陽織、もう勉強する?
高校に入学してまだ半年経っていないが、陽織は今までの学校生活で、一番楽しいと感じていた。
たとえそれが、地獄の勉強合宿でも。
長野県安曇野にある、明王学園の合宿所「清風荘」は、朝から清らかな風など吹いていなかった。
午前8時から1時までの5時間。午後2時から午後7時までの5時間。計10時間の授業が、一週間続く。
「なんのために長野まで来たの?」
「美味しい空気ってどこ?」
「朝ごはん、食べ損ねたー。」
一年生のΓ教室には、I日目にして早くもギブアップを宣言する生徒の姿。
そしてコレが、午後9時まで続くのが、高校三年になる。
「おらー、大変なのはお前らだけじゃないぞー!」
古文の授業に大神先生が入って来た。
古文と日本史がΓクラスの陽織は、一人クラスメイトのいない教室で、授業を受けている。
しかし、一番低いクラスだからなのか、先生の教え方が、いつもと違い、超スローペース。お陰で、いつもよりもすごく良くわかる。
数学や英語は?と言うとαクラスだったので、早い早い。すでに高二の内容に入っていた。αクラスはαクラスでかなりしんどい。
「陽織ー、今日やった微分のところ教えてー。」
数学が苦手、と言ってもαクラスの羽織が泣きついてきた。
と言うよりも、あれは高一には早くね?と自称数学ガールの陽織でも思う内容だった。
「美織さん、先程の英文のところてすが。」
Sクラス以外で、αに入った生徒も質問してくる。
中でも、学年ワンツーの湊人と美織は、他クラスから引っ張りダコだ。
一方Γクラスのゆったりペースと来たら、と陽織は
思っていたが、根っからの勉強嫌いの人々にとっては、宇宙語を話されているようなモノかもしれない。
「古文の活用形って何?」
「あれ?平安京って大阪だっけ?」
「女流歌人の名前って、秋田小町だっけ?」
「ん?花の色は?って、はあ、それって小野小町でしょうが!」
と言った会話が、教室内で飛び交い、教える方も大変だ。本当に名門進学校の明王なのか?
合宿もあと2日となった日、一年生は唯一オフがもらえた。明後日は午前中試験があり、午後には帰る。そのため、オフと言っても、試験勉強のためのオフということなのか?
と思う人もいれば、関係ないと近くの美術館などに遊びに行く人もいる。明日は一日自由だ。
「美織んは、今日はどうするの?」
クラスメイトに聞かれて、一日中読者、と答えていた。それを聞いた陽織は、あ、それは素晴らしい!と思う。
「ひおーっ!わたしたちと美術館行かない?」
羽織と千織は、遊びに行くらしい。
陽織はその時、スマホでちょっとした情報を見つけた。
「そっか、そういう時期だよね。」
陽織はその後、スマホで何かを探している。
いつものように朝6時に起きて合宿所の周囲を散歩。同じ敷地内には、明王学園が持つコテージやプチホテル「清風」もある。
陽織たちが散歩をしていると、庭の向こうに見たことのある人がいた。
「え?え?」
陽織が立ち止まると、あちらも気がつく。
しばらく、あたふたして、拳を握って腕を上下に振っている。謎の動き?
でも、そのうちまるで思い詰めたように、ぐわわっと勢いをつけて駆け寄って来た!
「え?え?え?」
目の前でパッと止まると、陽織の手を掴む。
「お、おはよう、ご、ざいます。」
陽織は手を振り払って、お辞儀をした。
「あ、あの、先日は、兄が、失礼いたしたそうで。」
なんか、言葉がへん?
「おはよう、陽織さん。」
そのうち追いついて来た悠人が、爽やかな笑顔で挨拶をした。
周囲を散歩していた高校生が、二人の姿に気づいて、きゃーきゃー言っている。
「僕たち、昨日まで近くの廃寺を、ちょっとお掃除に行って、今日帰るんです。」
何も聞いていないのに、悠人が話す。そんなこと、ここで話していいの?
しかし、陽織のすぐ近くにいるのは、いつものメンバーなのでみんな、アーお掃除ね、と言った顔をする。
まあ、廃寺といったらそう言うことだろう。




