陽織、決意する(就職編)
神鬼の言葉は、陽織には1番痛かった。
管理栄養士になりたいくせに、好き嫌いが多い。
たくさん食べられない。
早く食べられない。
頑張っても、ずっとそれが変わらない。
でも、病気にはならない。
怪我はすぐに治る。
いつからそうなっちゃったんだろ。
前はそんなことなかったのに。
スケートやめたから?
嫌いなものも、頑張って食べたのに。
霊力、持ってから?
他の人よりも、強くなって、から?
不老不死の体に、なって、から?
黎人が陽織の隣に座って肩を抱いた。
陽織は泣いていたらしい。
「お仕事、した、い。普通、が、いい。」
高樹が陽織の前にしゃがみこみ、陽織の両手を握る。
「普通の娘にしてあげられなくて、すまない。」
その言葉に、陽織は目を見開く。
初めて父から聞く、謝罪の言葉。
「父様のせい、じゃない。ごめんなさい。わたしが、選んだのに。」
そう言うと、ギュッと涙を拭った。
「わたし、頑張って、食べる。体力、つけ、る。誰かに、迷惑、かけないように、頑張る。」
3人が帰ると、ベッドの上に、鷹人を抱いた陽織と、肩を抱いた黎人が座ってる。
「色々、その、ごめんなさい。」
黎人はギュッと陽織を抱きしめる。
「パパ、たっくん、も。」
鷹人が膝の上で怒る。
「たっくんは、ママが、ギュッ。」
と言うと、鷹人は喜ぶ。
「今日のお夕飯は、たまにはパパが用意しよう!」
黎人が笑って言った。
そう言うと、黎人は車で買い物に出かけるために、立ち上がる。
「鷹人はパパと来る?」
そう聞くと、珍しくうん、とうなづく。
その間、陽織はまた横になると、いつの間にかうつらうつらして眠っていた。
目が覚めると、夕方になっていた。
窓の外で声が聞こえてくる。
何かが焼けるような音。
香ばしいような香り。
(え?バーベキュー?この寒い中?)
陽織は慌てて、外へ出た。
すると、庭に美咲や湊人、蓮也も出て、黎人と鷹人の2人が一生懸命、肉や野菜、焼きそばを焼いている。
「あ、陽織、起きた?」
「ママ!たっくん、おりよーり!」
陽織は驚いて
「寒くないの?」
と聞いてくる。
「大丈夫よ!ストーブもあるし。」
美咲が庭の椅子を寄せて、陽織を座らせる。
「黎兄、肉、肉!」
湊人が騒いでいる。
「湊人も、手伝え!」
黎人に怒られる。
パーベキューなんて、いつぶりだろう。
前は依頼に行くたび、一回はやってた。
「鷹人、お皿ママに持って行って。どうぞ、って。」
「なんか、懐かしい。」
陽織の近くに湊人が座った。
「前はよくやったよなー。黎兄と陽織が用意して。」
「お前はいつも、食べる専門じゃないか!」
黎人はそう言って湊人に肉を焼くトングを渡す。
「食べられる?気持ち悪くない?」
黎人が聞いてくる。
前もよくあった。
まだ、高校生のころ。
無茶苦茶に力を使って意識を飛ばした陽織に、黎人がこうやって聞いて来た。
なんで、忘れてたんだろう。
「黎人さんは、変わらない、のに。」
変わったのは自分だ。
なかなか会えなくて、寂しくて、会いたくて。
だから頑張った!
どんなに辛くても、いつも頑張ってた!
いつの間にか、そばにいるのが当たり前で、守られるのが当たり前だと、そう思ってたんだ。
たぶん無意識で。
陽織は色々思い出した。
受験生の時のこと、初めて依頼を受けた時のこと。
わたし、頑張れる!
まだ、頑張れる。
頑張る!
その年の大晦日も、黎人は陽織と鷹人を連れて神明神社を訪れた。
日が暮れて11時が過ぎるころ、神社の境内前には年越しの参拝をしたい人たちが列をなす。
神社の社務所で、すでに眠っている鷹人を抱いて、黎人が外に出る。
「陽織、暖かい格好した?」
「大丈夫。」
陽織は鷹人を抱く黎人の腕に捕まった。
「たっくん、寝ちゃったから重くない?」
中から、美咲が
「鷹人見ててあげるから、置いて行きなさい。」
と、声をかける。
「参拝の順番が来た頃、連れて行くわよ。」
そう言われて、黎人は鷹人を預けた。
今年のお正月は、色々な親族の家をきちんと回ろうと思っている。今まで一度も行ったことがない、神口の家。高樹の実家。
除夜の鐘が聞こえて、4回目の年越しの参拝。
陽織は決意をした。
今年、自分がやるべきこと。
ちゃんと自分で叶える!
何があっても!
参拝の順が近くになると、美咲が鷹人を連れて来た。
鷹人はまだ寝ている。
それでも良い。
家族3人。あの時に黎人が言ってくれた言葉を叶えたいから。
拝殿が近くなると、鷹人が目を覚ました。
「目が覚めたの?」
黎人が聞くと
「神様が呼んでた。」
と、2歳とは思えない口調で答える。
そのまま、黎人の腕から下に降りて、
3人で並び、礼拝と祝詞、そして柏手。
今まで以上に神気が満ちる。
(がんばるから、見てて下さい!わたし、絶対に就職します。)
一度家に戻り、しっかり休む。
日が出た頃、母屋でおせち料理をいただき、鷹人は蓮也から、お年玉をもらっていた。
(ぶ、分厚い。)
よくわからないながらも、お金、と言うことは理解したのか
「パパ、怪獣、買う!」
とはしゃいでいる。
「湊人は?鷹人にお年玉。」
「はあ?俺まだ学生だし、むしろ、黎兄がくれても、良いんじゃね?」
湊人が答えると、黎人が頭を叩いた。
午後、鷹人を連れて初めて神口の家に行く。
新年の挨拶をし、鷹人を初めて祖父母に会わせた。
はじめは、人見知りしていたが
「鷹人、ママのおじいちゃんと、おばあちゃんだよ。」
と黎人に教えてもらって、トコトコ近くに行く。
「可愛いわー、もう何年ぶりかしら、小さい子。」
祖母の神口静香が、鷹人を抱きしめる。
「それにしても、本当に陽織は陽香そっくりになって来たわね。」
と、祖母まで言う。
「え、と。そんなに似てますか?母と。あ、お祖父様、ぽややんは、なしですよ!」
伯父の明孝が、笑う。
「あなた、陽織にそんなこと言ったの?確かに陽香はのんびりさんだけど。」
ぽややんの次は、のんびりさん。
そのうち、明孝の妻、麗香が料理を並べ、鷹人が喜ぶ。
「ママ、これ、なに?」
神代の家とは違うおせちに、鷹人の目がキラキラ光る。麗香は京都出身なので、こちらではない料理も時々出てくる。
陽織は好きだ。
「これはね、湯葉っていうの。お豆腐と同じだよ。」
そう言われて、鷹人は上手に食べるが不思議そうな顔をしている。
「かたい、おとーふ。」
鷹人の感想に、麗香がクスクス笑った。
「高樹の家はいいなー。もう孫が3人もいるのか。」
明孝は、今日も仕事に行っている、ここにいない息子たちのことを考える。
1人は高嶺と同じ研修医で休日診療を買って出たと言っていた。高嶺は彼を、神月総合にとすでに声をかけている。1人は京都の洛王大に行っている。
鷹人は、ここでもお年玉をもらい
「怪獣ー!」
と言っていた。
そんなに買ったら、家中が怪獣だらけになる!
やめて欲しい。
最後に神月クリニックに行った。
もうすぐここは祖父母の自宅だけになる、予定。
「いや、ここの診療もしばらくは続けるよ。高嶺の方は名前だけだ。遠くまで行けない爺さんや婆さんの患者が多いからな。みんなが通ってくるうちは、ここは畳まない。」
祖父の言葉に、陽織は笑ってしまった。
「まあ、たまには手伝ってもいいが。」
そこでは夕飯をいただいて、また鷹人はお年玉をもらった。
「鷹人、お金はなくしたら困るから、パパが預かって、増やしておいてあげよう。」
黎人が言った。
「黎人さん、それ、詐欺師みたいです。増やさなくていいから、貯金しておきます。それくら、わたしでもできます!」
「え?陽織の貯金は高樹さんが管理してるのに?」
「え?」
「え?もしかして、知らなかったの?」
「わたし、貯金、あるんですか?」
「いつもデビットカード使ってるじゃない。」
「あれは、黎人さんのじゃないんですか?」
なぜか、神月の祖父母の前で、陽織の経済事情の話になった。
それを聞いていた祖父が
「高樹は、嫁に出した娘のお金を、まだ管理してるのか!」
と呆れている。
「でも、わたし働いてないのに、いつも残高なくならないですよ?」
「そりゃあ、元々陽織のお年玉に加えて、神嶋の仕事のお金も入ってるし、ほら、去年も受けてたし。それにレイリーの報酬も入るし。」
「レイリーの報酬って、赤字なのにわたし受け取れません!」
「赤字でも、経営はうちのグループで父だから、支払い義務は発生するんだよ。グループの福利厚生部門なので、そちらからの報酬だから。」
??
陽織にはよくわからない。
「だいたい、陽織は神嶋の個人報酬、一回だけを見たら、ナンバーワンなんだよ?一回で100万超えるって、高樹さんが扶養から外れたら困るって止めたくらいなんだから。」
「すごいなー、陽織は、えらいなー、」
話を聞いてる祖父も感心する。
最近お金の価値が麻痺してきたので、とりあえず
「えと、この指輪買えますか?」
と、黎人にアクアマリンの指輪を見せた。
それは答えたくない。と、黙ってしまった。
「怪獣ー。」
と鷹人が言うので
「怪獣なら、千個くらい買えるね。」
と笑って答えていた。
「わかりました。わたし、もし就活失敗したら、神嶋さんの仕事、受ければいいんですよね。」
と、決意?していた。
「いや、それ、方向性、一番間違ってるから!」




