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陽織、辛い日、再び(就職編)

翌日、陽織は大学のゼミの先生に話した。

前日、戻れなかった理由も。

予定日は5月なので、ちゃんと最後までがんばると。

それでも、もしかしたら、休むことがあるかもしれないと。


同じ4年生のゼミ生は日緒理と、陽織を入れた8人。大学院生が4人。その誰もが、陽織のことを受け入れてくれた。

「神代さんは結婚してるんですもの。子どもができたって、それは普通のことでしょう?」

ゼミのトップ、神薙笙子教授が言ってくれた。

「でも、わたし。」


今日、黎人は神橋と話をすると言っていた。

   もしダメなら、わたしはやっぱり。

   神代の屋敷から、出られなく、なるの?


「その、よろしく、お願いします。」

陽織はみんなの前で頭を下げた。


そして、その翌々日頃から、朝食と夕食は食欲が無い日が続くようになった。それでも就職のことや国家試験、卒論のことを考え我慢した。

我慢できるのなら、我慢しなくちゃ!


また、鷹人の時と同じ。食べられなくなった。

水を飲んだだけでも吐き出してしまう。

栄養不足と水分不足。

そして、霊力も不足してしまう。

それでも、前のように家にずっといるわけにはいかない、と言う緊張感から、大学にいる間はなんとか頑張れた。

お昼はちゃんと食べられた。

水分も取れた。大学、マジ神!


黎人もなんとか陽織が倒れないように、水分補給や霊力補給を毎日こまめにした。

前は、悪阻がひどい時、キスを嫌がったが、そんなことを言ってる場合ではないこともわかったので。


そのことから、すぐに美咲にバレた。

「みぃちゃん、パパ、ママに、チューしてばっか。」

保育園に向かうため、朝3人が車に乗り込むと、鷹人が美咲に言った。

「ちょ、たっくんパパが、内緒って!」

陽織が慌てたことで、美咲はすぐにピンと来た。

「えー?陽織ちゃん、いつ、いつ?」

「え、と。その、まだ。」


そう言うと、ちょうど車が大学に着いたので、陽織はすぐに降りて行った。

しかし、そんな日も限界があった。

11月に入ってすぐ、陽織は研究室で倒れた。

意識はある。あるが、目が回って立てない!

「陽織!」

日緒理や同じ4年の川瀬、佐伯の2人が陽織を抱えて、応接室セットのソファーに寝かせる。

「陽織、どうする?保健室行ける?」

「救急車?」

「だ、だい、じよう、ぶ。」

答えられたけど、目が開けられない。

「誰か保健の先生を呼んでくる?」

「男の先生なら、陽織運べるんじゃ。」

「ダメダメダメ!陽織、男性恐怖症!」

「なのに、結婚してるの?」

川瀬と佐伯が呆れる。

「とりあえず、黎人さん、あ、陽織のご主人に連絡する。」

日緒理はスマホを出す。

以前、黎人が連絡先を交換、と言われた時、必要ない、と思ったが、こんな時に使えるなんて!


黎人に連絡をすると、接客中ということで、秘書の神柴綾人が伝言を受けてくれた。

陽織は5時過ぎても、起きられなかった。

しかも、黎人もまだ客から解放されていなかった。と言うことで、湊人に連絡するように言われた。

「えーっ?湊人くんに。」

湊人への連絡も、日緒理にはハードルが高い。

すると、綾人が湊人に連絡を入れてくれたらしい。


しばらくすると、湊人と宏輝が、陽織の兄、和嶺を連れてやって来た。

「失礼します。」

3人が入ってくると、女子の目の色が変わる。

医学部、薬学部でも人気の男子学生たちだ。

「すみません。妹がご迷惑をおかけしています。あ、菊池さん?連絡ありがとう。」

和嶺がそう言って、教授や先輩にも挨拶をする。

礼儀正しい優等生の王子様だ。


「陽織ー、帰るぞー。黎兄、一也さんに捕まってるらしい。アレはキレてるなー。」

「あの声は、絶対にキレてるよね!周りの社員の人の怯える顔が想像つく。」

湊人と宏輝の会話に和嶺が

「ちょっと、陽織を不安にさせるな!」

と、怒られる。

和嶺が陽織を抱き上げ、湊人が陽織の荷物を持ち、宏輝が和嶺の荷物を持つ。

「それでは、失礼します。」

そう言って、3人は研究室を出て行った。


3人が陽織を連れて出て行くと、周りの女子が日緒理に食いつく。

「キクリは3人のこと知ってるの?」

「え?わたしは、あまり。羽織と違って附属じゃないから。陽織が話してるのを見るくらい。」

「わたし、生和嶺様、初めて見た!」

「何、それ。生って。」

「先輩たちは、初めてなんですか?」

佐伯たちは、陽織が時々話しているのを見ている。

「よく、兄様、って呼んでるよねー。」

「和嶺様って、神代さんのお兄さん?」

「神月が旧姓です。」

「兄様って、なんか、すごーく似合ってる!」

「附属の時、生徒会長だったんだってー。」

「4年の神代くんもでしょう?」

「え?神代っていうの?陽織と、親戚?」

色々聞かれて、日緒理は面倒になる。

(あ、陽織の気持ちが、ちょっとわかった。)


教授の神薙はただおしゃべりに花を咲かせて、研究もせず居座る大学生に、早く帰れ、と視線を送っていた。


和嶺と湊人が陽織を連れて笹神の車から降りると、ちょうど黎人も帰って来た。

「あ、和嶺も手伝ってくれたんだ。ありがとう。」

黎人は鷹人を連れている。

鷹人は家に入ると、ちゃんとみんなの後をついてくる。

「にいたま、ママ。」

鷹人は、陽織の真似をして和嶺を兄様と呼ぶ。

「うん、ちょっとママね、ねんねなんだよ。」

和嶺に言われて、部屋の外から陽織の様子を見ている。

「みなちよー、たっくん、みぃちゃんとこ、いくー。」

「ちょっと待て、鷹人。どうして和嶺さんが兄様で、俺は呼び捨てなんだ!」

「みなちょー、はやくー。」

鷹人は湊人の手を引いて、階段を座って降りようとする。まどろっこしいので、湊人は鷹人を抱き上げて、裏玄関から出た。


黎人は陽織の服を着替えさせようとすると、

「お風呂、入る。」

と言う。

「え?無理だよ。とりあえず今日は休もう。起き上がれないんでしよ?」

「うー。」

黎人に足やら手やらを引っ張られて、服を脱がされて、下着になると、部屋着用のニット地のロングワンピースを着せられ、ベッドの中に押し込まれた。

途端に、

「ぎもぢ、わ、」

と言って、這いずりながらトイレに駆け込んだ。

出て来た時は、真っ白な顔で

「なにも、でない。」

と言う。

今日は、確かにお昼食べられなかった。その後、何も飲んでない。

「明日は祝日だけど、東山先生宿直でいるって言ってたから、行ってこよう。」

黎人はそう言って、スポーツドリンクを渡した。

前は、嫌だと言って飲まなかったけど、今回は嫌々ながらも飲んでいる。

「また、入院になるかなー。」

和嶺が心配していると、

「や、だ。入、院しない。」

と、答える。


鷹人は美咲を連れて戻って来た。

「やっぱり陽織ちゃん、この期間は辛いわねー。」

美咲は昼間黎人から連絡があってから、夕飯を用意してくれていた。

「たっくん、みぃちゃ、よんできた。」

「鷹人はえらいね。良い子だなー。」

黎人に褒められて、鷹人は嬉しそうだ。

「にいたま、たっくん、エライ?」

「うん、えらい、えらい!さすがお兄ちゃんだね!」

和嶺に言われて、初めて鷹人は自分がお兄ちゃんになることを知った?よくわかってないのか、わかったのかは、定かではないが。


翌日は黎人が陽織を病院に連れて行き、点滴をしてもらう。点滴をすると、かなり楽になる。

「前の時よりは良いようだけど、どうする?」

と東山に聞かれた。

「大学にいると、なんとか、食べられるんです。気持ち悪くなることも、あまりなくて。」

陽織の答えも、はっきりしている。

「大学は緊張しているのかな?よくあるのよ。仕事している人なんか。職場は平気でも、家にいると、っていうの。ってことは、大学行った方がいいんだけと、他の人に迷惑かけるのはね。」

東山は黎人の顔を見て、どうする?と言った問いかけをする。

「とりあえず、土日は連れて来て、点滴していただいて良いですか?それで、楽になるなら。」

「たぶん、点滴すると栄養が直接入るから、体力も回復するのよね。」

スポーツ飲料でも良いんだけど、と東山が言うが、飲んでも吐いてしまう。

「それと同時に、回復した日は、頑張って食べる!」

そう言われて、陽織は小さくうなづく。

「大学でも、食べられる時には、できるだけ栄養になるものを食べる。お餅とか、おうどんとか。あとは、卵、ナッツ、チョコレート。」

「チョコレートは、気持ち悪くなり、ます。ナッツも、卵、も。」

と、言った途端に、陽織は気持ち悪くなって吐き出した。

「すみま、せん。」

「大丈夫よ。ここは病院なんだから!」


家に帰って、陽織がシャワーを浴びていると、そういえば、と黎人が話して来た。

「神橋さんが、陽織の産休、受けてくれたよ。入社してすぐだけど、良いって。」

陽織は、それを聞くと体をよく拭かずに、飛び出して来た。

「本当に?」

「陽織、床が濡れる!」

「あ、ごめん、なさい。」

慌てて戻って身体を拭いてると、黎人がやって来た。

「髪、乾かすの大変になるから、前くらいに切った方がいいかも。」

そう言われて、陽織はいきなり氷の刃を出すと、自分の髪をバサっと切る。

「はあ?ちょっと何やってるの!」

黎人は慌てて陽織の髪を拾って、半紙を持って来て包む。

「陽織の髪は、呪術に使われるんだからね!もう、いきなり切って!」

陽織はポカンとしている。

いつも、邪魔な時は、こうやって自分で切っていた。

「もう!」

と言いながら、黎人は陽織にキスをした。

そのまま、陽織をバスタオルで包んで抱きあげると、ベットに運ぶ。

「ちょ、昼間から!」


陽織は点滴のおかげで、少し気分は良かった。

体力も少しだけ、戻っている。

2人でしばらくベッドの中にいると、美咲と鷹人が来る。

「はい、補充終了!」

そう言って、黎人はサクサク服を着て、下に降りる。陽織も服を着ると、美咲が慌てて上がってくるのがわかる。


「あー、またやったの?ちょっと何か大きな紙か風呂敷!あとゴミ袋!」

そう言うと、陽織を大きな風呂敷の上に座らせて、肩にゴミ袋をかけ、その上に化粧用ケープ、そして髪を切りそろえてくれた。


「なんでいきなり切っちゃうの!ちゃんと美容院に行きなさい。陽香は何も言わなかったの?」

「え、と。その海外で美容院、すごく高いからいつも自分でばっさりやってました。その後、試合の時のメイクさんに、怒られることもあったけど。だいたいまとめてあげちゃうから。」

と、陽織はずっと平気で、髪をバサバサ切っていたことが、判明した。

「全く陽香は、本当に、無頓着なんだから!」















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