陽織、大学卒業(就職編)
3月の末、和嶺と美織の結婚式の日が来た。
美織が和嶺と結婚する。
あの美織が。
陽織は、前の日から感無量で、なぜか泣いている。
初めて美織と会った時、高校の入学式で再会した日。
陽織は、自分のことのように感慨深い気持ちでいっぱいだ。
「だって、美織ちゃんが、和嶺兄様のお嫁さんになるんだよー。きっと綺麗だよー。美織ちゃん、すっごく綺麗だもん。お嫁さんも、きっと!それが、よりによって、なんで和兄様のものになるのかなー!」
「え?陽織は嫌なの?」
「ううん、嬉しいけど。でも、なんかもったいないよー。美織ちゃんこそ、神様の花嫁だよー!
陽織が言うと、いきなり黎人が陽織を抱きしめる。しかも、怖い顔をしてる。
「何言ってるの?僕の花嫁は、陽織だけだよ!」
その言い方が、少し怒っているようだった。
なんで?
「陽織は、嫌なの?僕の花嫁になったのが?」
そして、抱き寄せると陽織に答えさせてくれないほど、何度もキスをする。
返事できないじゃん!
「嫌じゃないよ?陽織は黎人さんが誰よりも好き、だよ?なんで?」
(陽織はわかってない。誰よりも、可愛いのに。)
「それにー、わたし明日、親族の席だよ?友だちと一緒が良いなー。」
「んー、それは無理だねー。でも、明日は着物無理だからワンピースだねー。」
「良かったです!」
悠人の時、着物だったことで、大変だったのを思い出しそこだけはホッとした。
それより遡ること5日。
陽織たち大学の卒業式があった。
憧れの着物に袴姿をすることができて、その時は大満足だった。
羽織や佳織、日緒理と写真を撮り、4人揃って、管理栄養士の資格も取れた。
途中から美織や千織とも、写真を撮ったり!
葉鳥や克哉も一緒に。
さらに卒業しない湊人たちも来てくれた。
ただこの中に、翔太がいない。
それだけが、少し寂しい。
その代わり?颯斗が来て、佳織と一緒に写真に入ってくれた。
陽織が夢中で写真を撮っていると、理学部の坂牧という学生が声をかけてきた。
陽織と同じ、健康食品コシロの研究職に内定している。
「4月から、よろしくね。」
と言われて、実は研究職ではないと言えず、こちらこそ、と挨拶をする。
卒業生総代は医学部をトップで卒業した和嶺だった。
それだけでも、陽織と美織は少し鼻が高かった。
と言うことで、和嶺と一緒に卒業できたことも、陽織には嬉しいことの一つだった。
和嶺は相変わらず大人気で、周りの大勢の人が人垣を作っている。陽織は母の陽香と一緒に和嶺の元に向かっていたが、なかなか辿り着けない。
なかなか人垣を崩せなかったが、陽織と陽香の姿に気づくと、和嶺の方からやってきた。
「陽織、卒業おめでとう。」
「兄様も、おめでとう!一緒に卒業、すっごく嬉しい!」
「母上、今日までありがとうございました。」
和嶺は陽香に頭を下げる。
陽香は最後の二人が大学を卒業したことで、子育てが終わった、と感じている。
さらに、来週には和嶺は美織と結婚して、家を出て行く。本当は一緒に、と言ってくれたが、何せ神月家はそこまで広くない。そこで、二人は明王大学病院の職員が入る家族寮に住む。
美織のことを考えると申し訳ない。
「兄様!兄様、写真、写真!一緒に撮ろう!」
陽織は初めて和嶺とも、2人きりで写真を撮った。
「陽織ー、卒業証書の名前が違うから、他人みたいだよ。」
と、和嶺に言われて寂しかったが。
翌日の謝恩会。陽織は普通のワンピースだったが、羽織たちは振袖姿。
「良いなー。」
と羨ましがりながら、それでも一緒、と言うのが嬉しかった。
(入学式に出られなかったから。卒業式、出られて、良かった。)
そして家に帰り、ちょっと疲れただけなのに、熱が出た。
(熱が出る、ってことは白血球が増えるってことだよね?白血球が増えるのは、体のどこかに、傷や悪いところがあって戦ってるってことだから?)
と、訳の分からないことを考えていたが、それも翌朝にはだいたい下がっていた。
黎人にもそう伝えて、一日中寝てる、と言ったのに、なぜチクった!
スルーしようと思ったのに、美咲に知られて病院に連れて行かれた。
産休まで、来ないって言ったのに!
「熱が出たんですか?」
美咲が後ろについているので、陽織もいつものような話し方ができない。答えに困る。
「あの、おそらく、昨日、一昨日と大学の卒業式と謝恩会で疲れが出たのかと、思います。」
と、おとなしく話す。
「熱が続くことで、羊水の温度が高くなり赤ちゃんに危険が及ぶこともあります。もし下がらないようなら、まだ早いですが、帝王切開ということも。」
と言われて、陽織は真っ青になった。
「いえ、昨夜も37℃台でしたので。今朝も37℃ちょうどに下がってますから、きっともう、平熱です。」
確かに看護師が計ったら、36.8℃まで下がっている。
陽織は、それを聞いて、ね、と笑った。しかし今日の東山は、前回のことがあったせいか、少し怖い。
「陽織さん、少し疲れただけで熱が出るようなら、会社でのお仕事でも、疲れて発熱する可能性がありますね。一度、ご主人と、お話しをしておきましょう。よろしいですね?」
と、威圧的に、言う。
「いえいえ、先生もお忙しいと、存じます。主人も今、年度末の決算時期なので、時間を取るのは難しいかと思います。申し訳ありません。」
あら、今日は態度が違う?
陽織はそう言いながら、恐る恐る美咲の顔を見る。
「そうね、陽織さん、お仕事は無理だと思うわよ。やはりここは主人に話して、神橋さんにも連絡していただきましょう。」
美咲の一言に、陽織の顔色が変わった。
ひっ!
「いえ、お義母様、わたくし今回は色々と無理をしたこともありましたので、お仕事を始めてからは、きちんと休みます。ちゃんと食べます。大丈夫です。」
と、言葉遣いまで違う。
(なるほど、この方が院長先生も頭が上がらないと言う、神代家のお姑さん。)
「わかりました。では、黎人にもその言葉をしっかりと伝えますからね!良いですか?」
「は、はい。」
陽織はいつもと違う態度、言葉遣い、様子で、すごすごと、きちんとお辞儀までして退室して行った。
今日の美咲は怖い!
マジで怖い!
これて、前回東山に、「うざい」なんで言ったことがバレたら、真面目に、就職どころか、一人で家から一歩もでられなくなる!
陽織が出て行ったあと、看護師まで唖然とする。
いつもの陽織からは考えられないくらいにしおらしく、品よく、お淑やかだ。
あの「うざい」発言はなんだったのだろう。
思わず、東山と看護師が顔を見合わせて苦笑した。
そして、その後の3日間は、一歩も家の外に出してもらうことができず、そのままおとなしく過ごした。
途中で、飽きた〜!と叫んでいたが、だからと言ってやることもない。
鷹人も保育園に行っている。
仕方ないので、鷹人の幼稚部に進んでから使うバッグや体操着袋、赤ちゃんの服などを、せっせと作って過ごした。
お昼になると、美咲に呼ばれて一緒に食事をし、そのあとピアノを数曲弾くと、そのまままた、お裁縫をして過ごす。
そして4日目が、和嶺と美織の結婚式だった。




