陽織、勉強復帰(就職編)
今週末は三連休になる。
陽織はその後から大学に復帰するつもりでいる。
そのためにも、三連休の初めには完全に元気になって家に帰りたい。
黎人は昨日、特許権を勝ち取って、意気揚々と陽織のところに来た。
「陽織分のおかげだよ!」
と嬉しそうに、何度もキスとハグを繰り返す。
それも、看護師やら東山がいる前で。
もう、陽織は、恥ずかしくなって、最後は突き飛ばした。
「もう、良い加減にしてください!」
若い看護師は目を逸らすし、東山は後ろを向いて笑っている。
「大丈夫ですよ。神代さんご夫婦の仲の良さは有名ですから。」
東山にそう言われて、陽織は真っ青になる。
有名?
なんで?
何が?
「でも、そのお子様の前では、気をつけてくださいね。」
と言われて、原因がわかった。
「たっくんのねー、パパとママは、ラブラブなんだよー。いつもねー。」
と、保育園で、色々おしゃべりしていることを知った時は、本当に赤を通り越して青くなった。
2人きりになって、改めて陽織は黎人に声をかけた。
「おめでとうございます。でも、なぜわたしのおかげなのですか?」
そう陽織は不思議そうな顔をした。
「それはー。んー、なんて言えば良いんだろう?」
黎人も上手く説明はできないようだ。
「とにかく、陽織のおかげなんだよ。だから、今週末には、家に帰ろうね。」
そう言われて、なんだか嬉しくて
「はい。」
と答える。
帰りたい。
そして、今日。
東山が金曜日、退院しましょう、と言ってきた。
「もちろん、明日の様子を見てからですけど。」
陽織は嬉しくて、その日は一度も気持ち悪くならなかった。
もう、大丈夫。
そして、翌日も。
「明日、退院して、いいんですよね?」
陽織は朝の回診の時、思わず東山に聞いてみた。
「そうですね。昨日も体調良かったみたいですし。今日一日なんともなければ、明日。」
そう言われて、陽織はすぐに黎人に連絡を入れた。
お昼休み、黎人から返事が来る。
明日、午前中お休みを取って迎えに行く。
と。
午前中、退院の手続きが終わると、陽織は黎人の車に乗り、そのまま家に、と言う黎人を制して大学に向かってほしいといった。
一昨日メールした論文の添削について、教わりたいところがあったから。
そう言うと、黎人はえーっ?と、嫌そうな顔をする。
「今日はまだ家でゆっくりしててよ。落ち着いて仕事できない!」
そう言われてしまうと、嫌とは言えず、仕方なく家に戻った。
前と違い、すっかり自分の家になった我が家を2週間も開けるなんて。そう思っている自分に少し驚く。
荷物を置いてシャワーを浴びる。
着替えると、髪を乾かして、部屋の片付けを始めた。
さほど散らかってはいないが、窓が閉めっきりだったのか、なんとなく気になる。
スピカとクリアを出して、手伝ってもらった。
「ここはわたしのお家。わたしのお城。」
そう言いながら、洗濯をしたり、シーツやベッドカバー、枕カバーも取り替えた。たぶん、黎人も忙しくて、そこまではできなかったはず。
鷹人の部屋も掃除する。
いつのまにか、またおもちゃが増えてる!
きっと、寂しいだろうと、みんなが買ってあげたに違いない。
もう!
夕飯は何にしようか。
ずっと手抜きだったから。
でも、動きっぱなしだったら、またちょっとクラクラしてきた。
まずい!
そう思って、ソファーで少し休んだ。
野菜とお肉を切って、電気圧力鍋に入れた。
これなら立ちっぱなしにならない。
お味噌汁も、久しぶりに作った。
ちゃんと、味見もできた。
ホッとして、またソファーに座って休む。
夕方、美咲が鷹人を連れて帰ってきた。
鷹人は陽織が家にいることに、すごく喜んだ。
「ママ!ママ、きょうは、だいじょーぶ?おうち、いる?」
「大丈夫だよー。もうずーっといるよ。」
そう答えると、そうっと抱きついてきた。
きっと飛び付いちゃダメ、と言われたのかもしれない。そして
「たっくん、兄たまになるー!」
と喜んでいる。兄様呼び、確定なんだー。と陽織は、ちょっと遠い目をした。
「うん、赤ちゃん産まれたら、たっくんは兄様だねー。楽しみ?」
と聞くと、
「うん!」
とニコニコしながら、答えた。
黎人は家に帰ると、部屋がきれいになっていたことや、しっかりと夕飯ができていたことに、少し眉間にしわを寄せた。
「また、無理をしちゃだめなのに。」
と心配してきた。
「でも病気じゃないし、もう大丈夫だと思うから。」
とは言っても、昨日まではずっとベッドの上だった。
いきなり動き回っては、危険に決まっている!
「休みながらやったよ。」
といっても、心配に決まっている。
そういって、
「後片付けは僕がやるから、陽織はベッドに直行!」
と、抱き上げられて、そのままベッドの中に放り込まれた。
その後ろを鷹人がついてきた。
「たっくん、ママ見張り!」
と誰が教えたのか、陽織のそばから離れない。
翌土曜日も、寝たり起きたり、といった一日を過ごさせられた。
朝ごはんを作って、朝食を終えると、ソファーに横にさせられる。
昼食が終わると、ベッドに連れていかれる。
「もう!これじゃ、月曜日から大学で過ごせないじゃない!」
と怒った。
「だってベッドの中にいても、どうせパソコン出して勉強しているじゃない!」
(そうじゃなくて、一日中大学の中を歩き回る体力を回復したいのに!)
しばらく、睨めっこしていたら
「わかった!それじゃ、真凛たちだじゃなくて、大学の中を抱いて運べる精霊を一体召喚しておこう。」
と言い出した。
あ、あくまでも精霊なんだ。
「男性のボディガードじゃないんだね。」
とつぶやいて、ほっとする。
しかし、そこでほっとしている場合じゃない!
「なんでわたし、抱き上げられて移動すること確定なの?」
どこかの小説に出てくる何とかマイン様じゃあるまいし!
翌日曜日、黎人は神嶋の依頼を受けて、神薙たち高校生グループを連れて、奥多摩に行くことになった。
一緒に高嶺も行くらしい。
神薙の息子は、神薙桐吾と言って、銀虎を使役する高校二年生だ。
そのほかにも桐吾の巫女、神明家の息子と巫女、黎人たちの従弟たちもいる。中心になるのは現高校2年、3年生らしい。
「正直、湊人は自分の弟だったし、陽織は絶対的な力があることを知っていたし、自分がついていたからあまり不安はなかったけれど、今回はめちゃくちゃ不安!」
と言いながら出かけた。




