑む。


美咲から姫花を受け取ると、ミルクを作り飲ませている。オムツ替えもしている。

でもいつもと様子が違う。

しかし、黎人は瑞姫が自分の妻である、と言うことはわかっている。

   わかって、いる?


ーーーーー


夜、鷹人が部屋で寝ると、2人はベッドの中で、抱き合う。

   な!え?どう、して?

陽織は信じられないものを見るように、ただ驚きと悲しみで涙が止まらない。

しかも、姫花が泣いているのに、黎人さえ夢中になっていて気づかない。

「姫ちゃん、姫ちゃん!黎人さん、なんで気づかないの?お願い!黎人さん!」

陽織は2人の情事をずっと見せつけられ、頭が変になりそうだった。


「嫌!いやーっ!黎人さん、姫ちゃん!なんで!?」


朝、鷹人は1人で起きると、キッチンにあったシリアルを自分の器に開けて、牛乳を入れてる。

たぶん陽織が出産で入院した時に覚えたのだろう。

陽織はどんなに忙しくても、ちゃんと朝食を作るのに!

「たっくん、たっくん、ごめんなさい!たっくん、助け、て。ママは、ここだよ!」

陽織はずっと泣き続けている。


ーーーーー


「社長、今日はお疲れ様ですか?昨日は病院に行かれると、お休みでしたが?」

神柴に聞かれて、黎人は首を傾げた、

「病院?そんなところに行ったかな?確かに休んでしまった、申し訳ない。」

朝は昨日買ったパンとコーヒーだった。


社員食堂に行くと

「社長がお弁当じゃないなんて、珍しい!また奥さん何かあったんすかー?」

林田が軽い感じで声をかけてきた。


そういえば朔夜、瑞姫は夕飯も作らなかった。

今朝も起きてこなかった。

具合でも悪いのだろうか?


スマホを開けると神鬼から、陽織の様子がおかしいと言うメールが?

陽織って、だれだ?

意味がわからないので、無視した。

きっと間違いだろう。


夜、家に戻ると、美咲が瑞姫を叱っている。

鷹人のお迎えに行かなかったらしい。

珍しい。


しかも、姫花がお腹空かせても、母乳をあげてないと言う。一体、どうしたんだろう?


そして、夕飯はレトルトのカレーだった。

今までなら、こんな手抜きをすることなんて、なかったのに!

まさか、産後鬱とか、なのか?


ーーーーー


陽織が入院して三日目の朝、未だに黎人は顔を見せない。高樹もだ。

何かおかしい。

そう思って、神鬼は院長室へ行く。


「陽織?だれのことだ?」

高樹がそう返してきた。


やっぱり変だ!

これは、何かある!

神鬼はそう考えて、陽織の元に戻る。

夜勤の看護師に聞くと、昨夜も一晩中うなされていたらしい。

涙の後と、母乳が溢れたのか胸が濡れたのが乾いたようなシミができている。

熱は多少下がったものの、だんだん呼吸が弱くなっている。たぶん神気が足りなくなっているのだろう。


そっと陽織の胸をみると、痣が消えかけていた。

やっぱり、異常事態がおきている!

「陽織さん、陽織さん、しっかりするんだ!必ず何か打開策はあるはずだ!」

神鬼は歯を食い縛る。


ーーーーー


部屋の中、姫花はずっと放って置かれている。

これでは、いつかのネグレクトの親よりもひどい!

鷹人もだ。


陽織は自分の目の前にある、何かを破ることができず叩き続けた!しかし、びくともしない、そのガラスのような壁の前で、ただ泣き崩れる。

「たっくん、たっくん、お願い!姫ちゃんを助けて!」

今の陽織は、鷹人に呼びかけることしかできない。

ガラスの向こう側で、異変に気づいているのは鷹人だけだ。


黎人は全く気づかない。

どうして?

唯一無二と言ったのは、嘘だったの?

愛してると言ったのは、間違いだったの?


ーーーーー


黎人が帰宅すると、姫花が泣いていた。

お腹空いてまま、放置されたようだ。

なぜ!?


黎人は瑞姫を探す。

すると、2階から瑞姫が着飾って降りてきた。

「一体何をやっているんだ!?」

瑞姫は、目を見開き

「あなたを喜ばせようとしただけですわ!」

と、言い放つ。

「なぜ、子どもが泣いてるのに、世話をしない?母親の仕事だろう!」

「姫花には、先ほどミルクをあげました。なぜ、それで満足しないのかしら?オムツも取り替えたのに。」

瑞姫は憮然とした顔をする。


「なぜ母乳をあげない、い?」

母乳?どうして、必要なのだろう?

黎人は、自分で言って、自分で疑問に思う。


「母乳をあげたら、胸の形が変わるから、あげなくて良いとおっしゃったのは、あなたですわ。」

瑞姫に言われて

「そうだったか?」

と、黎人が納得してしまう。


今日の夕飯はまたデパ地下の弁当?

おかしい、瑞姫はデパートなど1人では行かないはずなのに?1人で、出かけるのは、怖い?なぜ?


「パパ、たっくん、姫ちゃんにミルクあげる。」

鷹人がそう言って、哺乳瓶を受け取り、自分の膝に乗せてミルクをあげたいる。


ーーーーー


陽織は、鷹人が姫花にミルクをあげる光景を漠然とした頭で見ていた。

「たっくん、ありがとう。」

鷹人が姫花に頬擦りをしたりほっぺにチュッとしている。これで少しは、姫花に霊力がいくはず。


そしてその晩も、最初の夜と同じ光景が繰り広げられる。毎晩、それは繰り返され。

陽織の心は折れそうだった。


黎人はその女性との情事を重ねるほどに、姫花にのことを、忘れて行ってるような気がする。

「いやだ!思い出して、黎人さん!れい?おね、が、い!姫ちゃん、名前、あなた、がつけたんだ、よ!」

それでも、黎人は夢中になって、女性を抱いている。


「誰か、たっくん、湊人、助けて、たすけ、て」


そのうち、陽織は気を失った。


ーーーーーー


4日目の朝は、土曜日だった。

黎人は以前よりも顔色が悪い。

まるで

何かに取り憑かれたように?

(まさか、俺は神様なのだから。)

鏡の中の自分を見ながら、何か納得できない自分がいる。

妻とは毎晩のように楽しくやっている。

鷹人はしっかりしてきた。

姫花は?

姫花に。

なぜあんな赤ん坊がいるんだろう?


鷹人は今朝も、1人でシリアルに牛乳を入れて、食べて、今は自分の部屋で、本を読んでいる。

そういえば、この家には確か精霊がいたはず。


そうだ、忙しい時には精霊が食事の支度や掃除を手伝ってくれていたじゃないか。


そう思い出して、黎人は精霊を呼び出そうとした。

しかし、精霊は現れない。

と言うより、精霊の名が思い出せない。


最近は寝室もなんだか、以前より汚れているような気がする。気のせいだろうか?


「小龍!」

小龍を呼び出すと、いつものようにちゃんと召喚できた。すると、その時スマホが鳴る。

神嶋だった。


「久しぶりに、お仕事してもらえませんかねー。」

と言ってきた。

「奥様はまだ産後で大変でしょうから黎人さんだけでも。」

と。

そうだ。やっぱり瑞姫はまだ産後のは、ず?

でも、全くそんな感じがしない。

これが陽織なら。

陽織?

陽織って、誰だ!


黎人は急に頭が痛くなり、その場にうずくまる。

しかし、何か大切なことのような気がしてならない!


その時また、スマホが鳴る。

神鬼だ。

「黎人さん!陽織さんが、大変です!至急病院に、来てください!」

「神鬼?さん?」

「はい!ですから。」

「陽織って?」

「何馬鹿なことを言ってるんですか!ハクはどうしたんですか?」

「ハク?」

「白兎様です!」

あ、そうか、白兎は小龍の大切なツガイだ。

でも、瑞姫は?

その時、姫花がいつもよりも大きな声で泣く。

それを聞いた瑞姫が

「うるさいわね!ほんと、赤ん坊なんて!なんでこんなもの!」

そう言って、姫花を振り上げた。

黎人はそれを見て、咄嗟に姫花を守った。


「何してるんだ!陽織!え?陽織?いや、え?」

黎人の顔色が変わる。

陽織って誰だ?

ここにいる瑞姫は、自分の妻だ。

それは間違いない!

その時、鷹人が2階から降りてきた。

「パパ、ママが!」


「君は、誰だ?」

「あなたの、妻、ですわ!しん、りゅう様!」

瑞姫が言った。

「しん、りゅう?神、龍…。」

その途端、黎人は左腕に姫花をだき抱えて、右手で鷹人の腕を掴み、

「ハク!」

と、叫んだ。


はく、白兎なら、きっと、陽織のところに、行ける!


鷹人は一瞬目を瞑った。

そして、目を開けると、ベッドの上に陽織がたくさんのチューブと呼吸器に繋がれている。

「ママ!ママ!」

鷹人はベッドの上によじ登り、呼吸器のマスクを外すと、思い切りチューっとキスをした。

すると、陽織の目がうっすらと開く。


「っ、く、ん。」

黎人は愕然とした。

そういえば、4日前の朝、陽織が突然高熱をだして、慌て病院に連れてきたのだった!

「ひ、ひお、ひお、り?」

黎人は腕に抱いていた姫花を陽織の胸の上に預けるように抱かせる。

すると、鷹人が手伝って、陽織の胸を出して姫花の口に持っていく。

姫花は、やっと、ありつけた、とでも言いたいかのように、陽織の母乳をひたすら飲む。

陽織の意識は、まだはっきりしない。

譫言のように、何度も

「れ、いと、さん、やだ、なん、で?黎人、さん。」

と繰り返している。


姫花はお腹いっぱいになり、満足したのか、陽織の胸の上で、数日ぶりに、すやすやと眠っている。

それでも、陽織ははっきりと目覚めない。

そして、時々涙が溢れる。


「黎人さん、どう言うことですか?」

神鬼が恐ろしい顔で睨んでいる。

「なぜ、何回も連絡したのに、陽織さんのところに来なかったんですか?あなたの大事な、奥様でしょう!」

神鬼の言葉に、黎人は目を丸くした。


「それが、僕もよくわからない、んですが。あの、彼女、が僕の妻、なんでしょうか?」

「はあ?何を言ってるんですか!?冗談でも、怒りますよ!」

「いえ、その。彼女が、陽織、さんって言う、方なんですか?」

黎人はハッキリと戸惑っている。

確かに、色々とわからないことがあった。

食事を作らない?

料理が好きだったはず。

姫花を落とそうとした!

そんなこと、するわけがない。

毎晩誘ってくる。

そんなことは、なかったはず。


「神龍様。」


「いや、でも家には僕の妻、が。」

「そんなわけ!」

そう言って、神鬼は高樹を思い出す。


よく怒っていたが、本当は心から娘を愛している高樹が、陽織を知らないと言った。

姫と言い出したのだって、最初は高樹だ。

ただ、恥ずかしくて、わがままという言葉をつけた。

「高樹さんも、覚えて、ない。」


何者かが、陽織さんの存在を消そうとしている?

しかも、高樹や黎人の記憶まで書き変えてしまうほどの者が。


「黎人さんは、その、今家にいる方を愛していらっしやいますか?」

「それはもちろん、僕の妻です、か、ら?」

黎人は途中から、自信がなくなる。

食事を作らない。

子どもの世話をしない。

部屋の中も片付けない。

自分だけ着飾っている。

そんな女性を、自分が愛したのか?


「神龍様」

瑞姫の声が、こだまする。


その時、小さな、掠れたような

「かえ、して。陽織、の、黎人、さん、返し、て。」

とうなされた声が聞こえた。

鷹人はずっと、陽織の頬を撫でている。


黎人さん!

黎人さん?


そう、僕の大切な奥さんは、僕のことを、名前で呼ぶ。

黎人さん!

と、いつも笑ったり、怒ったり、泣いたり。

「神鬼先生、少しの間、姫花を預かってもらって、いい、ですか?」

「鷹人くんは?」

「鷹人は、たぶん、要に、なるから。」

「うん、たっくん、パパ守る!」

そういうと、2人は消えた。











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