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陽織、たっくんの検証(就職編)

六本木の件は、結局、神次のように異界を移動させて、獲物を狙う、と言った悪霊と化した元男子学生の仕業だった。

彼は生前、顔が原因で女性と話もできないと言う、コンプレックスを持っていて、最後には好きな女性を殺し顔を潰す、と言う犯行に及んでしまった。

その後、彼は何者かによって、ビルから突き落とされて死亡した。そのビルが、六本木のあの付近に、20年ほど前まであった。


もちろん、元、で現在は命がある人間ではない。さらに殺人犯!

そのため、最終的に彩奈たちが祓ったのは、正解だった。


その様子を、剛志と彩奈は、事細かく宏輝に説明しながら今回の仕事を行っていた。

要は、前回の高校生たちが弱い理由に、きちんと指導できない、現在の大学生組にあるのではないか?と言うことから始まった、若手のやり直し教育だった。


それは黎人と陽織の2人に責任があるのては?と言うのが、前回からの反省だった。

本来なら、きちんと連携をとって当たることも、ゴリ押しで解決してしまう世代が、ここ続いていた。


黎人世代は、いざとなれば黎人がどうにかする、と言う考えと、黎人に負けたくない、と言う2つの思いで、個々の力が爆上がりしていた。

同様に、陽織の世代も、湊人や美織たちが陽織に負けたくない、と言う気持ちと、陽織が作る食事による回復力で、力押しができた。そのため、自然と全員の力が高く、個々でそこそこ依頼を達成してしまう。


そこで、今回は、それよりも上の先輩たちと組み、下の面倒を見ながら、再教育しようと言うものだ。

そのためにも、より危機感を感じるものを選んだ。

これは宏輝たちっけでなく、湊人と千織、和嶺と美緒にも行われた。

とくに、湊人と和嶺は本来なら、高嶺や黎人に変わって、リーダーをやってるはずなのに、先頭立って走りまくっている。

全体を見ていない、と、指摘だらけで、この2組は彩奈たちからかなり怒られた。


そんなこんなで、クリスマスイブの日になった。

毎日卒論と勉強に追われていた陽織も、この日ばかりは、2人のためにケーキを焼いてご馳走を作った。

クリスマスイブの日、早めに仕事から帰って来た黎人は、鷹人が寝たあと、サンタクロースに扮してプレゼントを靴下?に入れようとして、入らないことに苦戦していた。

それはそうだ!

陽織はそんな姿に笑った。

あの日15歳だった陽織も、もうすぐ22歳になる。

そして2人のお母さんだ。


「陽織は変わったよね。」

「え?そうかなー。」

「うん、あまり泣かなくなった。」

黎人に言われて、ウフフと笑う。

「それに、ちょっと大人っぽくなった。」

「本当?羽織ちゃんには、今でもお馬鹿って、言われるよー。」

「んー、変わらないところと、変わったところ、両方あるかも。でも、お母さんらしくなった、かな?」

「えー、嬉しい!」

そう言って、陽織は黎人に抱きついた。

今日は特別な日。

6年目の記念日。

大切な、たくさんの記念日の一つ。

「良かったー、今日、安定期に入っていて。」

黎人がホッとしたように言うと、陽織は今でもクリクリと甘えてくる。

「これは変わらないところ。」

え?と、陽織は自分では無意識らしい。

6年前の今日、陽織が初めて黎人を受け入れた日。


「おはよう、黎人さん、たっくん。」

黎人と鷹人が起きると、陽織は朝食とお弁当を作っていた。

やっと、いつも通りの朝が戻って来た。

でももうすぐ、そのいつも通りの朝に新しい家族が増える。

クリスマスの今日は、鷹人の保育園でクリスマス会がある。陽織は絵梨花と見に行く約束をしていた。


まあ、色々問題が山積みと言うことで、次の新年会には、当主だけでなく、分家の人にも招待状を送った。

あのパーティーで話した、大切なことを全員が知るために。

中でも、使役獣を持つ術者と巫女、その親たちに。


今年の年越しは、陽織のお腹が大きいと言うことで、夜外で過ごすのはやめた。

3人で神明神社に行ったら、優太が話しかけてきた。

使役獣のいる術者と普通の術者の違いについて。


炬燵の中で、陽織は隣に鷹人を座らせてみかんを剥いている。

「たっくん、美味しい?」

「おいしー!」

「甘い?」

「うーん!あまーい!」

?んー。

(この場合の甘い、は飴とかの砂糖的な甘い、とは違うよねー?あ、でも、果糖だから、しょ糖はブドウ糖と果糖で、同じ成分は入ってるし。)

と、何か唸っている。


「普通、高校入るとさー初めに召喚教わるじゃない?そうすると、必ずみんな、精霊とかなんらかの使役獣持つよね?なのに、巫女がいるのと、いないの、どう違うの?」

「基本的には、神様がいる獣と、いない獣かなー。あとは強いとか弱いとか、希少とかそうじゃないとか?」

「神様がいる、いないって、どうやってわかるの?」

「大神様に聞けばわかる?」

「誰?それ、大神先生?」

あははと黎人が笑った。

「違う違う!ぼくの前世の父上かな?」

「はあ?余計にわからない。陽織さんは、わかる?」

「陽織に聞いても、わからないよ。ねー。」

「ん?陽織、今たっくんと検証中。」

あ、卒論のことで頭いっぱいだ。

何か鷹人に聞いてはノートにメモしてる。

よくわからない。


「僕たちや陽織のお兄さんたちは、全員龍を使役してる。これは神様の中でも、最上級。他にも、父上や高樹さんの鬼。それから白虎、狼、鳳凰や朱雀といった鳥類、狐っていうところかなー。」

「その種類が使役できると、すごいんだ。」

「そうだねー。だから、優太もすごい!」

黎人にいわれて、優太は嬉しそうだ。


除夜の鐘が鳴ったので、ちょっと外に出たが、あまりにすごい人で、諦めて中に入る。

「今年は、昼間にしよう。」


お正月の朝、陽織はだし巻き玉子、すまし汁を2種類作った。

出汁入りと、出汁なし。

周りは何をしているのかわからない。

それぞれを鷹人に食べさせる。

「たっくん、この玉子焼き、美味しい?」

「美味しい!」

「甘い?」

「甘い!」

「しょっぱい?」

「んー、ちょっと?」

「こっちは、甘い?」

「甘い!」

「美味しい?」

「んー、たっくん、おいしくない。」

   おー!3歳でも出汁の旨みがわかる!

   これは、発見!

正月早々何をやってるんだ?

と、美咲たちは陽織のノートを覗き込むが、よくわからない。わからないように、色々な言語で書いてある。

   そこまで秘密じゃないだろー。


「陽織ちゃーん、陽香から贈られたピアノどうする?」

「邪魔だから、どこか部屋の隅にでも置いてください。」

「邪魔って。」

「アップライトだから、隅に置いておけば、物置にも使えます。」

「ちょっと、親が贈ってきたピアノ。」

「ねえ、陽織。せっかくだから、何か弾いてよ。」

「わたし、今、たっくんで、検証中なんです。」

「ちょっと、自分の子を実験に使ってるの?」

「一人の被験者じゃ、データ不足じゃない?」

先ほどから、黎人と美咲がうるさい!

   アー、でも、もっと被験者欲しい!

   休み明けにレイリーに行くか!

「わかりました。まあ、とりあえず多少のデータは取れたので。」

「じゃあ、弾いてよ。そのためにお義母さん、プレゼントしてくれたんでしょう?」

「えー?お金ないくせに、変なところお嬢様なんだから!」


ピアノは、母屋のリビングに置いてもらった。

元々実家にはグランドピアノがあったのだから、どうせならそちらを送って欲しかった。

  まあ、美織のものになるんだろうけど。

ピアノの鍵盤の鍵を開けて、蓋を開ける。

  あ、本当に新しいピアノだ。

  珍しい。

最近、ピアノも売れないようで、中古も出回っていると聞く。

10年近く弾いてないから、指が動くかわからない。

スケート以上に難しい。

とりあえず、簡単なパッヘルベルのカノンを弾く。

すると、お腹の中で動いた。

   あ、面白い。

次にちょっと早めのトルコ行進曲。

   あ、暴れてる!

少し面白くなったので、ラ・カンパネラや英雄など、よく知られている曲を次々と弾いていると、鷹人が興味を持ってやってきた。

鷹人も知ってるキラキラ星を弾いてあげると喜んで歌い出す。


自分も弾きたくなって鍵盤に手を伸ばす。

陽織が膝に乗せようとしたら、ちょっとお腹が出てきたのか、うまく座れず落ちてしまった。

   あれ?

仕方ないので、椅子を半分開けて座らせた。


なぜか、お正月一日は、陽織と鷹人のピアノの連弾で終わった。











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