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陽織、就職相談会(就職編)

就職したい陽織と、就職させたくない美咲たち。

陽織の努力は実のか、それとも?

天神は自分が開いたパーティーに、神家全てを招いていた。そのため、黎人から断罪されたことが、すぐ明るみになり、大和は十神家から追放された。


梓沙は元々、天神が持っていた土地の半分を高嶺との共同名義にしていたので、神月高嶺、梓沙夫妻の持ち物として没収されることはなかった。それ以前に彼女の実の両親が被害者であることから、天神の家屋敷は、全て彼女が受け継ぐことになった。


会社は吉原に全て移行し、高嶺は株主の1人として名を連ねることになってしまったが、正直早く手放したい。

建設中の神月総合病院も着々と建物が出来上がり、あとは悠人の会社から、医療機器など必要な物を揃えるだけだ。


院長は陽織たちの祖父、神月クリニックの院長がそのまま就任する。

その他の医師は、現在高嶺を中心に、明王大学病院の医師や近隣の医師をはじめ、全国の優秀な人材を探している。


岡元はふたりの息子の犯罪が明るみになり、特に修也の事件はマスコミが招待されていたパーティーの最中だったこともあり、完全に隠蔽できなかった。


あれ以降、梓沙は子どもを連れて神代家にやってくる。鷹人と遊ばせるためだ。

鷹人の影響か、最近は階段も上手に上り下りができるようになった。

ご飯も上手に食べられるようになり、おしゃべりも上手になっている。

さらに、何がきっかけかわからないが、2人で霊力を使って遊んでいるところを見て、陽織と梓沙は真っ青になった。


天神は今、別荘の一つでひっそり生活をしている。

色々あったとはいえ、梓沙にとっては、やはり育ててくれた父親に違いはない。全く切ると言うわけにはいかない。

一線を退いた、と言うことだけで、黎人には矛を納めてほしい、と言うのが、高嶺と梓沙からの願いだった。


「まあ、僕は神次が出てきた時、天神が利用されなければ良いだけですが。」

黎人は陽織が被害に遭わなければ、どうでも良い。


クリスマス前に、後期の授業が終了する。

もうすぐ四年生になる。

年が開ければ、みんな就活を始める。

陽織も大きな会場の就職相談会に何度か足を運んだ。

が、途中で体調を悪くして、結局最後までいられなかった。

しかも、毎回黎人にバレないように、黒スーツを着ていくのが至難の業で、色々画策中だ。


「陽織、就活諦めなよ。」

ある晩湊人に言われ、陽織は落ち込んだ。

「だって、会場相談会も、人に酔って結局全然ダメだったんでしょ?」

「う、湊人のばかー。」

「いや、そう言われても。俺何も助けてあげられないよ?」


他の人からも、同じようなことを言われた。

「羽織ちゃん、土曜日のビックサイト行く?就職相談会。」

「うん、行くつもり。とりあえず、宏輝が就職できるまでの2年間は仕事するから。」

「じゃあ、わたしも行く!お願い!連れて行って。」

陽織が言うと、羽織は嫌そうな顔をした。

「陽織、この前一人で行って、人酔いして帰ってきたんでしょ?」

「こ、この前は、それよりも電車、乗ることが目的だったから。」

隣で聞いていた佳織が、そこから?と言う顔をした。


「陽織、この前ドームで会った時も、途中で帰ったよね?て言うか、会場入った途端。」

日緒理にも言われる。

「お願い!わたし、本当に就職したいの!もう、自分でお金払えない、とか、ぽややん、って言われたくない!」

「佳織はどうするの?」

「んー。わたしは恥ずかしながらコネですねー。まあ、管理栄養士の資格とは関係ないかもしれない。でも、いつか使えるから、必ず受かりたい!」

佳織の潔さに、2人から見習え、と言われる。

「だって、陽織はレイリーの代表なんでしょう?ちゃんと仕事あるじゃない。」

「そうだよ。レイリーでそのまま管理栄養士として仕事して良いって言われてるなら、今は夢子先生について、勉強すればいいじゃない。」


そうじゃない!そう言うんじゃなくて、普通の仕事がしたい!

会社に通勤して、同期とかがいて、社員食堂とかで、ご飯食べて、飲み会とかあって、お給料もらって。

「わたし、お給料がもらいたい。」

と、陽織が言うと、3人はうーん、と考える。


「黎人さんは、どれくらいお給料もらってるの?」

「お給料?もらってるのかなー。年収って言ってた。」

「年収?」

「うん。え、と、じゅう?」

「じゅう?」

「10億円?くらい?って、誰か言ってた。黎人さんは教えてくれない。」

「億?」

「あ、でも、宏輝くんのお父さんも、それくらいみたいだよ?美織ちゃんのお父さんとか、みんなそれくらいはもらってるって、聞いた。」

それを聞いて、佳織たちが

「羽織、やったね!」

と、背中を叩く。

「羽織もいつかは、全身サファイアまみれだよ!」

それを言われて

「いやいやいや、あれは恥ずかしいから!」

と、口に出てしまう。

「恥ずかしいって、う、ひどい。」


「それでも就職したいの?」

「あれは、わたしのお金じゃない。」

陽織の言葉に、3人は確かに、とうなづく。

佳織も、最近親に颯斗を紹介して、気に入られて、順調に交際を続けながらも、可能な限り自分で、仕事して貯金していこうと思っている。

だから、コネと言っても、仕事だけはちゃんとするつもりでいる。


「美織ちゃんは?就職するの?」

突然、佳織から美織の名前が出た。

「美織ちゃんは、来年卒業したら兄様と結婚するって言ってた。でも、どうなんだろう。そのまま家庭に入るのかなー。学校の先生になりたいとは聞いたことあるけど。」


その晩、黎人と陽織は喧嘩になった。

羽織たちと出かける、と言って初めはスマホのSuicaにチャージしてくれた。

でも、行き場所を話した途端、目的に気づいてしまった。

「陽織に就職は無理だった言ったじゃないか!」

「い、いいじゃない、説明会くらい!」

「そう言って、この前、ドームまで行って中に入れず帰ってきたって、聞いてるよ!真凛から!」

「それって、ストーカーじゃない!」

「陽織がしょっちゅう、攫われたり、引きずられたりするからだろう!?」

「だから、ちゃんと練習するって、言ったもん!」

と。


先日の騒動もあり、さらに黎人は陽織を外に出したくない気持ちが高くなっていた。

それでも陽織は、普通の仕事がしたかった。

通勤、仕事、お昼休み、帰りのお茶や飲み会。

普通の会社員なら、当たり前の日常。

自分が知らない世界。


黎人は少し頭を冷やしたいと言って、母屋に行ったまま、その夜は帰ってこなかった。


翌朝、陽織が友だちと出かけると知って、美咲が鷹人を迎えにきてくれた。

陽織は2人がいなくなると、黒いスーツをきてバッグを持つ。中間報告の会議の時と同じスタイルだ。

今日は寒いのでその上にコートを羽織る。


笹神の車で大学へ行くと、羽織と千織、美織、佳織が待っていた。

初めて5人でビックサイトへ行く。

地下鉄で豊洲駅まで行く。

陽織は常に真ん中の席にしてもらえたので、両隣に知らない人、特に男性が来ることもない。


豊洲駅で乗り換えてゆりかもめに乗った。

初めて乗るゆりかもめ。

宙を走ってる?

本当なら大興奮だけど、恥ずかしいので大人しくしている。


国際展示場駅に着くと、たくさんのスーツ姿の学生がいた。就職したい人。仕事したい人。


会場の入り口はたくさんの人がいて、陽織の顔が青くなる。それに気づいた羽織と佳織が陽織の両手を握ってくる。

   大丈夫、大丈夫、大丈夫!

中はたくさんの会場があり、金融、商社、外資系、理系、文系、さまざまな企業が集まる説明会だ。

開催中には、各企業の代表者、パネリストの講演や対談など、さまざまなイベント。企業の新商品の発表も行われていた。


「3人は食品系?」

千織が聞いてきた。

「そうだねー。あとは化学系とか?」

「わたしも、食品系の事務職興味あるから、一緒に行く。」

と、最初は5人で食品系企業ブースに行ってみる。


陽織は、キラキラした目で色々な会社のパンフレットを見たり、話を聞いたり、と、楽しんでいる。

その中に健康食品会社コシロがある。

陽織はさりげなく列に並んで、会社の説明を聞いた。

知らない人だった。

他の会社も並んだ。

美織の家の会社『味覚城』も。

お昼近く、イベント広場で対談があると言うので、みんな移動していた。

特に薬学系の女子学生が多い?


5人もそちらに向かうと、舞台の上には4人のパネリストと司会の女性。

パネリストの1人は神岡宗吾、宏輝の父。株式会社東和薬効の社長、東崎治郎、豊和薬科大学学長、山崎豊、最後の1人は神代製薬社長、神代黎人だった。


「かっこ、いい!」

「若いよねー。」

「噂のイケメン社長!」

薬学系の女子学生のヒソヒソ声が聞こえた。


「羽織ちゃん、あの方宏輝くんのお父様ですよね?」

美織が羽織に聞く。

「美織ちゃんのお父様は?」

千織が聞くと

「うちの父は明日招かれているみたいです。」

3人がそんな会話をするが、誰も黎人には触れないでくれている。

(ほんと、嘘つき!)

陽織1人が膨れていた。


4人は健康と薬業界について、さまざまな意見交換をする。新薬の開発の難しいさやジェネリック薬品との兼ね合い。外国企業との競争や競合。知財部門の重要性。原料輸入の難しさなど。

最後に健康と食の関係性についても話が進み、社員食堂の話や福利厚生についての、各企業や大学のPRもする。

薬科大学では学生食堂で、朝食を安価で提供している話が出ると、聞いている学生の中でも利用者がいて、手を上げてもらうシーンなどもあった。

ドラッグストアでは路面店では、社員食堂がないと言う問題にもなる。


製薬会社2社ではそれぞれの社員食堂の利点の話になったが、黎人が

「わたしは残念ながら、妻のお弁当なので。」

と声にすると、周りからオーッとどよめきの声が。

「あ、でも彼女も管理栄養士の卵ですから。」

と付け加えられ、陽織は顔を上げた。が、ちょっと膨れている。

他にも、他社にはない、自社の保育施設の話もしていた。

結婚しても、子どもがいても仕事が続けられる環境、子育てに最適な保育施設を目指すレイリーのこと。

「さすが、愛妻家で有名な黎人くんだよねー。」

と、宗吾に言われて、黎人が睨んでいた。

たぶん名前呼びされたのが恥ずかしかったのだ。

「お2人はプライベートでも、親しいのですか?」

と司会の女性に言われて

「彼が子どもの頃から、よく知ってますから。ヤンチャだったころからね。」

と、宗吾の言葉に会場に笑いが広がっていた。


レイリーのことが出て、

「やるじゃん陽織。」

と、羽織が隣で小突いてきたが陽織は怒だ。

「本当、調子いいんだから。お母様が言ってた通り。外面いいんだから。」

そう言って俯く。絶対に聞いてたことを知られたくない。

会場が湧いたところで、陽織はそっと席を立ち、羽織たちも続く。


お昼を近くのファミレスでとり、午後の話をした。

「どうする?午後は?」

「わたし金融系と外資系行くから、別れてもいいよ。」

と千織が言うと、佳織がわたしも行きたいと言った。

陽織も外国語が得意なので、実は外資系も考えている。

「じゃあ、みんなで行こう!」

と羽織が言うので、結果全員で移動する。


外資系食品会社に陽織が行くと、さすが、英語、ドイツ語、ロシア語、デンマーク語が話せることから、ぜひと言った話が来ていた。

実際に日本の食は輸入で支えられている。

ここに管理栄養士の資格となれば、欲しい企業があるのは当然だ。

ヨーロッパ系のお菓子や小麦粉などのメーカーに、名刺をもらい、自分の連絡先も教えていた。


「いいなー、陽織ちゃん。英語以外もできるって強みだよね!わたしも第二でスペイン語取ってたけど、陽織ちゃんみたいに流暢に話せないもん!」

千織が落ち込む。

「どうせ湊人、まだ2年大学なら、千織も一年くらい留学すれば?」

羽織に言われて、千織は真剣に考えた。

「んー、でも神嶋の依頼のたびに帰国できないし。」

と千織が言うと、全員で

「神嶋のヤツ!」

と、無関係な神嶋への恨みが出ていた。


大規模な就職相談会は、友人4人のおかげで、陽織は満足の得られる結果になった。

でも、これから黎人が帰ってくる。


  また、喧嘩になるのかなー。




















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