陽織、仲間はずれはいや?(就職編)
3月末、和嶺と美織の結婚式が神明神社で行われた。
先日は悠人と祈梨が、そしてかつては高嶺や陽織も式を挙げていた。
「和嶺まで結婚しちゃうと、本当にわたし子育て終わりなのねー。」
陽香が高樹の隣でため息をつく。
「まあ、これからは2人で楽しめ、ということだろう。何もなければ。」
高樹は珍しく陽香に優しい。
ただ、高樹の何もなければという一言が、陽香は引っ掛かっている。
「そうよねー、なぜかお嫁に行っても問題を次々起こす娘がいるって、どういうことかしら。」
陽香も高樹の言わんとすることをなんとなく察してしまった。
「でも、陽織だってもう大学を卒業して、2人目のママになるのよ。いい加減落ち着くでしょう。」
と、言ってはみたが、先日、就職することを知って、目眩を起こしそうだった。
どうしてあの子は落ち着かないのかしら?
鷹人も4月から幼稚園生。トイレも、着替えも、食事もちゃんとできるようになり、最近は字も読めて、色々な話しもする。
一人なのに、手のかからない良い子だ。たぶん、母親の分しっかりしてるのだろう。
保育園から英語は習っているので、最近は黎人が何かスポーツを習わせたい、と考えているようだ。
高嶺のところも、大地が鷹人と同じ幼稚園に通うことになった。神月総合病院があるが、実際に高嶺は研修医3年目で、実質神月の祖父が経営と院長を任されている。
それ以外は、高樹と高嶺が選んだ、選りすぐりの医師と看護師が、交代で勤務している。
梓沙は少しでも役にたちたいと、昨年医療事務の資格をとり、神月総合病院の、事務全般に携わっている。そのため、下の剛樹も、レイリーの保育園に入れた。
陽織は和嶺と美織が並んで入ってくると、感動して泣いている。
(う、う、美織ちゃん、綺麗ー!)
その時、陽織は高一の時、美織と2人、神明神社のお祭りに来たことを思い出した。
そういえば、あの時も、美織は和嶺に会うために、奉納舞の舞台袖に走って行った。陽織は、思い出して、鷹人を挟んで隣にいる黎人を見る。
(あの時、わたし黎人さんの花嫁を辞退したいって、言ったんだ。)
式が終わり、二人が退場していく。
陽織はあの時のことを思い出して、ポツンと言った。
「神様の花嫁って、辞退できませんか?」
小声で言ったつもりだったけど、黎人には聞こえたらしい。
「え?」
「え?」
驚いて黎人が陽織の方を向く。陽織も、その声に驚いて黎人を見た。
「あ、ごめんなさい。初めてここに来た時のこと、思い出して。その、美織ちゃんに連れてきてもらった、お祭りの日のこと。」
黎人の瞳が揺れていた。
よほど驚いたのだろう。
「びっくり、した。」
「昨日から、変なことばかり言うから。」
「昨日?」
「ほら、美織ちゃんの方が神様の花嫁に相応しいとか。」
「あ、ごめん、なさい。」
そう思うと、陽織は黎人と結婚しても、まだ自分が神様の花嫁と言う自覚はない。なんでなんだろう。
と、時々思うこともある。
本当は間違いなんじゃないか?
周りの人はみんな黒留袖を着ている。
母はもちろん、梓沙や叔母たちも。
陽織はお腹が目立たないように、黒のボレロにワインカラーのフワッとしたロング丈のワンピースだ。
陽織の後方にいる麻美は、振袖を着ていた。
陽織のワンピースは、今回も黎人がハルに頼んで、特別に仕立ててもらった。
(なんか、わたしお金だけがかかる妻だよねー。)
と、陽織は落ち込んだ。
親族が退場すると、次は陽織たちも利用したホテルで、披露宴がある。高嶺はまだ研修医になる前に結婚したので、披露宴をあげなかった。
式も簡素なものだった。今思うと、よく天神が許したものだ。
披露宴会場に着くと、羽織たちがもう来ていた。
席が遠い。陽織は親族席だ。悲しい。
鷹人と大地が並び、その向こう側が梓沙と高嶺。鷹人側に黎人と陽織。そして両親となっている。
陽織の隣は陽香、高嶺の隣は高樹。
まさに神月家、という配置だった。
剛樹は梓沙と高嶺の間に小さな席を設けている。
隣には祖父母たちと、神月、神口の親族がいて、陽織は気が重い。
麻美はと言うと、今でも時々、黎人をチラチラ見ていた。
鷹人と大地は仲良く、幼稚園の話をしたり、お子様用のご馳走に目をキラキラされて楽しんでいる。
挨拶やら、乾杯やらの後、和嶺と美織が各テーブルに挨拶に回る。と、その時、陽織がスタッと立ち上がった!決してよいしよ、ではない!
どこへいくのかと思ったら、スタスタと、羽織たちのテーブルに行く。
そこには、羽織、千織、湊人、宏輝と、美織の大学時代の友人4人がいた。
「陽織?」
突然、頑張って歩いてくる陽織を見て、羽織や湊人が目を向く。
「羽織ちゃんたちズルい!なんで、わたしも、こっちの席じゃないの!」
湊人たち4人はポカーンとしてる。
「はあ?お前、黎兄と鷹人置いてきたのかよ!」
「陽織ちゃん、あんまり歩き回ると、危ないよ!」
「だって、わたしもこっちがいい!」
そう、陽織が言った時、頭の上からゲンコツが降ってきた。
「おバカ!お前は、僕の妹だろうが!親族席にもどれ!」
(新郎がおバカなんて言っていいのか?)
「和嶺様!陽織ちゃんも、一緒に写真だけでも。」
美織が焦っている。
「うえーん、和兄様が怒ったー!」
陽織が泣く。
もう、羽織や千織たちは慣れっこだが、美織の大学の友人4人は、唖然としていた。
とりあえず、写真だけでも撮れば納得するだろう?と、陽織も入れて写真を撮った。
その後も、陽織はキョロキョロして、どこかに空いてる椅子がないか探している。
どうしても、こちらのテーブルに座りたいらしい。
「陽織、諦めなよ!」
「だってわたしだけ仲間はずれー。」
「そう言う問題じゃないだろうー。」
「陽織ちゃん、もしかしたら、その、湊人くんの時も親族席?」
「うわっ、想像しただけで、やばい!」
4人がヒソヒソ話している。
「う、わたしも、こっちが、良いのにー。」
そう言ってると、急に後ろから抱き上げられた。
「陽織!みんなに迷惑かけちゃダメだろう!」
と、黎人が迎えに来た。
「え?やだー!わたしみんなと一緒が良い!湊人、助けて!」
「やだよ!絶対助けない!」
陽織が手を伸ばすが、湊人はばっさりと切った。
変に助けて、黎人からの怒りを買いたくない!
黎人は、湊人の方をチラッと見て、チッと舌打ちをしてサクサクと陽織を連れ去った。
「えー、俺、黎兄に怒られる!舌打ちされた!」
なんでだー!と湊人が頭を抱える。
陽織を抱えた黎人が帰ってきて、席に座らせる。
陽織は、下を向いてシクシク泣いてる。
「ほら、陽織、和嶺と美織ちゃん来たわよ!」
と陽香に言われて、顔を挙げると美織に抱きついた。
「う、うえーん、美織ちゃん、美織ちゃん、わたしもみんなと一緒がいいー!」
「陽織、いい加減にしろ!みんなに見られてるんだぞ!恥ずかしくないのか!」
高樹も怒ってる。
「和兄様のばかー!美織ちゃんをとったー!」
「えと、陽織ちゃん、ちょっと落ち着いて。わたしは、誰から取られたの?」
「美織ちゃんは、陽織のだもん!」
あ、そう言うこと。
「大丈夫だよ、陽織ちゃん。わたしちゃんと陽織ちゃんとの約束守るからね。だから、待ってて!必ず約束守るから。」
「わかっ、た。約束だよ。」
そう言って、陽織は美織から離れた。
もう、周りは苦笑いするしかない。
「何?約束って?」
と、和嶺が聞くと、
「女の子の秘密だ!って、言ったでしょ!」
と、陽織に怒られた。
え?いつの話?
2人がお色直しで退場すると、黎人も
「なに?約束って。」
と聞いてくる。
「だから、女の子の秘密だってば!」
梓沙も気になるが、ここは大人なので聞かない。
「ママーひみちゅて、なーに?」
鷹人まで聞いてくる。
「秘密はねー、他の人が知ったら、バチが当たっちゃう、こわーいことなの!」
と、陽織が教えてる。
なんだ?それは。
友人席の方にいる羽織たちは、美織に抱きついて泣いている陽織のことを見ていた。
「陽織、あっちでもなんかやらかしてる。」
「ほんと、アイツ、ガキのまんまだよなー。」
「でも、もうすぐ2人目が生まれるんでしよ?」
「んー、鷹人の方がしっかりしてるかも。」
湊人の言葉に3人は、あー、と納得する。
お色直しのドレスも綺麗だった。
美織も陽織の紹介でハルのところでドレスを作ってもらった。ただ、黎人のようにお金をかけられるわけではないので、しっかりと相談して、神城家がその分は負担したらしい。
やっぱり娘の晴れ姿に、かけられるものはかけたかったようだ。
陽織のように何枚も着るわけではないので、真っ白いドレスを纏った。
この写真も撮らねば!と、また陽織が移動しようとするので、今度は黎人も着いて行った。
その様子に、羽織が呆れて、千織が笑う。
「ネエ陽織ちゃん、もう、赤ちゃん動くの?」
仕方なく湊人が立って陽織を座らせていると、美織が言ってきた。
「うん、今も動いてるよ。なんか、楽しいみたい。」
抱きつかれた時は着物だったので、よくわからなかったが、なんとなくそんな感じはした。
「触っていい?」
と言われたので、うん、とうなづくと、美織がそっと触れてきた。その顔が、すごく幸せそうで、陽織はもしかしたら?と、なんとなく予感だけした。
「え、わたしも!」
すると千織も言ってきた。
羽織は鷹人の時に散々触ってたので、珍しくないのだろう。
「うわー、なんかゴニョゴニョしてるー!」
「え?わたしも良いですか?」
美織の大学の友人たちも言ってきた。
「ん?どうぞ。」
と、みんなに触られまくったけど、陽織は何にも感じない。
「あ、なんか、手?足?今、ぼこってなった!」
「うわっ!なんか不思議!」
陽織は呑気にジュースを飲んでる。
甘い飲み物なんて珍しいが、喉が渇いたのだろう。
湊人は、千織に
「なんか珍しいの?」
と、聞いてる。
湊人も、鷹人の時に散々触れたので、今更なのだろう。
そうしているうちに、陽織も落ち着いたのか、満足したのか、黎人が
「そろそろ鷹人が飽きちゃうから、戻るよ。」
と言うと、今度はおとなしく戻って行った。
「たっくんただいまー。」
と呑気に座って、目の前がいつのまにかデザートに変わっていたことに気づいた。
「ママ、ちゃんと、食べる!」
いきなりデザートに手をつけようとしたら、オードブルを突っ込まれた。
黎人さんみたいー。
「陽織、こっちカニのグラタン。食べる!」
さっきジュースを飲んだから、お腹いっぱいなのに!
と、陽織はちょっとムクレタ。
その間、麻美と大樹は、和嶺の医学部の友人や先輩のところに、挨拶に行っていた。
黎人は今日は鷹人のお守りと、陽織の監視だけなので楽だ。と思っていたが、陽織が落ち着きがないので、思ったより忙しい。
(どうして僕のお嫁さんは、臨月間近のお腹抱えてるのに、ひょこひょこ出歩くんだ!)




