陽織、兄妹喧嘩(就職編)
産前休業になって、やっと陽織は病院に来た。
本当に4月は全く来なかった。
全く!と、東山は呆れてしまう。
いつものように、内診が先のため、陽織をそちらの部屋に呼ぶ。
「?え、と。神代、さん。内診を担当します、その、神月、で、」
と言う声がした途端、
ぎゃーっ!いやーっ!
と言う久々の絶叫が聞こえた!
え?あ、やっぱり男性はダメ、と東山たちが思ったとき
「いやいやいや!なんで、兄様!こんなところにいるのよ!エッチ!絶対に兄様なんかにみられたくない!ヤダヤダ、陽織帰る!」
と、さっと足を元に戻して下着をつけると、呆然としている看護師を振り切って、部屋を飛び出す。
カーテンの向こうでは、
(僕だって、妹のなんか見たくないよ!ふざけるな!)
と、研修医としてそこにいた和嶺も思う。
待合室にいた黎人も、びっくりして陽織を抱き止める。
「え?和嶺がいたの?そっかーそれは気まずいよね。」
「そんなんじゃない!陽織、兄様に見られたら、お嫁に行けない!」
だから、もうお嫁に行ったから。
そのあと、再度東山に呼ばれ、内診を受けるも
「先生、お一人ですよね?他の人、いないですよね?」
と、何度も確認された。
診察室には、さすがに東山の後ろに和嶺がいる。
お互い睨み合い?になっている。
「兄様なんて、美織ちゃんの見てれば良いじゃない!なんで、いるのよ!見たら近親相姦で訴えてやる!」
とわけのわからないことを言われ、和嶺は憮然としてるし、黎人は苦笑いしている。
(黎人さん、なんとかして下さい!)
と、目で訴えて。
エコーの時も、
「兄様、向こう向いてたよ!こっち向いたら絶対に美織ちゃんに言いつける!わたしにエッチしたって!」
いや、してないし。
「とりあえず、神月先生は、エコーの画面を見ていて下さい。」
東山が仕方なく、打開策を提示するが、それでも陽織は膨れている。
「はい、兄妹喧嘩はそこまでにして、今日から1ヶ月前です。もう、これからは本当に、毎週来てください。前のようにわけのわからないことを言って帰らないこと!良いですね?」
と、東山に釘をさされる。
わけのわからないこと?
和嶺と黎人は顔を見合わせた。
まあ、陽織のことだから、なんかよくわからない理由をこじつけて来なかったんだろう。
と2人は頭の中で納得する。
「陽織さんは最初の時も、予定日より早く生まれてます。今回も、その可能性はゼロではないので、毎日慎重に行動してください。くれぐれも、飛んだり跳ねたりしないように!」
東山の注意に対して、なぜか
「申し訳ありません。」
「本当にすみません。」
と、なぜか黎人と和嶺が頭を下げて謝る。
その姿に、新人看護師の浅川は唖然としている。
隣にいるベテラン看護師の山根はやれやれと言った顔だ。
本人は、と言うと、
「わたし、そんなことしません。」
と膨れていた。
いや、するから注意されたんだろう!
と、2人で陽織をにらみつけた。
陽織が出ると、美織がいた。
「え?美緒、ちゃん?」
美織は陽織の顔を見て、ちょっと恥ずかしげに笑う。
「どうしたの?今入ると、和兄様いるよ?嫌じゃない?」
と、少々失礼なことを言っていた。
「え、と。陽織ちゃん。その、わたしは一応和嶺さんの、その、妻、なのですが。」
陽織が出てしばらくすると、神月美織さん、と声がかかる。
神月という姓から、最近産科は色々敏感になっている。完全に、東山案件だ。
内診、身長体重が計られ、血液検査、尿検査、そして診察室に呼ばれた。
神月というだけで、東山は構える。
陽織に今朝も振り回されたから。
「神月美織さん」
と言いながら、チラッと和嶺を見ると
「妻です。」
と小声で答えられた。
う、また神月家!
もしかして、さっきの「美織ちゃん?」
しかし、入ってきた美織は東山の想像とは全く違った。品よく、お淑やかで、話もわかる。受け答えもしっかりしていて、良いところのお嬢さんだったのだろう。
ん?どこかで?
(あ!お姑さんと一緒の時の陽織さん!)
あの時の陽織とそっくりだった。ガリガリの陽織よりは普通より細め。
顔立ちもどこか似てる。
あまりにも美織の顔をまじまじと見つめすぎたのか、美織から
「あの、何か?」
と声をかけられた。
「いえ、先ほど神代さんが、美織ちゃんと。」
そう言われて美織は赤くなって俯く。
陽織ちゃん、何言ってたの?
「仲がよろしいのですか?」
と聞かれて、美織は和嶺の顔を見る。
「え、と。妹とは高校時代の同級生です。」
和嶺は差し障りのない答えをする。
「あの、親友です。」
と、美織は答える。
その途端、東山は納得するようなしないような。
「その、色々大変ですね。」
と、思わず口から出てしまった。
美織が終わると、外で陽織が待っていた。
「美織ちゃん、美織ちゃん、ご飯。ご飯一緒、しよう!」
と、ニコニコと声をかけてきた。
「あ、大丈夫だよ、黎人さんが払うから!」
思わず、陽織ちゃん、とつぶやきそうになる。




