陽織、思い出の場所(就職編
8月に入ってすぐ、黎人が軽井沢の別荘へ行こうと言い出した。
懐かしい。5年ぶりだ。
まだ16歳だった陽織が、初めて黎人と永遠の愛を誓った場所。まだ、幼くて、おままごとの延長のような恋が、今は現実になっている。
鷹人を黎人の両親に預けて、初めて2人きりで出かける。
「だって2人とも、新婚旅行行ってないでしょ?」
と、美咲に言われた。
確かに。
結婚して、すぐに子どもができて、2人とも忙しくて、考えてみたら、2人きりの旅行は初めてだ。
2人で軽井沢教会へ行く話をしたら、美咲から、うちは神社だから、と言われた。懐かしい。あの時、悠人にも言われた。
2人で白糸の滝や旧軽銀座、そしてあの場所にも行った。
「うん、きれいになってるね。」
いきなり餓鬼が作った異界が現れた場所。
「あの子たちは、今頃誰かの赤ちゃんになってるといいね。」
陽織が笑った。
朝起きたら、パパとママがいなかった。
おじいちゃんとおばあちゃんの家に寝ていた。
鷹人はショックを受ける。
1人置いて行かれた。
「パッパー、うわーん。マンマー!」
と泣いたら美咲が来た。
「鷹人、お目目覚めたの?」
用があるのは、パパとママだ。
2人は昨日、お出かけの用意をしていた。、また、飛行機乗るのかなー。
どこに行くんだろ、とワクワクしていたのに、鷹人だけ置いて行かれた。
「うわーん。パパ、ママ〜!」
黎人が夕飯のお店を予約していた。
軽井沢でも人気のフレンチのお店。
少し早めのディナーを取る。
そのあと、2人で思い出の軽井沢教会へ行く。
「懐かしい!」
と陽織は聖堂の中へ入る。
「もう、5年も前なんだ。」
まるで、昨日のことのようだ。
神嶋の依頼を受けて、滞在を1日伸ばした。
その時に訪れた場所。
「陽織、今も誓える?」
と黎人が笑って言った。陽織は間髪入れず「はい」と答える。
すると、2人に声をかけてきた女性がいた。
「あら、懐かしい。あの時の若いカップルさん!」
2人は顔を見合わせて思い出す。
そう言えば、そんな女性の団体がいたと。
「お久しぶりです。」
と、黎人が品よく挨拶すると、女性もホホホと、鷹揚に笑う。
「あらあら、ご夫婦になれたのね。」
2人の薬指にある、お揃いの指輪に目を細めた。
「良かったわ。幸せそうで。」
女性は優しくそう言ってくれた。
そのあとは、2人で別荘に戻った。
あの時は、悠人や湊人、祈梨や千織もいた。
部屋割りで、揉めた。
神嶋からの突然の依頼でみんなキレた。
湊人と千織が喧嘩した。
今日は2人きりだ。
お風呂に入った。
シャワーも浴びた。
久しぶりにゆっくりできる。
陽織は久しぶりに、何も考えず。黎人の腕の中で、溶けそうになった。
2日目は、初めて行く場所へ行く。
雲場池、旧三笠ホテル。
陽織は買い物に興味はない。
欲しいものを考える前に、黎人や美咲が用意してしまうから。日常の離れた生活に、つい陽織は色々なことを考えることをやめた。
就活も、卒論も、レイリーも、美咲の言葉も。
5年前、何も考えずに抱かれていた時のように。
3日後、2人が夕方自宅に戻ると、鷹人が泣いて飛びついてきた。
「たっくん、どうしたの?」
と聞くと、一昨日の朝からこの状態だったと言う。
2人に置いて行かれたのが、よほどショックだったのだろう。
「パッパ〜、マンマ〜。ウエーん。」
とずっと泣いている。
「みいちゃんとお留守番してたんでしょ?」
「エライエライ。」
と褒めても、泣き止まない。
「みぃちゃんがー、パパとママ、ラブラブ、行ったからがまんってー。」
と鷹人に言われて、黎人は真っ青になり、陽織は真っ赤にもなった。
「母上!子どもに何を教えてるんですか!?」
と言う、黎人の声が響いた。




