陽織、防衛本能(就職編)
お正月休みが終わり、黎人は仕事に、陽織はいよいよ卒論と国家試験の2つが佳境となってきた。
お腹も少し出てきて、色々大変だから、と夕飯もクリアとスピカが作れるようにした。
陽織の模倣ができるように。
唯一、味見ができないが。
本を読んで歩く、と言う作業がなくなり、危険性が減ったと思ったら、今度はどこでも問題集を開いている。
病院での定期検診の時に開いていたら、流石に東山に没収された。
「ちゃんと、大事な話は聞く!」
「あ、すみません。」
「ちゃんと寝てますか?」
「食事は?」
と、聞かれて、無言を通した。
もう、それで、答えているようなものだ。
「赤ちゃんいるの、わかってる?」
と言われて
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
と、慌てていた。
「もしかして、高3の時もこんな感じ?」
と聞かれて、また笑って無言を通した。
(流産した理由がわかるわー。)
「国家試験受かって、赤ちゃん死んじゃったらどうするの!?」
「‥え、と、悲しい、です。」
「だいたい、陽織さんなら余裕でしょ?」
と言われて、
「そんなことない、ですよ?世の中、絶対はないですから。」
と答える。
変なところは冷静だ。
「それなら、その気持ちを、お腹の赤ちゃんにも向けて下さい!わかりましたか?」
「は、い?」
なぜそこで疑問形になる?
「赤ちゃんは、勝手に育ってるかと‥。」
「そんなことないです!お母さんの栄養と、睡眠で育ちます!」
と、東山が言ったら、そうなんだー、と言う顔をした。
大丈夫なのか?
よく、鷹人が無事だった。
「じゃあ来月は。」
と言ったら、
「すみません。来月は卒論の締め切りがあるので、たぶん、来られないかと。」
と言い出した。
「先ほども言いましたが、卒論とお腹の赤ちゃんの命、どっちが大切ですか!?」
‥んー。
なぜ悩む?
「今は、その、とりあえず、卒論?」
と答えたので、速攻で院長に電話した。
そのまま、待合室で喧嘩してるので、2人を追い出した。
「今は父様と喧嘩する時間ももったいないから、陽織帰る!」
と言って、帰って行ったらしい。
来月の予約は、黎人に連絡して入れた。
たぶん、本人が忘れても、抱き抱えて来てくれるだろう。
そして、卒論問題は高樹と黎人から神薙に行ったが、本人が納得できないものは出せない、となってしまい、結局、終わっていない。
睡眠不足に関しては、最終的に黎人が威圧で眠らせる、と言う強行手段に出て、食事も美咲によって、なんとかした。
本人的には、全く納得がいかない内容で、一月の末、論文発表会をむかえ憮然としていた。それでも終わった後、立てなくなって、年度末で忙しい黎人の代わりに高樹が迎えに行き、そのまま強制入院させられた。
それでも、まだ論文提出してない、国試終わってない、と大暴れした。高樹から、そのまま暴れるなら隔離病棟に移して拘束する、と脅され、やっと大人しくなる、と言う一幕があった。
その日の夕方東山は陽香に話が聞きたい、と連絡を入れて呼び出した。
「あの、いつも主人がお世話になっております。」
東山は陽香を見て驚いた。顔や仕草、話し方まで、陽織にそっくりだった。
東山は高樹や黎人すら知らない、まだ何かあるのでは?と、思った。母親ならもしかしたら、と。
「陽織が、ご迷惑をおかけして。」
俯いて、泣きそうな顔で話す。
そんなところも、よく似てる。
「あの、これから話すことは、主人も誰も知らないことです。」
陽香は大きなため息をついて話始めた。
「あの子、大学入試、農学部はもちろん、医学部も、満点だったんです。」
え。満点?
「大学入ってからの、成績も、休んでいた科目以外は、特に試験科目は、満点、です。」
「なぜ、それを?」
「あの、私旧姓が神口、で、学長は父、で。今回のこと相談したら、やっぱりって。」
やっぱり?
「え、と。先生は強迫性障害って、ご存知です、よね?あの子、たぶん、一種の。男性のことは、有名、ですが。」
まさか?
「その、だいぶ良くなっていたから、わたしも忘れてて。でも、小学生の五年生の頃から、テスト、わからないと、泣いたり、パニック起こして。中学入試も、それで、ボイコット、しちゃって。」
「大学入ってからは、大丈夫かな?って、でも、まさかここで。」
「できないことが怖い、わからない問題があることが怖いって、こと、ですか?」
すると、陽香は顔を初めて上げて
「そ、そうなんです!」
あ。
「だからたぶん、そうならないように、勉強してるんだと、思います。」
また、俯く。
「だから、黎人さんと結婚してくれて、ほっとしたんです。会社に入ったら、あの子、やっていけないから。たぶん、ミスとかしたら、パニックになって。」
東山はある意味、陽織が優秀なわけがわかった。
「黎人さんも、完璧主義なところがあるから、ある意味似た者夫婦、と言うか。ただ、あの子の場合、極端だから、きっと自分の判断で、必要ないと思うと、わからない、やらない、って切るんです。ある種の自己防衛?本能なのか。」
「それで、今回は赤ちゃんよりも、優先度が、卒論、国試に行っちゃった、と。」
「あ、すみません。すみません。」
なんか、謝りかたまで似てる。
「まずは、今の話を神代さんのご主人に共有しましょう。そこから対策を考えましょう。」




