陽織、カナダの日々(就職編)
カナダ4日目、早朝黎人や綾人はトロントへ飛んだ。
陽織と鷹人はまた大学へ行って、今日は鷹人が昨日お世話になった保育施設に行く。
海外の保育園は、学年別になっていないところが多い。
ランチ持参の施設も多い。
鷹人がお世話になったところも同じなので、マギーにお願いしてキッチンを借りて、お弁当を作った。
カナダの子どもたちのランチはサンドイッチが多い。
鷹人がおにぎりとおかずを持っていると、他の子が興味をもって寄ってくる。
鷹人は仲良くなった、同年代の子どもに、「ライスボール」と言って、見せていたらしい。
ほかにもフライドチキン?唐揚げとどう違うのだろう?に、卵焼き。
卵焼きと言えば、ベイクドエッグで目玉焼きが主流の海外で、卵を攪拌して中にホウレンソウやチーズを入れたものは、オムレツに入るのかもしれない。
マギーと二人、市内にある大きな幼児施設にも訪問し、栄養事情についての話を聞くと、家庭によってはお弁当がマフィンやドーナツ、果物、サンドイッチならいいほうだ、ということを知る。
陽織が、日本では給食制度が多いことや、必ず栄養士がメニューを立てて、毎日変えることを話すと、驚いていた。
せっかく海の幸が豊富なカナダなのに、もったいない。
今日は鷹人に大量の塩サケを混ぜたおにぎりを持たせたので、おそらくお昼にみんなに分けていることだろう。
DHAは大切なんだよ!
その日の夜、黎人たちは遅くなるということだったので、陽織は鷹人を連れてマギーのところで夕飯をとる。ということになり、以前エリサからのリクエストに応えて、陽織が和食を作った。
結菜も久しぶりの和食に喜んで、一緒に作ることにした。
懐かしい調理実習だ。また、羽織たちに怒られるかもしれない、と思いながら。
「マンマ、おいしーねー。」
鷹人が好きな茶碗蒸しに、鮭の胡麻味噌焼き。
味噌汁と高野豆腐と切り干し大根の煮物。
鮭も高野豆腐も、鷹人と陽織は2人で一人前でちょうど良い。
そんな陽織を見て、マギーは昨日の陽織の言葉を思い出した。
食べたくても、食べられない。
こんなにも食が細くなるものなのか?
翌日は、カナダにいられる最後の日。この日も午前中、黎人たちは国内の製薬会社の人と、会合をする。
陽織と鷹人は帰国の準備をして、モントリオールからトロント、そしてナイアガラの滝を見に行った。
全くの観光なしでは、鷹人が可哀想。
そう思って、カナダらしい景色。
子どもの頃から、カナダに来ると必ず一回は見に来た景色。今は冬のため正直寒い。
慣れた電車に乗って、最寄りの駅で降りる。
陽織は鷹人に雨用のポンチョを着せて、自分も自転車用のポンチョを頭から被った。
ナイアガラの滝を前に、鷹人を連れて行くと、はじめはあまりの大きさと、真っ白な世界、雪景色にびっくりしていたが、徐々に慣れてくると、その大きさに目を丸くする。
「うおー!しゅごーい!」
「たっくん、寒くない?」
今は2月だけど、そろそろ終わりだからなのか、ホワイトワンダーランドと呼ばれる氷の世界も、ほんの少し柔らかく見える。
「ママの大好きな景色だよ!」
陽織も、目を輝かせて見入る。
今まではほとんど夏に来ていた。
実際のホワイトワンダーランドは、思った以上に美しい。大好きな氷の世界。
このまま、この世界の中に溶けてしまいたくなる。
鷹人と2人、スマホを向けて写真を撮っていたら、日本人観光客が声をかけて来て、自撮りではなく、写真を撮ってくれた。
そのあと展望タワーに登り上からの景色も楽しんだ。鷹人もそれを見た途端、大興奮してはしゃぎ出す。
「ママ、おっきい!しゅごい!」
「すごいねー、大きいねー、ママ大好きなんだー!」
展望タワーの上で、2人でランチを取り、と言うか1人分で。また、下に降りた。
そのまま、トロントまでまた列車に揺られて、これから日本に帰る。
トロントの飛行場には、黎人の他に綾人と、研究室の社員三橋がいた。
綾人と三橋はエコノミークラスに、陽織たちはファーストクラスに搭乗する。
鷹人は飛行機に乗ってすぐは、黎人にナイアガラの滝の話をしていた。
「しゅごーい!ばばはーって。」
?
「でね、たっくん、わーってなった。」
「うん。そうなんだ。」
陽織は写真を見せる。
「真っ白だったよねー。」
「よねー。」
「でねー、もぐもぐもぐって、いっぱーい!」
(もぐもぐって、なんだろう?)
興奮して、テイクオフの耳がキーンとなるのも忘れたのか、とにかくずーっと話し続ける。
「でねー、ママがしゅきーって。で、たっくんも、いっぱい、わーいってなった!」
「ママが好きなの?」
鷹人はコクコクうなづく。
「で、怪獣さんが、ゴオーッて出てくるーって!」
話は、飛行機が安定するクルーズまで続き、ドリンクが出される頃になると、往復4時間の列車で疲れたのか、眠ってしまった。
「そうか、今日ナイアガラに行って来たんだ。いいなー、僕も行きたかった。」
黎人は淋しそうに言う。
「えー、だって旅行じゃなくて、視察と出張なんでしょ?」
と陽織が言うと、うっとなる。
そのあと、黎人が何度か陽織をチラチラ見てる、
なんだろう?と思っていたが、よくわからない。
「陽織は、またカナダ、来たい?」
「うん。やっぱりまた、来たい。」
窓の外を見る陽織が、泣きそうな顔に見えた。
マギーの家に入るとき、
「ただいま!」
と言って、入った姿が忘れられなかった。
エリサの横で、スケートを教えている陽織の姿も。
「ズルした。」
と言いながら、楽しそうに滑っていた陽織。
もし、陽織が花嫁ではなかったら。
もしも陽織が、普通の何の力もない女の子だったら。
きっと今頃は、カナダで、好きなだけ、スケートを滑っていたのだろうか?




