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陽織、普段着とよそゆき(就職編)

悪い教師と教え子、と言う表現が面白くて、陽織は思わず笑ってしまう。

すると、そこに大神と黎人が入ってきた。

「お待たせー。何?なんか面白い話ししてたの?」

陽織がケラケラ笑っていたのが気になったらしい。


「じゃあ、たっくんお家帰るよー。」

陽織に声をかけられて、大神家の3人と、鷹人がトコトコとやってきた。

「お姉さんたちに、バイバイしてね。」

と言われて、鷹人が手を振った。

その間、黎人は流石に白の紋付き袴は目立つので、着替える。


3人がホテルのフロントに降りると、大樹と両親、円香と両親がソファーで、お茶をしながら話していた。

黎人と陽織の姿に気づくと、6人が軽く頭を下げる。


夏美はかつて、陽香と陽織のことを悪く言っていた。今日は声もかけてこなかった。黎人とどんな話しをしたのだろう。


さっき聞いた大神と黎人の話。

一昨年のパーティーで、黎人が天神を退陣へ追い詰めたこと。いつも優しい顔で隣にいるとは限らないけど、それでも見えない場所での黎人は、やっぱり怖い。 

  わたし、もっと賢くならなくちゃダメだよね?

少し考え事をしながら車に乗ったら、どうしたの?とキスされる。

そういえば、今日は一度もしてこなかったな、などとつまらないことを考える。

隣でチャイルドシートに座る鷹人は疲れたのか、眠ってしまった。

「ん、わたしもっと賢くならなくちゃ、ダメだなって思って。」

陽織が答えると、運転席の黎人の眉間に皺がよった。

   何故?

「いいよ。これ以上賢くならなくて。」

「え?だってわたし、ハオちゃんに、いつもお馬鹿って言われてるんだよ?それじゃダメだな、って。」


ホテル一階のカフェスペースで、神月大吾と妻の夏美、息子の大樹、楠木家の両親と円香がお茶を飲みながら話をしている。


大樹は4月から明王の医学部、円香は麻美と同じ薬学部へ進学する。以前からよく知っていたので、夏美は円香に不満はなかった。

が、どうしても引っかかっているのが、麻美の存在だった。散々陽織を無能呼ばわりしてきた夏美だが、ここにきて、麻美の存在が、恥晒しに思えてならない。

薬学部なんだから、優秀なのに。


「あら?陽織ちゃん。」

円香の母は、舞香と同級生の陽織のことを知っている。舞香は焦っているみたいだけど、ちゃんと就職も決まったし、それで十分、と思っていた。

あとは本人が決めたことを頑張るしかない、と。

「あー、黎人さんも帰られるのか。」

2人が見ていると、黎人たちも気づいて見たので、軽く頭を下げた。

「それにしても、陽織ちゃん、高校生の頃から可愛かったけど、お母さんになって、ますます綺麗になったわね。」

と、円香の母が褒める。

「たしか医学部も合格してたんだろう?」

円香の父が言うと

「伝説だよ!医学部蹴って黎人様の花嫁を選んだ!って、もう、女の子の憧れのマトだもん!」

円香も興奮気味に言う。

「お姉ちゃんから聞いた、階段からバク転して飛び降りたところ、わたしも見たかったー!」

え?そこ?

楠木家3人は、陽織の話に夢中になっている。

夏美はそれを聞いてるのが、悔しいし苦しい。

陽織が農学部に入った、と聞いた時は、少しだけ溜飲が下がったが、その背景を聞いた時は、また腑が煮え繰り返りそうになった。

しかし、今は。


「母さん?」

そんな夏美に大樹が話しかけていた。

「あ、ごめんなさい。」

大樹が医学部に合格し、巫女までできた、と言うのがすごく誇らしい。

せめて、今はその幸せを噛み締めなければ。

「まあ、2人とも6年間は大学に行くことになるし、最後には国家試験もある。術者としての仕事も大事だが、高嶺くんや和嶺くんに教えてもらいながら、頑張りなさい。」

大樹の父が言った。

「そのことなんですけど、湊人先輩が、大学は色々物入りだから、夏休みだけ神代製薬で、アルバイトしないかって声もかけられたんです。毎年、医学部や、薬学部の先輩がやってるみたいで。」

「へえー。湊人先輩って、神代湊人くんだろう?バイト、してるの?」

「神代家は、大学生になったら、自分で稼ぐがルールだそうです。黎人さんも大学生の頃から、子会社を任されて、卒業と結婚を機に今の会社の社長になったようです。でも、湊人先輩は医学部なので、その代わり、と今のバイトを紹介してもらったって、言ってました。」


「今の会社って、神代製薬だよね?陽織ちゃんは、大会社の社長夫人かー、なんかすごいな。」

大吾が感心してると、円香が

「なんか、パーティーとかで、すっごいドレス着てるみたいです。大神先生が笑ってました。クリスマスツリーみたいだ、って。今日のお着物も素敵でしたよねー。毎年違うものを着せられる、ってこの前話してました。」

キラキラとした目で話す。

羨ましいと言うか妬ましい、そんな感情が生まれそうになった時、

「でも、大変でしょうね。陽織ちゃん綺麗になったけど、高校生の頃のような、自由奔放な感じではなくなったもの。佇まいも変わったわよね。」

と円香の母が言う。

そういえば、と、夏美は高校時代の美咲と陽香を思い出す。美人の美咲、可愛い陽香の2人は仲が良かった。ただ性格は真反対で、おっとりしてのんびりした陽香に対して、美咲はキビキビして、はっきりしていた。

美咲は弟たちのわがままでさえ、厳しく叱っていた。

とてもではないが、あんな泣き虫でわがままな姪が、のほほんと過ごしていたとは思えない。


「そういえば、兄も言ってましたよ。陽織もお姑さんにかなり厳しくされているみたいだとは。兄も厳しい人ですが、陽織には甘いところがありましたからね。大変なんじゃないですか。」


家に戻ると、陽織は自分も

着物を脱いで普段着に替える。

着物を3人分、ハンガーに干して、小物をネットに入れてまとめる。洗濯機のおしゃれ着機能で、水洗いできるものだけ洗った。

黎人が鷹人と遊んでいる間に夕飯の支度をしていると、ちょっとお腹が痛くなる。

少し、休んでいると黎人が気づいてやってきた。

「疲れてるんだから、無理しなくていいよ。冷凍庫にあるものでいいなら、簡単に作るよ。」

と言われて、ソファーに座らされた。

「いくら安定期でも、無理しちゃダメだよ。」

そう言ってクリアを出す。


「たっくんもお手伝い!」

そう言って、クリアと黎人、鷹人で何か作り始めた。

その間、洗濯が終わり、スピカがガーデンルームに干してくれた。


やはり疲れていたのか、夕飯はほとんど食べられなかった。そのままうとうとしていると、無理矢理お風呂に入れられた。

お風呂から出た後も、眠くて目が開かないまま、黎人が髪を乾かしてくれた。

鷹人はお利口に、自分で部屋に行ったらしい。

乾かしたもらいながら、うとうとと倒れそうな陽織を支えながら、黎人が笑う。

「賢くなるんじゃなかったの?」

昔はどこでもこんな感じだったけど、最近は流石に、ここまで無防備なところは、他の人の前で、見せなくなった。


新年会の場ではずっと、着物姿で、凛とした佇まいをして座っていた。

まさによそゆきの陽織だった。

でも、家に戻って着物を脱いだ途端。

そう思うと、黎人は陽織がより愛おしくなる。

ちょっと出てきたお腹では、ママが眠っているのを起こそうとするかのように、動くのがわかる。

黎人は髪どころか、まだ寝巻きも着ずに下着姿で寄りかかって眠る陽織に話す。

「ほら、陽織。赤ちゃんが起きないと、パパに襲われるって、警戒してるよ。」

黎人はそう言って、陽織をベッドの中に押し込んだ。

  可愛すぎるでしょ!

  僕のお嫁さん!










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