陽織、内定が大事!(就職編)
今回ばかりは、黎人に抱き上げられても、陽織も流石に抵抗できない。迷惑をかけたし。
そのまま陽織は自分のバッグと、黎人のバッグをかかえて、お姫様抱っこのまま駐車場に連れて行かれた。
車に乗せられても、未だにぼーっとしている。
運転しながら、
「本当に寝不足?」
と聞かれて、ちょっとドキッとした。
「んー、わかんない。」
もう、面倒な時の口癖が出てしまう。
ダメだなー。
全然、社会人になれない!
会社で、わかんないって答えられない!
夕飯はいつものように美咲が用意してくれた。
黎人が鷹人を迎えに行って、夕飯が済んだあと、陽織はシャワーだけて、先に休んだ。
「明日、神鬼先生のところに行った方がいいんじゃない?」
そう言われたけど、頭がぼーっとしていて、何を答えたのか、よく覚えていなかった。
翌日は、よく寝たせいかスッキリしたので、そんなこともすっかり忘れて、大学に行き、論文と国試の勉強に追われた。
陽織は昨日の会議で出されたお弁当の内容を精査しながら、成分表と睨めっこしている。
「対象は5歳くらいかなー。」
カロリーは、と、ブツブツ言いながら、昨日書いたノート、写真を見て、計算をしている。
「あれ?子ども用のお弁当?なんか結構豪華だけど、何かのお祝い用?」
日緒理が覗き込んできた。
「昨日の会議で出たの。銀座の青華堂のお弁当。やっぱり一流の料理人は違うよねー。」
陽織が答える。
「へえー、会議、ん?会議!?なんで?」
日緒理が、よくよく考えた末に、疑問を持つ。
「あー、わたしが大人用だと食べきれないと思って、会社の人が、別に頼んでくれたみたい。」
と、陽織は計算に夢中で周りの視線に気づいていない、
(会社の人に子ども用のお弁当を別に用意してもらうって、どうなんだろう。)
日緒理は、どう返して良いかわからない。が、
「まあ、それを気にせず論文に取り入れるって、陽織らしいよねー。」
同じゼミの高畑由衣が笑って見ている。
「えーっ、これ、ちょっとカロリー多いよねー。それに脂質も。やっぱり豪華にするとそうなっちゃうのかー。大人用も多いもんね。わたし、食べきれないはずだよ!」
と、陽織は納得したように顔を上げた。
その時、周りの視線と合った。
「何?」
いえいえ、と、周りも生暖かく、視線を逸らす。
「で、結局それは食べきれたの?」
と、日緒理に聞かれ、
「んー、メモしてたら、時間なくなっちゃった!」
と、昨日の昼休みのことを、あははと話した。
(子ども用の意味ないじゃん!)
昼休みに、陽織は昨日の昼、完全冷凍で持ち帰った、そのお弁当の一部をおかずに持って来ていた。
黎人は今日は出張で、お弁当がいらないと言ったので。
陽織のお弁当を覗き込み、日緒理も少し興味を持つ。
日緒理は、すでに東京都の管理栄養士の採用に受かっているので、春からどこかの学校か、給食センターに配属になる予定。
佳織は金融機関にコネで決まっている。
羽織はドラッグストアケイオーが始めるプライベートブランドの健康食品の会社に決まった。
「おー、ハオちゃんもいよいよ嫁デビューかー!」
陽織にそう言われて
「やめてー、それだけは!」
と下を向く。
散々レイリーのことを言われた仕返しだ!
「ていうか、なんか陽織、顔色悪くない?」
羽織に言われるまで、陽織は気がつかなかった。
「えー?昨日は、ちょっと貧血、っぽかったけど、今日はスッキリしてると思ってるんだけど。」
「貧血?」
羽織が陽織の目を見て、下瞼を下げる。
「んー、病院行った方がいいんじゃない?」
「やだよー!なんとか内定貰ったんだから、変に病気なんて言われたら、わたし、まじ泣く!」
その時、羽織はあれ?と、陽織が言っていた話しを思い出す。
「前、他からも内定来た!って喜んでなかった?」
「それはね。」
陽織が、蓮也の野望で全ての内定を取り消されたことを話すと、
「え?それ、ひどくない?」
「まじ泣く!」
「泣いたよ!だって、わたしの苦労を、全部流されたんだよ!いくら義理の父親だからって、昭和かよ!って感じだよ!」
「あ、そこは年号わかったんだ。」
ん?
「千織は?」
羽織が気になって聞く。
「千織ちゃんと祈梨さんは、良いんだって!わたしだけ!もう、ほんっと、無茶苦茶、怒ったもん!」
十神家を知る羽織は、苦笑するだけだが、他の2人は信じられない、と言っていた。
「本当、ここまでの間、どれだけ黎人さんと喧嘩したか‥。」
陽織がため息を吐くと、喧嘩するの?と、2人は信じられないと言う顔だった。
しかし、その翌日も陽織は少しだけ、フラフラした。
(鉄分取れば良いのかな?)
と、ほうれん草をいっぱい食べた!
わたし、偉くない?
でも、どうしても、気になることがもう一つ合った。
合ったが、それを認めたら負けな気がして、なかなか認められない!
「なんか、陽織、おかしくない?」
と、ある晩黎人に言われて、逆に睨んでしまった。
(勉強が忙しいのかなー。のめり込むタイプだから。)
「ねえ、もしかしてなんだけど?」
と、黎人に言われると、余計にギクシャクする。
「何?なんでもないよ!元気だよ!なんの確証もないよ!」
と、目を合わせることができず答えた。
そして、会議の日から、一週間。認めたくないが、このまま放置するわけにも行かず、仕方なく大学の空き時間に、明王大学附属病院にいった。
(嫌だなー。きっと気のせい、って思いたいんだけど!まじ、気のせいを、願ってるんだけど!)
そして、決定的なことを言われた瞬間、
「あの、それってなかったことに、できませんか?わたし、今、就職の内定出て、それが、とにかく、一番大事なんですけど!」
と、力説してしまった。




