陽織、彩奈の結婚(神様の娘編)
6月最初の日曜日、林田俊介と菅原彩奈の結婚式が行われた。
黎人は2人を知る関係者ということで、林田の主賓席に招かれた。
他にも剛志や拓也、高嶺という、陽織たちが高校生の時、大人組と呼んでいたメンバーが呼ばれている。もちろん、上司として神嶋も。
ちょうど背中合わせに神嶋がいるのは、黎人としては居心地が悪い。
同じ円卓には広報部長の八神、総務部長の伊坂など、会社関係者の役員クラスが座っている。
八神は
「そうですか、今度はお嬢様ですか。社長も奥様だけでなく心配の種が増えましたなー。」
と、一番黎人が悩んでいることを言ってきた。
それを耳にした神嶋は、どこで聞いたのか、後ろから
「黎人さん、お嬢様も花嫁だとか?どうされるんですか?」
と話しかけてくる。
「花嫁?」
会社の人間で、無関係の者が不思議そうな顔をする。
余計なことを言うな!
黎人は神嶋を睨みつけた。
高嶺さん!神嶋さんを見張って下さい!
と、心の中で叫びながら。
式が滞りなく進んでいき、色々な余興が始まると、ビデオレターが紹介された。
これは先日、陽織たちが撮ったものだ。
黎人は預かっただけで、中身を見ていない。
会場が薄暗くなり、正面のスクリーンに陽織たち4人の姿が映った。
「彩奈さーん、ご結婚、おめでとうございまーす!」
4人の声が揃う。
「美織です!」
「陽織でーす!」
「千織です。」
「羽織だよー!」
「4人揃って、織姫ズでーす!」
織姫ズ?誰がつけたんだ!?
彩奈が笑う。
「彩奈さん、美織はいま、ちょっと悪阻で辛いです!秋にお母さんになります。」
「彩奈さーん、姫花です。陽織の宝物2号です!まだ生まれて3週間です!可愛いでしょ?」
「彩奈さーん、千織は今、金融のお仕事してます。お金に困ったら、いつでも相談してね!」
「彩奈さん、羽織は今、管理栄養士として仕事してます。頑張ってます!」
とそれぞれが近況報告をする。
そのあと、後ろにいた和嶺もお祝いの言葉と挨拶をする。
「と言うことで、ちょっと、翔太!そこにいるんでしょ!聞いてる?なんで卒業式来てくれなかったの?陽織と海でハイタッチした時のこと、忘れたんじゃないでしょうね!来年国試受からなかったら、陽織がせっかく譲ってやった、いが!」
と言いかけて、誰かが陽織の口を塞いだ。
「陽織、ストップ!ストップ!」
と、カメラを回していた湊人が自分の方にレンズを向ける。
「え、と彩奈さん、おめでとーございます!おれ、林田さんも知ってるけど、バイトん時、いつも女の子紹介して、って言ってたのは、なんだったんでしょうねー?なんか、スッゲー軽い林田さんと、姉御の彩奈さんが結婚って未だ信じられませんが、とりあえずおめでとうございまーす。それから、黎兄!ここの4人、翔太のことマジで怒ってるから、後で俺の代わりにぶん殴っといてください!」
「あ、彩奈さん!その、すぐ頑張れば、わたしたちとママ友になれます!ぜひ美織ちやんと陽織のママ友になりましょう!」
「じゃあ、最後に、林田さーん、彩奈さんとお幸せにー!」
と、4人がまた声を揃えて、画面が終わった。
色々暴露っぽい言葉あり、際どい?発言ありだったが、美少女4人プラス、イケメン2人のビデオレターに、会場は大いに盛り上がった。
「湊人のヤツー!」
「社長の弟ー!」
と黎人と林田だけは、顔色を変えている。
「ふーん、そうなんだ、女の子?」
と、彩奈が隣を見て睨む。
そして後ろの親族席でも、翔太が青くなっていた。
「お前、湊人くんや陽織さんたちに、何をやらかしたんだ?」
翔太は兄や父親にも、睨まれた。
さらに、式の後の二次会。林田と彩奈の兄弟に無理矢理引き摺られて、黎人は参加させられた。
彩奈の弟の1人洸太は、黎人の友人でもある。
「なあなあ、黎人。翔太のことぶん殴っていいぞ!」
と、言われて引っ張られ
「嫌です!」
と言うのに、他の兄たちにも引き摺られる。
だから、術者仲間はイヤなんだ!
二次会には、林田の他にも、若手社員たちもいる。黎人はその上司だ。立場的に居たくない!
お酒も弱い!絶対飲まないぞ!
と言うことで、始まってすぐ、とりあえず黎人は翔太を捕まえた。
「だいたい、なんで翔太、卒業式行かなかったんだ?陽織、寂しがってたぞ。もう、会えないかもしれないのにって。」
「いや、だって気まずいでしょう。宏輝や、その羽織、もいるのに。」
「まあ、でも、湊人たちとは今も親友、なんだよ、な?」
と聞かれて、目を逸らす。
「だって、陽織の誘拐事件の時、普通に手伝ってくれたじゃないか。」
と、黎人は隅っこで丸くなる翔太と、暫く話をしていた。
「だいたい、翔太は即戦力なんだから、外れたりされたら困るんだけど!」
と、言うと、翔太は驚いたように顔を上げた。
「え、と。黎人さんは今でも俺のこと、使ってくれます、か?」
「当たり前じゃん!ただでさえ、今、陽織と美織ちゃん、和嶺が外れて、大変なんだから!高校生組はいずれも弱いし。湊人からはブーブー言われるし。葉鳥と幸穂からも、文句言われるし!ほんと、頭痛い!」
そう言われて、翔太は少しだけ嬉しくなる。
「とにかく、神嶋さんから依頼あったら受けろよ!国試あるから無理にとは言わないけど。翔太居ると居ないとじゃ、全然ちがうんだぞ!」
林田たちは、会社では聞くことがない、翔太と2人話をしている黎人の話し方に、少し違和感を感じてしまった。なんか、すごく普通の、先生?みたい。
と、その時。
「遅れてごめん!」
と言う声が、店の入り口から聞こえた。
その声を聞いた途端、黎人は彩奈を睨みつける。
彩奈は首を横に振った。
知らなかったようだ。
「あ、奈緒!久しぶり!」
「あれ?奈緒じゃん、大阪から、来てくれたの?」
彩奈の兄で奈緒と同級生の健太や剛志が声をかける。
どうやら健太が声をかけたらしい。
「あの、林田、彩奈さん、オレもう帰りますね。陽織が心配だから。林田、会費のこと、後で神柴に伝えておいてくれ。」
黎人がそう言って席を立とうとしたら、それに奈緒が気づいた。
「アレー、黎人じゃん!久しぶりー!」
と、奈緒が近づいてくる。
「お久しぶりです。その、わたしはもう失礼しますので。」
と、奈緒の横を通り過ぎようとした時、いきなり腕を絡まれた。
「えー、なんで帰るのー?わたし来たばっかりなのにー!」
黎人は奈緒の手を振り払うと、直角と言えるほど頭を下げて、店を出て行った。
「え、とあの綺麗な女性は?」
林田たち会社の若手組が、彩奈の兄に尋ねた。
すると剛志が
「ん?黎人の、元カノ?」
と言う問題発言をうっかりしてしまった。
黎人?
黎人って社長?
社長の、元カノ?
カノって、彼女?
えーっ?
林田たちは一斉に顔を見合わせる。
「これってさー、絶対にやばい話しだよなー。」
「とにかく、全員この話は、ここだけの秘密な!」
「でも、絶対訳ありだよな!社長の態度。」
「うわー、なんかオレ黙ってるの辛いかも!」
林田の同期や同じ部署の仲間がコソコソ話していると、林田が彩奈に直接聞いた。
「あの、奈緒って綺麗なお姉さんと、社長ってなんか関係あるの?」
彩奈はその質問に、やばい!と感じて
「いや?以前一緒に仕事したことあった、だけだよ?それだけ。」
と、答える。
もう、健太兄さん!なんで奈緒なんか呼ぶかなー!
しかし、徐々に酔ってくると、林田の同期たちが奈緒に声をかけ始めた。
「お姉さん、綺麗ですねー。」
「やだー、ありがとー。坊やいくつー?」
「え、オレは26歳ですけどー。」
「やだー、黎人と同じ歳じゃん!」
「え?えと、社長、で、すか?」
「アッハッハー、アイツほんとに社長やってんだー!なんか、おっかしー!」
奈緒がそう言うと、彩奈が慌てて、奈緒を引っ張る。
「ちょっと奈緒さん、お願いですから、黎人のことはここで話さないでください!」
彩奈が慌てて、奈緒を引っ張って自分の隣に座らせた。
「奈緒さん、来てくださったのは嬉しいですけど。その、ここには彼の会社関係の人がいるので、発言には気をつけてください。」
彩奈が真剣に奈緒に話すのを見て、林田も一緒に頭を下げた。
「いいなー、彩奈良い人と結婚できてー。」
「奈緒さんだって。」
「んー、別れたー。」
奈緒は完全に酔っている。
「え?また、ですか?」
彩奈は驚く。
以前、黎人が大阪に行って手伝った時からすでに5年。奈緒はその間2回結婚して、2回目の離婚らしい。
「だってー、あたしらが結婚するのって、普通の相手じゃダメじゃん!やっぱり、黎人良かったなー。」
それを聞いて、林田が真面目な顔をする。
「失礼ですが、社長の話はここでは口にしないでいただきたい。です。
その、今、社長は社会的にも地位のある方ですし、色々な方が行動や原動に耳をそばだてております。迂闊な発言で、社長ご自身はもちろん、社長だけでなく、我が社のイメージも大きく左右いたします。
いくらお酒の席とはいえ、軽はずみな発言は、どうかご容赦下さい。」
彩奈は、急に真面目に話し始めた林田の言葉に、改めて彼の本当の良さを感じた。
一見軽そうだけど、本当は真面目で優しい人。
林田と一緒に、彩奈は奈緒に頭を下げる。
その姿を見て、会社の同期や仲間たちも立ち上がり、一斉に頭を下げた。
さすが、一流企業のエリートたちだ。
それを見た奈緒は一気に酔いが覚め、自分がいる場所ではないことを認識した。
「ごめん、なさい。その、彩奈、わたし新幹線なくなるから帰るね。みんなにも、よろしくって伝えて。」
奈緒はそう言うと、店を出て行った。
彩奈は、思わず林田に
「ありがとう。」
と、抱きついた。




