陽織、娘の名(神様の娘編)
GW後半、黎人は鷹人を連れて陽織の代わりに女の子用の赤ちゃん用品の買い物に来た。
そのまま使えるものは使うが、布団やおくるみなどは女の子用にしたい!と、陽織が言い出したので。
しかも、陽織からのリクエストはうさぎ、だった。
「パパ、ぼく、赤ちゃんのお洋服見たい!」
鷹人が産着の売り場で目をキラキラさせている。
「鷹人の時も、ママと買いに来たんだよ。」
と言うと、ほんと?と振り向いた。
「あ、これがいい!これ絶対ママ好きな絵!」
それは、有名なオランダの絵本で見るうさぎの産着だった。他にも、靴下やおくるみ、布団まで、色々な品が揃っている。
しかし、隣にも陽織が好きなイギリスのやはり有名なうさぎの絵本の、イラストが入ったセットがあった。
「鷹人はどっちがいいと思う?」
「ママ、両方すき、だよ?」
んー、と2人で悩んでいると、いつも担当している外商の人がやってきた。
今日は他のお客様の予約が入っていて、別なところにいたのに。
「女のお子様ですか?」
と優しく微笑んでいるので、とりあえず相談してみた。
「そうですね。お布団は1つで充分ですが、産着は洗濯もしますので、2着以上はあった方が良いでしょう。もし、迷っていらっしゃるなら、ご本人に写真を送られて、お聞きになったらいかがでしょう?」
そう言われて、2人はパシャパシャと写真を撮りまくって、陽織に送った。
すると、間髪入れずに、
「両方欲しい!」
と言う返事が。
あーやっぱり!
黎人は苦笑いして布団カバーを両方購入することにして、他も全て、1つずつ、両方の絵柄を購入した。
他にも、鷹人の七五三があるので、呉服売り場に行き、鷹人が好きな柄の反物を選んだり、最後は2人が好きな怪獣倶楽部で、好きなだけグッズを見て帰宅した。
帰った途端に、陽織の口から
「あー、また怪獣!」
と言う第一声。
「いいじゃないかー、鷹人だって買い物付き合ってくれたんだからー。」
「怪獣好きなのはいいけど、部屋が占領されるのが嫌なだけ!」
と膨れる。
確かに2階にあるいわゆる子ども部屋3部屋は、現在鷹人の怪獣で、一部屋が占拠されていた。
「やっぱり、子どもは2人ね!」
と、陽織はその状況を踏まえて言い切るが、
「だから、増築するって言ったじゃないか!」
と、黎人が頑張る。
とりあえず、真ん中の怪獣部屋は置いといて、陽織は鷹人と反対側の部屋に、今日買った荷物が届いたら、置いてもらうことにした。
ここが新しい赤ちゃんの部屋。
「赤ちゃん、ねえ、黎人さん。女の子って、わかってるなら、名前考えなくちゃ。」
「陽織は何がいい?」
「んとー、うさぎ、か桃。」
「え?それは陽織が好きなものじゃない。名前に、うさぎ、とか、桃ってつけるの?」
「え?桃、可愛くない?桃ちゃん。」
「可愛いけど、5月だよ?」
「陽織、って名前、可愛いよね。」
「え?そお?誰がつけたんだろう?」
陽織はそう言いながら、顔を赤らめた。
可愛い名前、なんだか嬉しい。
「そういえば、陽織はなんで、姫って呼ばれてるの?」
「ん?神鬼先生が呼び出した、とか、父様が、言い出した、とか?」
「そっかー、女の子だもんね。姫かー。そっかー、姫か?ん?ねえ、姫花は?てか、姫花でもいいし、姫華、姫香、どれも可愛いよね?」
「ひめかちゃん?ん、可愛いー!そうすれば、もう、誰も陽織のこと、姫って呼ばなくなる!」
「え?呼ばれてるの嫌だったの?」
「嫌だよ!なんか、馬鹿にされてるみたいで!」
そうなんだ。
でも、娘はいいんだ。
「だって、その前に、余計な言葉がつくじゃない!」
あ、わがまま姫、か。
黎人が笑った。
それから1週間、今回も予定日よりも2週間早い日の朝、陽織が突然破水した。
陽織の場合、陣痛よりもこちらが早く来るタイプなのか?
黎人は今回は落ち着いて病院に連絡を入れて、美咲にも知らせた。
鷹人の幼稚園を美咲に頼み、陽織を車に乗せて病院へ行く。
もちろん、陽織は前回と同じように陣痛を促す薬を打たれて、少しずつお腹が痛くなる。
痛い、痛い、痛い、痛い!
だから、嫌って言ったのに!
黎人の、あと4、5人は欲しいなんて話、勘弁して!
毎回、泣きたいくらいに痛い!
今回はすぐに陽香が飛んできた。
よほどやることがないらしく、毎日電話と睨めっこしていたらしい。
「陽織、女の子は男の子よりも楽だからね!産むのは楽よ!ママがそうだったから!育てるのは、その、大変だったけど。」
陽織は母の言葉に、わかったような、わからないような?特に最後の一言は、なんだったんだろう?
育てるの、大変?
それを聞いた途端、黎人は青くなる!
(そうだ、陽織に似ているなら、絶対に可愛い!生まれたらすぐにお守りをたくさん、持たせるようにしなくては!)
何かを急に考え出した黎人の顔を見て、陽織は痛いのを忘れた。
「どう、したの?れい、と、さん?」
陽織が聞くと、
「いや、その、お守り、大量に作って持たせなくては、と。これから、陽織と姫花の分。」
?
「姫花?って、赤ちゃんの名前?もう、決めたの?姫花、可愛い!姫ちゃんね!」
陽香は可愛い名前を聞いて、喜んでいる。
「当然じゃないか!陽織と似てたら、絶対に可愛い!どれだけたくさんの虫が寄ってくるか!」
と、突然、黎人が顔を強張らせた。すると握り拳で、
「絶対ダメだ!どんな男だって、絶対に、許さない!」
と叫ぶ。
(いやいや、黎人さん、まだ生まれて、ない!)
陽織は声にならない声を上げた。
さらに、いつのまにか部屋に入ってきた高樹が、その言葉を聞いていた。
「で?許さないから、どうするんだ?」
「それは‥。」
と、黎人は言いかけて、後ろに高樹が立っていたことに、青くなる。
「少しは、俺の気持ちが、わかったのか?」
黎人は陽織の手を握ったまま、青いた顔をしている。
「もう?とう、さま。黎人、さん、おどさ、ない。」
そう言うと、陽織が苦痛に顔を歪める。
目には涙が溢れている。
「あなた!あなたも、神口の父に似たようなこと、言われたわよね!」
陽香がクスッと笑った。
正直、陽織にはそんな両親の会話を聞く余裕がない。
とにかく痛い!
痛いんだけど!
どうしてくれるのよ!
と、黎人を涙目で睨む。
「なんで、睨むの?」
「も、無理!これ、さい、ご!」
「えーっ、だめだよー陽織だって、あと3人以上は欲しいでしょ?」
「な、んで、そん、な、勝手に!無理、だって。」
と、起き上がって怒ろうと、したが痛い!
痛いよー!もう、痛いんだけどー!
ほんとに泣きたい!
くっーうーうー。
「あ、陽織さん、まだ我慢して!ほら深呼吸!歌とか歌うのも、いいのよー。」
看護師がアドバイスしてくるが、そんな余裕ない!
どんな態勢になっても、痛い!
ウエーん、痛いよー。
心の中で泣いて、もう、意識手放しちゃおうかなー、などとも考える。
でも、そう言うわけにはいかないし!
まだなのかなー、たっくんの時、どれくらいかかったっけー?もう、なんか、やめたいよー。
などと考えていた時、
「あ、そろそろですね!じゃあ分娩室行きましょう!」
と言われた。
産科の病棟が上階にあるので、分娩室も6階にある。
東山先生の声がした。
神鬼先生の声もする。
頭がぼーっとする中で、陽織はいきなりベッドを移されて、赤ちゃんを産む体勢にさせられた。
「あらあら、2回目だからかしらー。前回より早いわねー。」
東山の声が聞こえた。
「黎人さん、もう名前つけたんですよね。」
神鬼が黎人に話しかけている。
黎人は真面目に、どうやって娘を守るか、真剣に考えている。
そして、次の瞬間!
その、真剣さが、予想の上を行った!
オギャーっ
と泣いて生まれた女の子。
可愛い!と思った直後、黎人はその胸に、花の形の痣があることに気づく。
黎人と神鬼は顔を見合わせる。
花嫁が同じ時代に2人生まれる、ことは、あるのか?
黎人は喜びよりも、驚愕で声が出なかった。
「黎人、さん?」
陽織に声をかけられて、ハッとする。
「あ、ごめん!陽織、頑張ったね!女の子だったよ!」
とキスをしていると、看護師の1人が、
「あら、この子の胸、可愛い!桃の花かしら?花の形の痣なんて初めて見たわ!」
花の形‥。
陽織の顔も強張った。
「だ、大丈夫ですよ。陽織さん。同じ時代に花嫁は1人のはず、ですから。」
しかし、神鬼の声もどこか自信がなさそうだ。
とりあえず、陽織は胸に抱いて母乳をあげながら確かめる。
痣の形。
位置。
色。
必要な処置がされて車椅子で、部屋の外に出た陽織と黎人の顔を見た2人の両親は、何事かと、心配になるほど、真っ青だった。
7階の特別室に入ると、黎人が両親だけを部屋に入れて結界を張った。
そして、赤ちゃんの胸を見せる。
「花。」
「う、そ。」
2人の母は驚きの声をあげる。
「まさか、この子も、花嫁?」
高樹が言うが、それに対して蓮也が
「いやいや、最近、神様の痣を持つ男の子が生まれた、と言う話は聞かない!たぶん偶然だ!」
と言い放った。
確かに、花嫁がいても、神様がいなければ相手はいない。神様が生まれたとしたら、黎人が気づかないはずがない!
そう考えて、全員が、きっと偶然、桃の花に似た痣をもつ女の子、と考えることにした。
そう言ってもらえると、陽織も安心する。
自分の子にまで、自分と同じ運命だけは、たどらせたくない!
そう考えて、ホッとすると、胸の中の赤ちゃんが、スヤスヤと眠り始める。
「陽織、名前はアレでいい?」
と、黎人が聞いてきたので、うん、とうなづいた。
「可愛いのよね!」
一足先に聞いた陽香が嬉しそうに言う。
「あら、どんな名前?」
「姫花、お姫様の姫に、花で、姫花。」
黎人が頬を優しく撫でながら言う。
「姫花。神代姫花。」
「なんか、神々しい名前だなー。」
2人の両親に言われて、陽織は幸せになる。
(お願い!どうか、この子だけは神様の花嫁では、ありませんように。)




