陽織、クルクル、バン?(就職へ)
到着した日は鷹人も疲れているだろうと、ホテルでゆっくりした。
翌日の日曜日、3人はマギーとジェフ、そして結菜に会いに行った。
陽織がドアをノックする。
マギーがドアを開けると、思わず
「i'm home!」
と、陽織はマギーに抱きついた。
この言葉がマギーは嬉しったのか、何度も何度も陽織を抱きしめて、頬にキスをした。そしてマギーも
「welcome home!」
と答えた。
その2人の様子を見て、鷹人はちょっとびっくりする。
「ママー、たっくんのー。」
どうやら陽織が他の人に取られたと思ったらしい。
マギーはその声に気づいて、鷹人も抱きあげて、頬にキスをしてくれた。
玄関フロアで、久しぶりの再会を喜んでいると、奥から結菜が出てきた。
「陽織?」
「結菜ー!」
陽織は結菜にも抱きついたが、流石に頬のキスは拒絶された。
「それは、ちょっと、慣れない。」
えーっ?!
と、陽織は残念そう。
黎人やジェフも挨拶を済ませると、エリサが2階から降りてきた。エリサも、結婚式以来の陽織との再会を喜び、早速スケートの話を始めていた。
エリサは今11歳。ノービスクラスでは、一応全国クラスまでは行ってるとのこと。
でも、成長期なのか、体重が増えてジャンプのバランスが変わってきてると言った悩みを話す。
たぶん、この話だけは陽織以外に話しても、家族の誰もわかってくれないのだろう。
確かに、エリサはまだ小学生だが、陽織よりも背が高くグラマラスだ。体重もあるだろう。
黎人とジェフ、マギーは明日の大学見学の話をしている。今日の午後綾人たちが到着し、明日はジェフの講義を聞きに行く。
陽織も、卒論のためジェフとマギーの講義を聞く。
マギーの講義は結菜と一緒だ。
結菜の大学生活も見ることができるので、楽しみだ。
さらに、鷹人を大学にある保育施設に預け、明後日はそちらの見学もさせてもらう。
学内や社内の保育施設が充実する、ヨーロッパとは異なる、北米ならではの取り組みも知りたい。
(そっか、いつかはデンマークのアントンさんのところにも、行きたいな。せっかく北欧の教育を取り入れたんだから。)
今回は公私両方の予定を詰め込んだので、観光の日がほとんどない。
それでも陽織は満足だが、鷹人や黎人はどうなのだろう?
ランチを済ませると、早速エリサがリンクに行きたいと言い出した。しかし、陽織は結菜とも話したい。
結菜は
「明日大学に一緒に行けるんだから、わたしは大丈夫だよ。」
と言ってくれた。
エリサは小さい頃、陽織のスケートが好きで好きで、自分もスケートを始めた。だから、陽織がスケートを辞めたのは、本当はショックだった。
でも、陽織に自分の分も頑張って、と言われて、いまもスケートを頑張っている。
高校の修学旅行の時にも来たリンクに、みんなで行った。あの時、黎人には絶対に見せない、と美織たちに言ったことを思い出す。流石に5年以上滑ってないから、どうやっても、自信はない。
靴を借りると、エリサと並んでリンクにありる。
普通に滑るのはできる。ただ滑るだけなら、自転車に乗ることと同じだ。
エリサが一回、自分のプログラムを滑る。
陽織がそれを並走しながら見ている。
4年前は、美織たち3人が見ていた。
今は黎人と鷹人、結菜がいる。
鷹人は自分も滑りたそうにしている。
陽織は、リンクをほぼ一周すると、エリサと並走しながら、手を無意識あげたり、足をあげている。
3分のプログラムが終わると、陽織がエリサを連れて、リンクの端に移動した。
そのまま、2人で並走しながら、途中で跳ぶ。
「遅いよー、エリー。」
陽織が言う。
「ラン、ラン、ジャンプ!ノー、ステップ!」
「ラン、ターン、バック!バック!ターン!」
陽織が手を打ちながら、エリサに合わせて滑っている。
鷹人は飽きてきた。
「パパ、たっくんも!」
と言われるが、どうしたものかと迷っていると、マギーが小さい子供用の靴を借りてくれた。
「鷹人、滑るの?パパ、滑れるかわからないよ?」
運動は得意だが、さすがにスケートは、ほとんどやったことがない。
そのうち、エリサが陽織に見本を見せて欲しいと言ってきた。
(うわっ、やらかした!無理無理!)
陽織は少しエリサにキツめに指摘していたことを反省する。
(今の自分では、見せろと言われても、無理だー!)
それでもエリサが引かないので、仕方なくハクに頼ることにする。
(あーごめんエリー、わたしはこれから、ズルをします!ある意味ドーピングです!)
と心の中で謝って、リンクの中央に立つ。
鷹人と黎人は隅っこで、ヨタヨタと氷の上を歩いている。それなりに様になる黎人に対して、鷹人はペンギンの赤ちゃんみたいで可愛い!
それを見て、結菜もやってみたくなり、靴を借りた。
陽織は、と言うとエリサのプログラムを滑り出した。
はじめにバックランから入る、トリプルループ。そのままいくつかステップをはさんでスパイラル。そしてレイバックスピンから、ビールマン、そのまま、ラン、ラン、ターン、バック、トリプルアクセル、トリプルトウループのコンビネーション。
ステップシークエンス、ギリギリのイナバウワーは無理!またステップ、キャメルスピン、2種のトリプルジャンプのコンビネーション。バックから、またステップ。そして、ラストランと。跳んだ、と思ったら回りすぎた!
(うわっ、勢いつけすぎ!ハク!助けて!)
陽織はハクのチカラを借りて、4回転ルッツを着地した。
ウギやや〜!やばいやばい!
心臓、バクバクする!
と、下を向いてしゃがみ込んだ。
「ひおり!すごかったけど、最後、ちゃんと挨拶!」
エリサが怒ってる。
それはそうだ、陽織は今リンクの上で、まるでヤンキーのような座り方になっている。
こんな姿見せたら、絶対美咲に怒られる!
「sorry!限界!I'm done!」
陽織が息を切らしながら座り込んでいると、そこに鷹人が、ヨタヨタと滑る?と言うより歩きながらやってきた。
「ママー!たっくんもー!」
と手を広げて寄ってくる。
(何がたっくんも、なんだろう?)
エリサもやってくる。
「陽織、クワドラプル!教えて!」
「sorry、I'm done!」
陽織は自分の力じゃないから、自信ない。理由は言えないが。リンクにお尻をつけた体育座りで、答える。
「エリー、スピードを殺さないで、跳ぶ。体重が増えたなら、その分加速するはずだから!怖いなら、コーチに上から、吊ってもらって。だいたい、3回もちゃんと滑れないなら、4回は教えられない!(」
「いやなら、痩せる!」
(ノービスで、ダイエットはすすめないけど。)
と説明すると、鷹人と手を繋いだ。
「たっくんも、オクツ履いたの?痛くない?大丈夫?」
黎人はさすが運動神経はいいようで、普通に滑って陽織たちの方へやって来た。
「うわー、陽織、すごかった!聞いてはいたけど、本当にすごく上手だったんだ!」
そして、いつも以上に、目をキラキラさせている。
陽織はあははと苦笑するが、もう息切れ状態だ。
鷹人の手を引くと、
「たっくん、スーッ、スイーッ。」
と言いながら、滑り出した。
「やー、たっくん、クルクル!ドンっしたい!」
鷹人は陽織の真似して、色々やってみたいらしいが、それは、やめて!と、思った。
ドン?
「クルクルも、ちょっと、無理かな?」
鷹人はすでに術者としてのチカラを覚醒させている。
趣味で滑るのは良いけれど、上手くなればなるほどきっと、辛い思いをするから、だからダメ!
陽織は、鷹人の手を引きながら、スーッと足をクロスさせて、バックで滑る。そして、マギーに教えてもらって、頑張って滑る結菜の近くまで来た。
「ごめんね、結菜ちゃん、せっかく会えたのに、全然話、できなくて。」
「大丈夫!それにしても。キクリが言ってた陽織のこと、わかった!なんかすごかった!」
結菜も、目をキラキラさせている。
う、痛い!
そんな目、しないで!
そのあとは、明日会う約束をして、マギーたちと別れた。結局、鷹人は不満が残ったらしい。




