陽織、新年会とお受験(就職編)
新年会の会場には、いつもよりも大勢の人が集まっていた。いわゆる分家筋の人も。
相変わらず黎人と陽織は、上座に座らされている。今年の黎人の装束は、陽織が縫ってクリスマスにプレゼントした。
いつもと同じ白一色。
大神の挨拶で始まり、今年から正式に十神家に入る、神口明孝の挨拶が入った。
その後、黎人が一昨年の天神のパーティーであった顛末について、再度説明をする。
パーティーに招待されていなかった人、欠席した人、分家の人にも、わかりやすいように。
そして、そのあと神鬼が巫女を必要とする使役獣と、それを持つ術者、巫女との関係について説明をする。
神鬼の話を聞いて、知ってる人は納得し、知らない人はただ驚いている。
中でも、自身が普通の術者で、子どもが使役獣を持つ術者になったり、巫女になってしまった親にとって、衝撃的な話だった。
そのパートナーは一生涯の伴侶となること。
他の相手を選んでもいいが、霊力が尽きるようなことがあれば命の危険性があること。
他の人では子どもができないこと、など。
「え、それじゃうちの大樹の相手って、楠木さんの下の娘さんってこと?」
夏美の声が陽織の耳に届いた。
それは喜びなのか、それとも蔑みなのか、陽織にはわからない。
話が終わると、神岡宗吾の乾杯の挨拶で、あとは宴会となった。
黎人は車ということで、アルコールを一切断っている。周りのお酌を断ると、ガッカリする人もいたが、陽織のことを伝えると、ほとんどの人が喜ぶ。
「お2人目ですか、それはおめでたい!
「神子様が増えるということですね。」
と。何がめでたいのだろう?
鷹人は、今回黎人とお揃いの白の紋付袴を着て、陽織との間にちょこんと座っている。
来る人、来る人にちゃんと挨拶もしていて、褒められている。
「ママ、たっくんにいしゃまだからできる!」
といって、初めから小さい子たちの部屋に行かなかった。
''にいたま"がいつの間にか"にいしゃま"になっているのも、面白い。
「おめれとーございましゅ。」
と、挨拶しては頭を撫でられたり、ジュースやお菓子をもらったり、中にはお年玉をくれる人もいて、黎人が慌てて、断っていた。
もう、お年玉は曽祖父、祖父母たちからたんまりもらっていて、怪獣が何体買えるのかわからないくらいだ。
「たっくん、怪獣さんは卒業ね。」
と言ったら、なぜか親子でブーっと膨れた。
そして、黎人が
「鷹人、次はロボットにしよう!」
と、また邪魔になる趣味を教えている。
できれば、断捨離とかを趣味にして欲しい。
それどころか、陽香が何を考えてるのか、お腹の子が女の子らしいと知った途端、ピアノを送ってきた。
そして新年の挨拶で強調する!
「陽織、女の子はピアノとバレエは必須よ!陽織も、お腹の中にいる時から、なるべく弾いて聞かせるのよ!情操教育は、大事だからね!」
と言ってきた。実は、邪魔だから母屋に置いてもらっている。美咲まで
「陽織ちゃん、スケートだけかと思ったら、ピアノも、編み物も、料理も上手よねー。語学もすごいし!最近和裁とお茶もちゃんと資格取ってるし、やっぱり女の子は多趣味で良いわー!」
と喜んでいる。
やめてほしい。単に、子どもの頃、FBIやCIAに入ったら潜入捜査で、色々できた方が良い、など、つまらない夢を見ていた頃の名残り、だけなのだが。
1時間もすると、鷹人が飽きてきたので、子ども部屋に移動することにした。
黎人も、2人を送りながら一時退席。
「ごめんねー、疲れたでしょう。毎年毎年、よく飽きないよね!まあ、じいさんたちにとっては、生存確認なんだろうけど。」
生存確認って。
一番小さい子がいる部屋は、絵梨花や梓沙もいる。将人と大地の姿を見つけて、鷹人がわっと走り出した。
お、その途端、袴を踏んで転んだ。
あ!
「う、ぶうわーん!ウエーん!」
鷹人が泣き出した。
顔を思い切り強打したらしい。
「たっくん、そんな格好で走るから。お着替えしないと、遊べないよ?」
と陽織が、鷹人を立たせてギュッとする。
「マンマンママ、ママー!」
3歳になっても、泣き方は変わらない。
「陽織様。」
後ろから真凛と菖蒲が、鷹人の着替えが入ったカバンを差し出す。
こんなところまで、正月早々お仕事とは。
本当に、黎人は人使いが荒い。陽織は鷹人の手を引いて、部屋の隅に移動すると、将人と大地も、着いてきた。
「可愛いねー。白の紋付袴。パパとお揃い?」
梓沙が覗き込んできた。
「はい。黎人さんの着物を縫ったので、ミニチュア版も作ってみました!」
「陽織様が縫ったのですか?」
絵梨花も覗き込む。
「はい、わたし、それくらいしかクリスマスプレゼント、あげられないから。お金、持ってないし。」
と、俯く。
いやいやいや、反物だけで、万単位だし!
縫うほうが、すごいと思います!
2人は目を点にする。
鷹人は服を着替えると、将人や大地と遊び出した。
陽織はそれをみてほっとする。
そこに、絵梨花と梓沙が来て話を始める。
気づくと、大神の妻、聡美もやってきた。
「大神先生には主人共々、お世話になっております。」
陽織は、色々頭が上がらず、とにかく挨拶をした。
聡美はあはは、と明るく笑って、レイリーの幼稚部、保育部の3人の子どもを呼び寄せる。
「こちらこそ、色々とお世話になってます。子どもたもレイリーに入れてもらえたし、助かってますよ!」
と言ってもらえたので、嬉しかった。
母としての先輩だ。
「大神先生には、わたしもお世話になりましたよ。」
と、梓沙も隣で笑っている。
絵梨花がギリギリ高3の頃に大神は黎人の初担任になったので、綾人はすれ違いだ。
「まあ、ウチの主人も、黎人さんと陽織さんのことは、いつも、本当の弟妹のように可愛がっていますよ。今でも。」
え?イヤイヤ、それはやめて!
その時、梓沙が4月からの入園について聞いてきた。
「大地もレイリーに入れたいのだけど、まだ間に合うかしら。一応、近所の幼稚園には申し込んであるけど、できればお友だちと一緒がいいし。」
幼稚園の申し込みは、原則10月。
すでに来年度は締め切っている。
ただ、レイリーの場合は神代グループの社員の子ども優先で、空きがあれば、というのが原則だ。
大神家はなんと言っても、陽織と黎人の恩師、ということもあって、聡美が看護師に復帰するときに、優遇した。
もちろん、幼稚部は有料になるが、他の私立幼稚園よりも安い、と言われる。
さらに、今年度卒園の子ども12人が、全員国立大の附属や、有名私立大学の附属小学校に合格しているということもあり、人気が爆上がりだ。そのため、子ども園のレイリーとは別に4月からは2階の空いてる部屋で、幼児教室が始まる。
本当は、意に反すると陽織は反対だったが、予算の時のインパクトと、先生たちにゴリ押しされた。
実際、4月から陽織は他の会社の社員になるので、園長を先生の中から一人お願いすることも決まっている。
「わたしは、お受験とかは、あまり乗り気ではないので、もっとのびのびが、良いのですが。」
と陽織が言うと
「え?レイリーのびのびですよ?ただ、自由と自分勝手、をきちんと躾けてるなー、とは感じます。そこが受験でも、評価されてると思います。」
と絵梨花が。
「そうですね。今の親の中には、自身もそのけじめがわからない人が多いので、自分で育てるだけだと難しいです。レイリーは、陽織さん自身も、先生を信頼されていて、鷹人くんが注意されても、文句を言うことはないでしょ?そこが、ちゃんとしている、と言うか。」
と、聡美も重ねて言ってきた。
「わたし、自分がわがままだから、他の人の方が、ちゃんと育てられるので、任せっぱなしと言うか。」
陽織は苦笑する。
「確かに、陽織様は我が強いですものね。」
絵梨花は就活の一件を知ってるので、ちょっと呆れて笑う。そう言われると、返す言葉がない。
だいたい、ここにいる3人からも、なぜ就職?と言う顔をされている。
就職だって、自分の我を通した結果なので、絵梨花に言われたことは、間違っていない。
「わたしも、本音を言うと、受験は早くて中学と思う。でも、公立の小学校は、この子たちが入って理解してもらえるとは、思えないの。」
聡美は今度明王大附属小学校に入る、年長組の仁美を見て言う。
確かに、陽織も先日の事件の被害者、恭子のことを見たとき、理解してもらえないことの苦しみを、初めて知った。
鷹人はすでに、物理的に色々やらかしている。
到底、一般の学校で受け入れられるとは思えない。
仁美は色々見えすぎるので、小学校に上がれば、見ない訓練をしてもらえる。
「受験とかなくても、明王がこの子たちを受け入れてくれれば良いのに。」
梓沙がぽつんと呟いた。
自分たちの親も、こんな思いをしてたのだろうか?
と、考えたとき、突然陽織は自分の中学受験を思い出した。
なぜ陽織の封印を高校に入る前に解いたのか、なぜ明王の中学を親が受験させようと思ったのか!
「アー!そうだったのかー。」
もし、中学から明王に行っていれば、もっと早く黎人に会えて、黎人が荒れることはなかったかもしれない。
でも、もし受かってたら、スケートはもっと早く辞めなければならなかった。
えー、どっちが良かったのー?
でも、そしたら黎人さんが荒れたのは、
わたしの、せい?
「陽織さん?」
「どうかなさいましたが?」
「わたし、何も知らないで、中学入試、ボイコットした!」
今更ながら、恥ずかしくなった。
それを聞いて、梓沙が
「あー、あれね。」
と笑い出した。
それから30分くらい経つと、広間が騒がしくなり、今年の新年会が終わった。昨年のあの長い長い新年会を思うと、本当にあっさりしたものだった。
ただ、その後、例の使役獣の術者と巫女の家族との話し合いに、神鬼や黎人が呼ばれていて、他の人が帰る挨拶をしているのに、なかなか帰れないことになってしまった。
高嶺が送っていく、と言ってくれたが、大神の家族も同じだ。
聡美はお腹の大きい陽織を気遣ってくれたが、陽織は一緒に待つことにした。
「あの、大神先生の奥様も、巫女なんですよね?」
「?奥様なんて、名前で、良いですよ。」
「あ、じゃあ聡美さんも。」
「はい、そうです。梓沙さんのように、あまり現場には行きませんが。わたし、攻撃がからきしなんで、足手纏いになっちゃうから。」
聡美はそう言って笑った。
「そう言うのって、選べるんですか?」
「んー、それぞれの話し合いかなー。高校や、大学までは、一緒に行ってましたよ。千織さんや美織さんたちみたいに。でも、大学4年の時、この子ができた上に、攻撃できないとなると、完全にお荷物ですから、それからは、補給オンリーです。」
なるほど、と陽織はうなづく。
陽織はどちらかと言うと、慣れてきてからは、黙って見てられないこともあり、自分が先頭立つこともある。以前湊人と階段を飛び降りた病院の結界張り直し、がそうだ。
「わたしは、待ってられるかなー。」
陽織は巫女ではないので立場が違う。
「それぞれでいいと思います。ただ、きちんと話し合っておかないと、天神さんのようなことになるから。だから、主人も、黎人さんも、今回のような場を考えたと思うんです。黎人さんが長になってから、風通しが良くなった、って、みんな言ってますよ。」
「風通し?」
「前は、一応主人が立場的に副をやってましたが、何もわからなかったそうです。天神さん一人で色々やっていて。お金のことなんて特に。」
「お金?」
「知ってました?こう言う集まりの時、神澤さんのように、どうしても出席できない方は、寄附をされてるんです。でも、そんなの、誰も存じなかったんですよ。黎人さんが長になって、きちんと、みなさんに伝えてますよね?」
当たり前じゃないの?と、陽織が目を丸くする。
「天神さんは、かなり着服していたようです。」
「着服‥。」
??ってなんだっけ??
まあ、悪いこと、だよね。
「問題が起きても、なんの話し合いもなかったそうです。だから、被害に遭った人は、一方的に損害を受けたり、逆に何もわからないまま、加害者にされたり、それでも、誰も気づかない。酷いでしょ?主人は、逆らえなかったため、2年目には辞めるつもりだったんです。そしたら、黎人さんが現れたので。」
(だから、退場して欲しいって。)
「神代さんや神月さん、神岡さん、神城さんって、どんどん巻き込んで、二人で色々画策してたわよ。全く、悪い教師と教え子よね!」
聡美がウフフと笑った。
「天神さんは、まだまだ自分がトップにいたかったらしいのに、どんどん周りを固めて、長の座を奪っちゃうんだもん。」
「




