:陽織、喧嘩する(就職編)
面接に残った会社や病院が33。その中から、陽織は10ヶに絞り進める。
病院系で、本当は明王大学附属も行きたかった。
でも、無理!絶対に陽織が通ることはない!
まず、高樹が落とすに決まっている。
初めは病院系の面接に行った。
神楽大学附属病院は、無事内定が出た。
しかし、三友は行って早々に回れ右をした。
黎人が帰宅すると、真っ青な顔の陽織がいた。
「どうしたの?」
と聞くと、
「今日、三友病院行った。面接。入れなかった。」
と答える。
あー、これは大量にくっついてきたなー。
と、黎人が遠い目をする。
「無理!優佳先生、なんであんなとこで、平気なの?うじゃうじゃいすぎ!もう、あそこで仕事したら、絶対、霊力すり減らす!」
他の病院も、そうなのかなー。
と、陽織は結界がない場所の怖さを身をもって知った。
神代グループでは、商社の神北物産と、黎人が学生時代に経営者として仕事をしていた、神代の健康食品会社の面接も、通っていた。
三友の件があってから、絶対に十神家以外の会社は受けない!と、誓った。
近年の就職活動は、プライバシー保護があり、ここまで陽織の素性は会社関係者には、全くと言っていいほどバレていない。中でもエントリーシート、つまり
履歴書などはAI判断なのも大きい。
先に最終面接があったのは、グループ内商社の神北物産。社長の神北直哉は神代の親戚筋だった。
最終面接の場所は、なんと神代製薬と同じ本社ビル。
陽織はとにかく目立たないように、目立たないように、と必死に下を向きながら、ビルの受付に最終面接の手紙を見せて、さっさとエレベーターに向かった。
他にも何十人もの就活学生がいるのだから、陽織1人が目立つことはあるまい。
そう信じて、今日は変装用?のメガネをしてみた。
黎人のように、視力が悪いわけではない。
単なる変装だ。
他にも、髪を後ろで結んだメガネの女子大生は、何人もいる。特に目立つ要素はないはずだ。
神北物産は、決して大きな規模ではないが、神代傘下ということで、一流と言われる大学の学生ばかり、20名近く残っていた。
全員が一対一の、社長面接だと言う。1人15分でも300分。5時間はかかる。
しかし、始まってみると、予想ができない時間配分だった。
数分で終わる人。10分の人。中には20分以上の人もいた。皆、待つ時間がもったいないと、資格の勉強をする人、音楽を聴く人、面接対策の本を見る人、様々だ。陽織は、最近じっと待たされることが多かったのか、数時間なら座ってじっと待っていられるようになった。美咲のおかげだ。
そして、その間に一昨日最終面接をした味覚堂製菓から、合格、内定の連絡がスマホに入る。
良かったー!
陽織が呼ばれたのは、もうすぐ2時間になる、と言うところだった。
中に入ると神北の他に、女性秘書のような人が隅に座っていた。
名前と大学名を言って、礼をする。
椅子に座り、面接が始まる。
どれくらいの語学力があるのか、やはり陽織の複数の言葉が話せると言うのは、かなり大きなポイントになっていた。
また、海外の生活経験の豊富さ、欧米どちらにも留学経験があること。ロシア語が話せること。
神北は前のめりになって聞いている。
そして、終了間際、
「我が社は海外勤務や出張が多くありますが、ご家族のご理解やご協力は可能ですか?」
と聞いて来た。
商社なら当然の質問だ。
陽織は、迷わず
「はい。」
と答えて、面接は終わった。
陽織は嘘をついた。海外勤務や出張どころか、国内だって不可能かもしれない。
終わった後、自分でも、言っちゃったー、と反省の気持ちはあった。でも、言ってしまったことは、どうしようもない!
ご家族の理解なんて。
そして、その不安はあまりにも早くやって来た。
その晩、黎人は帰宅するや否や、陽織を怒鳴りつけた。
「陽織!話がある!」
玄関を開けた途端の怒鳴り声に、鷹人は驚き、陽織も目を見開く。
「おかえり、なさい。」
陽織は、いつものように玄関で出迎えて、上着を受け取ろうとするが、それすら許さない。
黎人は陽織の腕を引っ張ると、リビングのソファーに、座らせて、いきなり怒り始めた。
「いい加減にしろ!一体、何を考えているんだ!海外勤務なんて、誰が許した!」
あー、やっぱり、と、昼間のやらかしを思い出す。
神北は知らないふりで面接を進めていたので、もしかしたら、と期待していた。
でも、やっぱり気づいていたんだ。
「別に、就職の面談の、その、常套句じゃない!聞かれて、いいえって言ったら、落とされ。」
「だから?嘘をついて良いって?」
それは、と陽織の目が泳ぐ。
「嘘じゃない!すぐじゃなくても、子育てとか、終わってから、チャンスがあれば、行き、たい!」
「そんな、いつか、なんて言う社員を会社がとるわけないだろう!どの会社だって、今は即戦力が欲しいんだ!陽織の語学力は、商社にとって即戦力になる!入ったら、すぐにでも、ロシアや周辺諸国に、行ってほしいくらいだ!そんなことがわからないで、就活してるのか!?」
黎人の話し方は、まるで高樹のようだった。
いつもの、優しさのかけらもない。
「い、いいじゃない!就活くらい!わたしだって、選択する権利はある!」
「就活して?内定出た会社を、ただ受けてみたかった、って言って全部断るの!?そんなこと、やって良いと思っているの?」
「それは。」
「仕事しちゃダメとは言ってない!ちゃんと、陽織がやりたいことで、どうしても、って言う気持ちがあるなら、応援する。でも、ただ就職したいから、なんて言う理由なら、許さない!」
「なんで?わたし、普通に就職したいって言ったよね?特別どうしてもなんて、言ってない!」
「なら、なんで管理栄養士に行ったの?なりたいからだろ?」
「そ、それはそう、だけど。」
「資格織なら家でもできる!ってそう言ったことあったよね!」
「それは、子どもとかまだ小さい時や病気の時とかでも、って言う意味で。ずっと、てことじゃない。」
2人が言い争いをしていると、いつのまにか鷹人が美咲を連れて来ていた。
鷹人は黎人が帰って来て、陽織を怒りだすと、すぐに頑張って裏の玄関を開けて美咲のところに行った。
美咲は、鷹人が一人で来たことに、びっくりしていた。
「みぃちゃ!パパ、ママ、ガガガって!たっくん、パパ、こわいー!」
美咲は鷹人の言葉の意味がよくわからないながらも、たぶん黎人が何か陽織のことを怒っているな、と言うことはわかった。
どうしたものが、と悩んだが、子どもがこんなに必死に助けを求めて来たのを放置するわけにもいかず、来てしまった。
「?」
2人は美咲と鷹人がいることも気づかず、しばらく言いあっていた。
「だいたい、なんでわたしの個人的なことを黎人さんが知ってるの?変じゃない!」
「家族は、って聞かれて嘘をついたからだろ!夕方、神北さんが、電話してきた。知ってるのかって!知るわけない!だいたいなんで、神北なんだ?外資系のパンフレットも、もらっていただろう??」
「あれは、たまたま興味を持ってもらったから!エントリー通ったけど、断ったもん!」
「エントリーしたの?」
「だから?エントリーなんて、みんな100も200もやってるじゃない!黎人さんは、自分が就活しなかったから、知らないだけじゃない!」
黎人は一瞬黙った。
確かに、自分は就活は、していない。
いないけど。
「でも、就活生のことは毎年きちんと見ている!」
黎人が怒気を含む声で答える。
「やっぱり、神代の会社受けるんじゃなかった。」
陽織は吐き出すように言った。
「陽織は自分が何かわかってる?」
「黎人さんの妻でしょ!」
「それ以前に、神代の嫁って言われなかった?」
「なんで?なんで、わたしだけ?千織は普通にバイトして、就活もしてるよ?祈梨さんだって、普通に就職して!なんでわたしだけ、ダメなの!?」
その会話は何度もした。
同じことの繰り返しだ。
「陽織は特別だから」
「わたしは特別なんかじゃない!普通だもん!なんで?花嫁なんかに生まれなきゃよか。」
陽織はそこまで言いかけて口を押さえた。
黎人の顔が、怒りから悲しみに変わる。
「ごめん、なさい。わたし、ごめんなさい。こんなこと、言うつもりなかっ。」
その時、美咲がパン!と手を叩いた。
「いい加減にしなさい!全く、毎回毎回、同じことで喧嘩して!鷹人が可哀想だと思わないの?」
その時2人は、鷹人が怯えたように、美咲の後ろにしがみついていることに気づいた。
「え?鷹人、どうやって。」
「この子、一人で裏の玄関開けて、わたしのところに来たのよ!パパ怖いって!」
黎人はそれを聞いて、申し訳なさそうな顔て、鷹人を見る。
陽織も、困り顔になった。
「陽織ちゃんも、とにかく、いい加減に自分の立場、わきまえなさいね!」
美咲はそういうと、出て行った。
立場って!
そのあと、黎人はいつものように上着を陽織に渡しながら、二階に上がる。
「とにかく、就活はしてもいいけど、必ず相談しなさい!嘘はつかないで、欲しい。」
それから数日後、春の会合で、神口が新しい十神家に決まった。明孝は最後まで、面倒なことは嫌だ!と、騒いでいた。
相談しろ、と黎人に言われたが、黎人がどこまで許してくれてるのかわからない。
だから結局、話せる会社と、そうでない会社が出て来た。
三友の経験から、結界のない十神家以外の会社や病院、学校は難しい。
だからと言って、神代傘下の会社は黎人や蓮也に筒抜けになってしまう。
そうなると、必然的に神岡や神城の会社になってしまう。半ば諦め半分で受けたのが、美織の実家神城のグループ、味覚堂製菓。そしてドラッグストアケイオーが始めようとしたいる、プライベートブランドの食品部門の会社だった。
しかし、それすらどこかから伝わって、伝わるたびに、話していないことを怒られる。
そして、言い争いになる、
が繰り返された。




