陽織、結菜との再会(就職編)
一月の試験中、来年国試を受けられるかどうかの試験もある。実力がなければ、ここで留年だ。
陽織はいつもより、遅くまで机に向かう時間が増えた。大学の勉強は自信があるが、それだけで合格できるとは思っていない。
後片付けとお風呂の後、ベッドに入らず勉強するのは久しぶりだ。
それを見ていた黎人は、自分も忙しいのに、できるだけ陽織に協力してくれた。
主に子育てだが。
特に、入学早々の1ヶ月、1年後半のリモートで単位を取った科目。正直、不安がないわけではない。
もしかしたら、陽織が知らないことを、他の人は学んでるかもしれない。
陽織は特に、サークルやバイトもやっていない。
大学内に、同じ学科の親しい先輩もいないので、過去問や情報が手に入らない。
医学部じゃなくて良かった、と心底思う。
たしかに医学部の方が、先輩はいたけど。
なんとか無事に合格して、進級の試験が終了した、ニ月のはじめ。神次のことが一段落したので、陽織はカナダとの時差、14時間を考え、羽織たちを日曜日の朝、家に呼んだ。
招いた理由は言っていない。
初めて来る日緒理は緊張していたが、門のところで湊人とすれ違って、少しホッとしたらしい。
「お、おっき、い。」
佳織は自分と同じことを言った日緒理に、苦笑する。
「わたしも、最初にそう思った。」
三階建ての洋館の前に着くと、陽織が玄関を開ける。
「いらっしゃいませ。ごめんね、外で待っててあげられなくて。」
陽織は、3人を中に案内すると、黎人が鷹人を連れて、待っていた。
「いらっしゃい。」
また、緊張する!
「おはようございます!」
羽織1人が慣れたものだ。
3人をリビングに案内し、ソファーに座ってもらう。
陽織はその横に座って、パソコンを立ち上げる。
?
パソコン?
何するの?
不思議顔の3人の前に、国際通話を繋いだ。
向こうはまだ前日の夜。
陽織が
「 Evening!」
と声をかけると、画面の向こうに、結菜が映った!
「ゆいな?」
「結菜ちゃん!」
「結菜ー!」
三人三様で、結菜に呼びかけている。
そして、陽織の顔を見る。
「はーい!」
隣からマギーも顔を見せた。」
「マギーさん!?」
羽織がそれに驚く。
「みんなー、久しぶりー!」
結菜が手を振って答える。
「Do you have gotten better at speaking English?」
陽織が聞くと、ちょっと結菜が唇を尖らせて
「it was ok 」
と小声で答えた。陽織がクスクス笑う。
それを聞いたマギーが、隣から
「she is good!」
と言ってくれたので、結菜は嬉しそうだ。
そのあと、黎人がお茶とお菓子をテーブルに並べている間も、3人は夢中で結菜と話をしている。
あの後のこと。実験が4人で大変なこと。
日緒理は結菜と一緒に行くはずだった、臨地実習のこと。就活のこと。バイトのこと。結菜はカナダの大学のこと。陽織の紹介で専門のカウンセラーと、時々会ってること。可愛いエリサたちのこと。
一時間ほど話をすると、カナダが夜であることを知り、4人は惜しみながらも、別れを言う。
「あ、結菜ちゃん。わたし春休みにマギーのところ行くから、その時また会おうね!」
と、陽織が言うと、3人がずるい!と怒る。
陽織はすでに大学のゼミの教授に、ジェフとマギーの研究室に行くことを伝えてあった。
それだけでなく、黎人もカナダの現地企業の出張を入れた。さらに、陽織にはカナダの保育園視察と言う出張も入れた。それならと、家族3人でカナダに行くことにした。
それは、同じゼミの研究室の日緒理は、知っていたはずなのだが。
「カナダに行く、って、そういうことだったのね。」
日緒理が、全く、と陽織を睨む。すると、
「よし、それなら私たちも、卒業旅行でカナダ行こう!国試受かったらみんなで!合格祝いしよう。」
と羽織が言い出す。
その間、陽織は結菜から、マギーに代わってもらっていた。
「マギー、エリサは?寝ちゃった?春休みに4回見てあげるって、言っておいて。」
と陽織とマギーが話をするので、結菜はもう画面から完全にフェードアウトした。
3人は陽織がマギーと何やら話しているのを横目で見ながら、お茶にした。
パソコンを切ると、陽織も向かい側のソファーに黎人と座る。色々と3人は言いたいことがあったが、まずは黙ってお茶を飲んでいる。
「と言うことで、サプラーイズ!」
と、陽織が笑った。
すると、
「ずるい!陽織はこうやって結菜と話してたの?」
と佳織が聞いてきた。
陽織は首を横に振って、
「わたしも、あれからちゃんと話すのははじめて。」
と答えた。
そのあとは、黎人が結菜の家族と、どうやって彼女の身を守るか、メンタルのケアをするか、決められずにいた時に、陽織がマギーたちのいるカナダを勧めたことを話した。
マギーの夫ジェフは、元々高樹のアメリカ留学時代の恩師で健康医学の権威、トム・パーソンの息子。今ジェフは結菜が通う大学の薬学の教授。マギーは児童健康学の准教授。そして2人は陽織のホストファミリーであること。
「わたしはマギーとジェフからもらう手紙で、少しだけ知ってたけど、中に入っている結菜ちゃんの手紙は、そのままご家族に渡してたの。だから、直接話すのは、あれからはじめて。」
陽織の話を聞いて、陽織もずっと、色々気をつけていたと言うことを知った。
「ずっと言えなくてごめんなさい。」
と、陽織は3人に謝った。
「でも、陽織がいたから、結菜はアイツらから逃げ出せたんだよ!まだまだ大変もしれないけど。」
日緒理がいう。
「日本でじっとしているより、絶対にいいよ!マギーさんたち、良い人だもん。」
マギーたちと会ったことがある、羽織が言う。
そして
「良かった。結菜ちゃん、最後に会った時よりも、元気そうな顔、していた。」
佳織が言った。
それが4人にとって一番だった。
「だから、わたし、卒論の準備でマギーのところに行くことにしたの。」
と答えて、
「やっぱり、ずるい!」
と、日緒理に言われた。
お昼ごろになると、湊人が千織と宏輝を連れて遊びにきた。
「?なんでウチで、ダブルデートするの?」
玄関を開けて陽織が言うと、黎人が後ろから、
「あ、湊人!待ってた。」
と、声をかける。
聞いてないんだけど!
「黎人さん、早く言ってくれないと、お昼の用意足りないかもしれない!」
と言ったら、
「ほら、この前出したバーベキューセット。しまう前にまたやりたいと思って!」
と、ニコニコ笑う。
「黎兄が待ってたのは、俺じゃなくて、肉!」
どうやら、食材の調達を頼んでいたらしい。
「なんで、また寒い時に。」
暮れのことを思い出して、陽織が遠い目になる。
まあ、昼間なだけいいけど。
「今日さー、ほらバレンタイン、近いじゃん!で、千織がチョコの作り方、陽織に教えてもらいたいって言ってたから。」
「湊人、自分がもらうチョコ、それわたしが教えるの、おかしくない?」
「別にいいじゃん!チョコの一つや二つ。それに羽織とかいる時の方が、楽しいかなーって。」
「だから、なんでわたしの都合聞かないで、決めるのよ!材料とか、ないんだけど!」
陽織が怒ると、千織が
「陽織ちゃん、わたし買ってきたから!」
と、慌てて間に入る。
いつもと口調の違う陽織に、日緒理が少し驚く。
「えー、それならわたしも教わりたい!」
と羽織まで言ってきた。
「キクリや佳織も、作るよね!」
「羽織も、勝手に決めないで!2人は違うかもしれないじゃない!」
もう!と、陽織が怒る。
そこに鷹人がやってきて
「ママ、お菓子、たっくんも!」
と、言ってくる。
絶対、黎人さんが言わせてる!
「だめ、たっくん。チョコは虫歯になっちゃう、痛い痛いなんだよ!」
そう言われて、鷹人が泣きだした。
そこからは、湊人が陽織はひどい親!とか、怖い!とか、言い出し、もうめちゃくちゃだ。
黎人と宏輝だけは我関せずと、庭にバーベキューセットを用意して、日緒理と佳織は、野菜を切っていた。
結果、バーベキューとガトーショコラとチョコレートケーキ作りを並行して、夕方、やっと静かになった。
疲れた!
おかしい!
パソコンで感動の再会するだけのはずが!
陽織はソファーの上でぐったりして動かない。
「夕飯、たっくん、おうどんでいい?」
と聞いている。
たぶん2人分しか作らないつもりだ。
「陽織、お腹いっぱい?」
「いっぱい。無理。もう、チョコの匂いもだめ!気持ち悪い。」
バーベキューじゃなくて、そっちかー。
「陽織、パスタなら作るよ。」
最近は鷹人も、ナポリタンやミートソース、カルボナーラが食べられるようになった。
「お願い、します。」
と言うと、陽織はフラフラ立ち上がり、2階に上がる。
「そのままで寝ちゃだめだよ!ちゃんとお風呂入って、着替えて。」
と黎人が声をかける、がしばらくすると、
ドタドタドタ!と言うすごい音がした。
え?なに?
陽織が階段を滑り落ちて、途中で寝ていた。
階段に血が飛び散っている!
なんの惨状?
うわっ!
階段上がりながら、寝ちゃったの??
陽織は気づいてないけど、鼻血とおでこにコブができていた。唇も切れていた。
まあ、すぐに治るだろう。




