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陽織、就活開始!(就職編)

陽織がスケートの臨時コーチができたのは、3月は一回だけだった。

それ以外はレイリーの年度末決算の処理と大学の卒論の準備。

「レイリー、思っていた以上に、すっごく大変なんだけど!!」

陽織は怒るが、黎人は

「だって陽織が仕事したい、って言ったじゃない。」

と言い返す。

「就職したら、そんな文句言えないんだよ。」

う、黎人が言ってることが正論過ぎて言い返せない。


そんなやり取りをしながらも、何とか無事年度末決算の書類が出来上がり、会議に無事間に合うことができた。

問題は、会議の日程と大学のオリエンテーションの日程が被らないか、そして陽織が始めた就活の会社の面談などと被らないかということだった。


3月末日、前と同じ会議室で、今年度の決済会議と翌年の予算会議が行われた。

予算確保はどの会社でも必須なこと。

しかし、陽織にはレイリーが一体何が欲しくてそれがいくらくらいかかるのかが、いまひとつわからなかった。

とりあえずは、先日陽織が喧嘩に巻き込まれて頭をぶつけた階段の改善。

陽織だったからよいものの、子どもが怪我をしたら大変だ。

そして、入園希望者が増えたことで不足しだした、ロッカーや用具の購入だった。

現場の職員に希望を聞いて、書類を書いた。

しかし、それが必ずしも通るとは限らない。


さらに、福利厚生施設であることを全面的に出すのか、それとも利益を上げるために、一般の子どもたちも受け入れるのか、という問題も上がっている。

現在、一般の子どもで通っているのは、数名でその中の数人は大神の子どもたちだった。

大神の妻が看護師で、三人目が一歳を過ぎたあと、いよいよ育児休業が明けて現場に復帰した。

その話が出たときに、黎人がそれなら、と受け入れたのが始まりだった。

上の子どもたちは4歳以上クラスのため有料、一番下の鷹人と同じ年の娘だけが無償だった。

しかし、給食代やそのほかの設備費は別になる。

あくまでも無償になるのは、保育料だけだ。


こういったこともあり、陽織はいろいろと悩んでいる。というか、正確にはレイリーの事務職の人達が悩んでいた。

他にも、高嶺が上の子が4歳クラスになったら入れたい、と言っているが、上野の方から日本橋は、決して近くない。

陽織は黎人が通勤ルートだったから良いものの、自分が反対側の会社に就職が決まったらどうしようか、とは思っている。


そして、年度末決算報告と年度予算会議の日が来た、

中間決算の時と同じように、陽織はスーツと書類、タブレットの完全武装で、大会議室に入った。

前回と異なるのは、ここにいる人、ほぼ全員に陽織が身バレしたことだ。

後ろの方からコソッと入りたい。しかし、周りの人がなぜか道を譲る。

   譲らないで!

   知らんフリして!

陽織の心情を誰も押しはかることなく。

   黎人さんの後ろを歩くなんて、絶対に嫌!


そして始まった会議も、前回とほぼ同じような雰囲気で、滞りなく進み、もう少しで終了、と言う時だった。

「予算についての質問は、以上でよろしいでしょうか?」

司会進行の総務部長が口を開いた時、1人の男性が挙手した。

「認定子ども園レイリーですが、他の保養施設同様、社外からの受け入れをもう少し増やすべきではないでしょうか。」

「どう思われますか?神代代表。」

やっぱりきたか、と想定内の意見に陽織も用意はしていた。

「現在、社外からの利用者は5分の1を超えて来ました。本年度の希望者も多く、社外の方は抽選とさせていただいています。本園はあくまでもグループ内の子育て支援の一環です。社外からの受け入れは、あくまでも、社内希望者が決定したあと、枠があれば、と言うことです。もし、社外を増やせば、社員の子どもたちが入園できない、と言うことになります。それは福利厚生の域を超えてしまうのではないでしょうか。」

陽織はあくまでもグループ内優先の姿勢を崩さない。

「それでは、もう少し受け入れのキャパを増やせはいいのでは?」

と言われて、陽織はクスッと笑った。

(あ、岡元にやったのと同じことをやる気だなー。)

「皆様は、座ることのできない混雑した新幹線に乗りたいですか?ホームよりも長い新幹線を作っても、安全だと思いますか?」

陽織に言われて、質問者は箱に限界があるのもわからないのか、と言われたことに気づく。

しかも、小馬鹿にしたような顔で。


しかし、実際に、陽織は自分が言ったことの話の半分もよくわかってない。なんとなく言ってみたかっただけ。

スイッチが入った陽織は、平気で他人を馬鹿にする。

それは、先日の岡元に対する話し方で、よくわかった。


会議終了後、黎人が

「陽織ー、あんまり大人を煽らないで。もう、スイッチ入ると周囲を、、、まあいいか。」

と言って、会議室を出て行った。

「いいんじゃない?さっきの返しは、僕は良かったと思うよ、」

悠人が笑いかけた。

「あの、わたし何か悪いこと、しましたか?」

「そんなことないけど、陽織ちゃんのあの顔は、周りに喧嘩を売ってる感じがするよね。」

「え?わたし、そんな顔、してましたか?」

「陽織は全然無自覚だから、怖いんだよー。」

陽織は黎人と悠人に呆れられながら、今回の予算会議を終えた。


大学4年生になった。陽織は頑張って単位を取りまくり、なんとか今年度の国家試験を受けられる!


4月に入って、大学のゼミと残りの授業の合間に、会社訪問、エントリーシートを送り、次に進めた会社の面接に行く。できるだけ黎人に知られないように、美咲たちに気づかれないように。

そのためにも、陽織は毎日スマホをこまめにチェックして、郵便物はほかの人に見られないうちに、自分でチェックをするようになった。

(こんなことで気を使わなければならないなんて。胃が痛い。)


まずは、色々な病院の管理栄養士の募集がないか、大学で調べて、片端からエントリーシートを送った。

また、食品系企業、食品の輸入を主に行う商社。健康食品に関わる化粧品や飲料メーカーなど、ありとあらゆる企業におくる。


ただ、ここでふと困ったことに気づいた。

陽織は会社訪問をしていない。

インターンシップもやってない。

それどころか、バイト一つやったことがない、

そのため、どう言う会社が良くて、どう言う会社がブラックなのか、よくわからない。


そして、さすが明王の看板は伊達じゃない、と言うか、送った半分近くの病院を含む33社が通り、面接に進んだ。

中には神代グループの会社もいくつかあった。

ただ、面談が被っているところもあったので、大学に行き、羽織に相談した。


「え?本当に就活してるの?」

羽織は、陽織の話を聞いて目を丸くする。

日緒理や佳織も同じだ。

陽織が通った会社名を3人が覗き込み、

「ここは、辞めた方がいいと思うよ。先輩が入って2ヶ月で、鬱になってる。」

「この会社、って確か昨年、社長がやらかして、逮捕されたところじゃない?改善されたのかなー。」

3人は会社名を見ながら、次々と意見を述べてくる。

   すごいなー。


陽織が今のところ、ここは、と考えているのが、優佳の夫皆月志郎が働く三友記念病院、以前陽織が結界を張った神楽大学病院だった。

他は健康食品コシロ、神木田物産と言う神代グループの会社。この4社は必ず内定までいきたい!と強く思っている。だから、自分でも可能な限り調べている。


神北(こうほく)物産は2回の会議で、社長の印象が良かった。

あの社長の下なら、語学を生かして、食品の輸出入の仕事がしたい。

そしてコシロ。ここは、以前黎人がいた会社で、今も絵梨花がいる。

他には、美織の父の会社味覚城、その子会社の味覚堂製菓がある。


とにかく、陽織は管理栄養士の資格だけでなく、語学が強いぞ、と言うことを前面に出して就活を勝ち抜いた。













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