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陽織、唯一無二の花嫁(子育て編)

陽織が美織や羽織たちのところへ行くと、黎人は高嶺のところへ行って来る、と1人でその場を離れた。


神次はその様子を見ていた。

黎人が一歩一歩、陽織の元を離れるのを見計らい、彼は異界の隙間を開けた。


陽織の周りには美織、羽織の他に和嶺と宏輝がいる。

が、万が一陽織の腕を掴めなくても、美織か羽織でも良い。

そう思って、神次は姿を異界へ消すと中を移動した。

黎人は高嶺に挨拶をすると、彼から小さな手帳を預かり内ポケットにしまう。

その時、

「陽織っ!」

と言う、和嶺の声がした。

陽織は引きずられると同時に、和嶺の手を掴んだ。和嶺は宏輝の腕を。そして、宏輝が掴んだのが!


「神次修也!いや岡元修也、女性誘拐事件の現行犯で、逮捕する!」

神嶋の腕だった。

さすがに神次は4人を引き摺り込むことができす、神嶋によって、逆に異界の外側に放り出された。

陽織は宏輝と和嶺の次に放り投げられ、2人を下敷きにして倒れた。

その光景に、術者ではない一般のアイドルや議員たちが驚きの顔になる。

一体何が起こったのか。

なぜ空間から、人間が出てきたのか!?


まさか、こんなに簡単に引っかかるとは!

黎人は笑い出しそうになった。

陽織に逃げられ、黎人と陽織に煽られて、焦ったのだろうか?

しかし、その神嶋相手に神次は炎を放つ。

バカなヤツ。神嶋にそんなもの効かないよ。

宏輝たちが、蔑んだ目で神次を見る。

神嶋が一瞬怯んだ隙に、また異界を開け逃げようとして、陽織が神次の足を凍らせる。宏輝が白狼を、和嶺が青龍を出す。


羽織と美織は、ギョッとした顔になった。

イヤイヤ、人間相手にそれはいくらなんでも!

龍に巻きつかれ、狼にのしかかられ、神次は動けなくなった。

陽織は

「宏輝くんの白狼、初めて見た!カッコいい!」

と、目をキラキラさせている。

そこに大神までやってきて、

「お、宏輝、俺とお揃いじゃん!」

と喜ぶ。

会場の一般参加者は、もう何が何だかわからない。

まるで何かのイリュージョンが始まったのか、と思って拍手している人もいる。

ただ、神嶋は部下を大勢連れて、しっかりと術を使えない拘束具まで用意し、神次を捉えた。

神次の術を見て初めて、あの時結菜が神嶋の元から消えた方法が、みんなわかった。


そして、その白狼の姿を見た天神大和の顔が、真っ青になる。

さらに、修也まで捉えられたとなると、岡元も青くなる。


(さて、仕上げかな。)

黎人はさりげなく天神のそばに行く。

「どうされましたか?天神さん。顔色がすぐれないようですが?」

「は、いや、まさか神次、いや修也くんが、そんな犯罪を犯していたなんて、思っていなかったので。」

天神は黎人の前を通り過ぎようとした。

その腕を、黎人は掴む。


「実は面白い日記を手に入れまして。」

黎人は胸ポケットから一冊の古い手帳を出した。

それを見た天神は、さらに顔を青くして、黎人に手を伸ばそうとした。

「そ、それはわたしの弟のものだ!返してもらおう!」

「え?なぜ弟さんのものだとわかるんですか?ただの黒い手帳ですよ?」

いつのまにか、黎人の後ろに高嶺と梓沙が並んで立っている。

天神は、手を伸ばして必死に手帳を取ろうとしている。


そして、神次の拘束を解いた白狼が、宏輝と共に、高嶺のそばにやってきた。和嶺もいる。

白狼は天神を見ると、今にも襲いかかりそうな目をしている。


反対側には一也がいた。

「な、なんだお前ら!親は何をやってるんだ!」

若い術者に囲まれて、天神は威圧をして叫ぶ。

しかし場数を踏んできた高嶺や和嶺、宏輝たちがそんなことで怯むことはない。

逆に、長年名前だけの十神家の頂点に、長として君臨し続けてきた天神の威圧は、高樹の半分もなかった。

「天神さん。僕が何者か、あなたはわかっていますよね?」

逆に、黎人が天神に問いかける。

黎人を御せるのは、蓮也や高樹、綾人くらいだ。


陽織や羽織、美織はこれから起こることを、一般の人には見られないように、結界を貼った。

岡元にも、いま天神たちが一体どこに行ったのか見えていない。

「白狼は長い間、野良の使役獣になって悪霊に取り憑かれていたところを、彼、神岡宏輝くんに助けられました。今は彼の使役獣です。

その前は、誰のものだったんですか?」

黎人は知っていながら、天神に尋ねる。

すると、一也の後ろにいた、天神の妹、一也の母光里が

「それは、大地の、弟の大地の使役獣です。」

と答えた。


天神家の次男、大地は白狼を使役する術者だった。巫女は彼と同級生の少女、雪城凪沙だった。

2人は高校を卒業し、大学へ進学した後、結婚を考えて同棲もしていた。

しかし、ある日凪沙は兄大和によって、大地から奪われた。

兄の大和は使役獣を持たない術者だったため、大地よりもチカラが弱かった。が、プライドが高く、頭も良かったため、自分よりも劣る弟が、使役獣を持ち、巫女がいて、術者としても上であることが許せなかった。


凪沙は大和と無理矢理、結婚させられ、巫女を失った大地はどんどん霊力を供給することができず、枯渇した状態で戦った末に、命を落とした。

一方、強引に結婚させられた凪沙はやがて女の子を産む。娘の梓沙は凪沙に似ていた。しかし、凪沙もまた、大地を失い子どもに霊力を奪われ、供給がないまま、やせ衰え、梓沙が一歳になる前に亡くなった。


「天神さん、あなたは梓沙さんが、自分の娘ではないことを、どこかでわかってたんじゃないですか?」

黎人はそう言うと、高嶺と梓沙の方を見る。

「だから花嫁がなかなか現れなかった僕に、無理矢理梓沙さんを嫁がせようとした。

でも、僕は梓沙さんがどんなに素晴らしい女性だろうと、何も感じませんよ。子どももできません。


僕にとって、自分の全てをかけても良いのは陽織だけだ。陽織が可愛いとか、綺麗とか、それだけじゃない。彼女だから大切なんです。誰よりも陽織が大切で、他の人は目に入りません。僕の子どもを産むのは陽織だけです。」

黎人の言葉を聞いた陽織が顔を赤くしてもじもじしている。


「そして、それは、他の使役獣を持つ術者も同じです。巫女は特別なんです。生涯の自分だけの唯一無二なんです。

使役獣を持った術者とその巫女が伴侶と言われるのは、霊力のことだけじゃない。他の相手では、子どもができないからです。」

周辺にいた神家の者で、それを知らなかった人が呆然とした。


「梓沙さんの父親は大地さんですね?あなたによって、死に追い込まれた、あなたの弟だ。」


会場が静まり返る。


結界の外では、中で何が起こっているのか、全くわからない。不安と戸惑いでざわめいているが、そのざわめきも中には聞こえない。


一方、中では黎人によって天神大和が追い詰められ、そのまま崩れ、膝をついた。

「これは、大地さんの、日記なのではないですか?僕は中身を知りません。梓沙さんから、先程預かっただけです。」


黎人はそう言うと、天神の前を去り、陽織の方へ歩く。途中で胸ポケットの手帳を出して、梓沙に返した。

?手帳が二冊?

陽織は不思議な顔をしながら、近づいてくる黎人を待っている。

黎人は陽織の前ギリギリまでくると、ギュッと抱きしめてキスをした。

陽織も、ギュッと抱きついた。

「どうしたの?」

と、黎人に聞かれて

「嬉しかったの。」

と、陽織が笑顔で答えると、今度はさらに長い口付けをする。


(マジ、人目憚らずだなー。)

(あー、バカップルは健在だー。)

宏輝や大神が、いつもの呆れた顔をする。


結界を解いたあと、高嶺が義父の体調不良を理由に、代わりにパーティーの終了と、招待客への挨拶をする。

「わたしも陽織ちゃんを見習わなくちゃ。」

梓沙が呟く。それを聞いた高嶺が

「え?人前でキスしたいの?」

と聞き返す。すると、梓沙が赤くなりながら

「違う!」

と怒った。








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