陽織、産休?育休?(神様の娘編)
姫花が家で生活を始めてもうすぐ10日、本来なら予定日だった日になった。黎人は自分と同じ、5月生まれの娘をいたく可愛がっている。
毎日、頬擦りにほっぺにチューに、と忙しい。
鷹人の時とは、また違う可愛がり方だ。
「黎人さん、お仕事はどうするの?陽織は産後休暇が7月のはじめまで無くなっちゃったから、6月末くらいから出動しなくちゃだよねー。」
黎人は陽織の言葉を聞いて、ギョッとなった。
「え?陽織、本当に仕事続けるの?育児休暇は?申請してないの?」
「だって、まだ陽織は入社したばかりの新人さんだよ?産休だってイレギュラーでもらったのに、育休なんて言えないよ!」
それを聞いて、黎人は頭が痛くなる。
そんな話が両親に知られたら、絶対に怒られる!
高樹だって同じだ!
また、土下座案件になる!
レイリーだって1歳児未満の入園は断っている。
本来なら、陽織は家にいてしっかり子育て、が両親の考えだ。それが、まだ生まれて半年にもならない子どもを誰かに預けて仕事に行く、なんて!
当然、美咲は劣化の如く怒るに違いない!
たしかあの時、陽織の中絶話を止めるために、慌てて神橋を説得した。産休の申請だけはした記憶がある。しかし、たしか秘書課長は育休明け云々と言う話をしていた記憶があるが‥。
「ちょっと待って、とりあえず会社に確認してみる。慌てて、余計なことしちゃダメだよ。」
余計なこと?
と、陽織は考えて、ちょっと怒った。
「陽織、そんなことしないもん!」
黎人は慌てて神橋とやりとりをしていたら、結局両親にバレた。いくら大手のグループ会社、子会社、がたくさんあっても、同じ会社にいれば大事な情報は筒抜けになるのは、当然だ。
「で?黎人はどうするつもりだったの?」
いきなり父親に呼び出され、母親に迫られて、今正座している。
「えと、その、陽織が、諦めるかなーと、なんとなく思って。」
その答えに、蓮也は呆れてため息をつく。
「もう、何年一緒にいるんだ。そう言う子じゃないことくらい、お前もわかってるだろう。」
「そうよ!いい加減に産休取ればいい、なんて説得するからそうなるのよ!」
「だいたい、神橋くんだって、当てにしてないだろう。」
「それが、社長もなんですが、現場の総務部長が乗り気で、早く戻っていただけるならありがたいと。」
「はあー?何言ってんのよ!世の中育児休暇一年以上が常識よ!それに、うちはお金に困ってるわけでも、働いて欲しいわけでもないんだから!!!」
美咲に怒鳴られて、黎人は流石に耳を塞いだ。
やっぱり劣化の如く怒られた!
「とにかく、家事育児第一!高樹さんにも言われてたでしょう?ただでさえ、陽織ちゃんは体力ないんだから!6月末から仕事なんて再開したら、すぐに寝込むに決まってるじゃない!!!」
たしかに、陽織は父親からも就職を反対されていた。
「で、でもそれは、僕だけの責任ではないと、思い、ます。その、父上だって、とりあえず、内定を許可しちゃったじゃないですか!!」
「あの時は、あーでもしなかったら、公務員試験とか受けられてたぞ!彼女なら国家公務員だって合格する可能性はある!省庁とかに入庁されたら、こっちだって手は出せないところもあるんだ!」
神嶋からもwelcomeだったとのこと。
「だいたい、陽織ちゃんの就活を許した黎人が悪いんでしょ!最初から、絶対にダメだ!って命じればよかったじゃない!」
「そんなことできないでしょう?それじゃ、僕は暴君になっちゃう!」
陽織はその頃、鷹人と姫花を寝かせて、黎人が両親に呼び出されて戻るのを待っていた。
そして、親子3人が言いあってるところに、湊人が帰ってきた。
「また、何喧嘩してんの?兄上が正座してるってことは、どうせ陽織のことなんだろう?」
湊人は、黎人を見下ろし、睨みつけて言う。
3人は三様に話をかいつまんで説明した。
「あのさー、まず母上は古過ぎ!昭和じゃないんだから、何それ?今、良家のお嬢様だって働く時代だぜ!
千織にそんなこと言ったら、親子の縁、切るからな!それに、兄上も最初に労働者の権利って言ったなら最後まで、それ貫いて陽織に育休取らせればいいじゃん!あと、今時リモートの仕事がない会社って少ないぜ!実際兄上だって、リモートで仕事してたじゃん。陽織が仕事したい、つーんだったら、リモートでできる部署に、ぶっ込んでやればいいじゃん!」
湊人が一気に話した。
美咲だけは、それでも文句ありありな顔をしていたが、黎人は味方を得た!とばかりに、立ち上がると、湊人の両手をギュッと握る。
「ありがとう!さすが俺の弟だ!」
いや、何?それ!嫌なんだけど!
と、湊人は嫌そーな顔をした。
「たしかに。どの会社にもリモートでの仕事を利用している社員はいる。元々、彼女の内定を出したいと言い出したのは神橋くんだし、内心出したかったと、神北くんも言ってたんだ。他に行ってほしくない、という理由で。それに、先日神橋くんからは、できれば、育休明けたら戻れないか、と言う相談は受けている。」
と、蓮也が言い出した。
「なら、最初にそれを!」
と、黎人が言うと
「だいたい、どうしてわたしに相談があって、お前に相談がないのか、考えろ!」
と、怒鳴られた。
それだけ、神橋からの信用がまだない、と言うことなのだろう。それを突きつけられて、黎人は俯く。
「なんでも、先日会社の懇親会で、数週間しかいなかった、陽織さんの噂が絶えなかったようだ。とにかく戻ってきて欲しい。一緒に仕事してみたい。びっくり箱のようで楽しかった、と。特に若手の男性社員の多くから。」
最後の一言で、一気に黎人は嫌な顔をする。
「だから、お前に相談をしなかったんだ!どうせ、そんな話しを聞いたら、頭ごなしに反対するだろう!」
あ、わかる。
と湊人はぼそっと言うと、キッチンに行って自分の夕飯を食べ始めた。
2時間ほどして、黎人が戻ってきた。
「おかえりなさい?」
なぜか複雑そうな顔をしている。
「あの、何かお義父さまに言われた、のですか?」
と聞くと、
「んー、明日もう一度神橋さんと話して、決まったら話すね。」
と言われた。
やっぱり陽織の仕事のことだったようだ。
「やっぱり、わたし解雇、ですか?」
陽織は下を向いてしょんぼりする。
「イヤイヤ、逆逆!とりあえず育児休暇が取れそうだから、心配はしないで、大丈夫。」
と黎人が言って、陽織をギュッとした。
「あの、いいんですか?」




