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陽織、ぽややん(子育て編)

お昼前。パーティー会場のホテルには、ほとんどの神家、マスコミ関係者、議員、ほか役者やアイドルグループもいた。


黎人はホテルの駐車場に車を止めて、陽織をエスコートして会場に向かう。

今日の主役は剛樹と梓沙だ。

受付を済ませると、蓮也や高樹、陽香の姿が見えた。美織と神城夫妻の姿もあった。美織は和嶺がエスコートしている。

若手の男性俳優が、美織の方をチラチラ見ている。


招待客の7割以上が男性だ。

嫌味か?と、陽織は思いたくなる。

もう、胃が痛い。気持ち悪い。


その中に黎人が陽織と共に現れると、会場にいる人の視線が一斉に集まる。

神家はわかる。彼らにしたら、神様夫妻だ。

でも、議員やアイドルの視線もあった。

若い女性アイドルグループが黎人を見ている。

顔を赤くしている人もいる。


男性俳優やアイドル、議員が陽織を見ている。

黎人がサッと、腕に力を込めて背中から陽織を抱き寄せる。

いつものことながら、陽織はもう帰りたい。


美織と和嶺の近くに移動し、なるべく一緒にいるようにした。

「う、陽織ちゃん、ゴージャス!」

やっぱり!

「なんか、貴金属店のマネキンみたい。」

失礼な兄だ!

「和嶺も美織さんを、やってみなよ。」

黎人が反撃してくれた。

「はあ?無理ですよ!それ、一体いくらかかってるんですか?」

と和嶺に言われて、黎人がニヤリと笑う。

たぶん今回は一千万は超えている。


毎年一回は、こう言ったパーティーのために、新しいドレスとアクセサリーを新調している。

結菜に言われるはずだ。

バイト代一年どころか、サラリーマンの給与一年でも買えない。

「僕、他にあまりお金使わないから。ゴルフとか飲みもやらないし。ジム行くのと、本買うくらいだし。」

「趣味ないんですか?」

「んー、陽織?」

イヤイヤ、自分を趣味にされたら困る!

「今は子育てかなー。」

そういえば、育児書を大量に買っていた。

特撮やロボットアニメは好きらしい。

よく鷹人と一緒に見てる。

プラモデルもたくさん持ってる。

ソフビも詳しい。

良い旦那様だ。

「陽織は、お菓子作るの好きだよね!編み物も上手だし!」

材料費は確かに払ってもらっている。

鷹人のセーターとか、帽子とか、今は作ってる。


そんな陽織の趣味が意外だったのか、美織が驚いた。

「陽織ちゃん、編み物とかやるの?すごい!」

最近は、美咲のお気に入り呉服商の方に、和裁を教えてもらっている。

初めて夏に浴衣を縫った!


でも、着物はアクセサリーの比ではない!

かかる単位が違う!

だから、美咲みたいに着物をばんばん作る、なんて怖いことはできない。


そんなふうに4人で話をしていたら、高嶺と梓沙が2人の子どもを連れて入って来て、いよいよパーティーが始まった。


天神大和が入場すると、扉が閉められて、会場がシーンとなる。

舞台中央のマイクの前に大和が立ち、パーティーの開催と孫の誕生を喜ぶ挨拶をする。

そして、その1人がゆくゆくは、この会社の跡取りとなることを。それに合わせて、隣に並ぶ、梓沙と高嶺が頭を下げる。


会場では、パチパチと拍手が起こった。

国会議員の岡元が出てくると、乾杯の挨拶をした。

岡元はすでに、陽織が黎人の隣に並んでいることに気づいている。

でも、陽織が動かないので、ここはとりあえず穏便に済ませるつもりらしい。


乾杯の後、それぞれが歓談を始めた。

陽織はこの後の流れを知らない。


神家の人は、2人を見つけると、軽く挨拶をして来る。

「今日の陽織様は一段と。」

「今日も大変お美しい。」

などなど。

昨日の一斉に行った連絡と気合いが入った陽織の格好に、ほぼ全家が何があると感じている。唯一、その連絡をしたはずの大神だけは

「お、陽織、今日はクリスマスか?」

除いて。

でも、こう言った軽口が今の陽織にはありがたい。

「先生も奥様にやってみてはいかがですか?」

と、黎人は和嶺にしたのと、同じ返しをする。

マネキンもクリスマスも、どちらも酷いが、言われた方がホッとする。


そんな陽織の姿を、修也は遠巻きに見ていた。

自分が用意したドレスは、おそらく100分の1にも満たない。

黎人はわざと飾らせて、陽織が安物ではない、と言うことを見せつけたかったのだ。

たかが一介の勤務医の娘ではない、と。


黎人は陽織を連れ、色々な人に挨拶をする。神岡夫妻のところへ行くと、宏輝が羽織を連れていた。羽織は振袖を着ている。

「羽織ちゃん。」

羽織は陽織が突然消えたあと、初めて元気な陽織の姿を見た。

「陽織、良かった。無事に帰れたんだ。」

羽織が抱きついてきた。と思ったら

「にしても、また今日は、気合いが入ってるねー。」

と苦笑する。

「陽織ー、あまり羽織に見せつけるなよー。俺には無理だから!」

と、宏輝も呆れる。


神岡氏は黎人に梢絵と、毎年宏輝が世話になっている礼を言っている。

「和兄様は貴金属店のマネキンみたいだって。大神先生なんか、クリスマスだよ。ひどくない?」

それを聞いていた宏輝の父が、

「宏輝もいつか、羽織さんをそれくらい着飾らせるくらいに、なると良いのですが。」

と笑っていた。

羽織はそれを聞いて、イヤイヤと首を振っていた。

千織は今日、湊人とお留守番と聞くと、ちょっと寂しそうだったが、美織がいることを知ると、宏輝と2人そちらに挨拶に向かった。


パーティーが始まって30分もすると、いよいよ岡元や天神が動き出した。

まずは岡元と神次が、黎人と陽織のほうへやって来る。

「これはこれは、神代の若社長と奥様。」

岡元は以前と同じようないやらしい目つきで、陽織を見ながら近づいてきた。

   貧弱って言ったくせに!

黎人は

「先日、妻がそちらにお招きいただいたようで。」

黎人は、陽織がさらわれたことを知っている、と案にわからせるような返事をした。

「そうなのですが、いつのまにかお帰りになってしまって。私共が何か無礼なことをしたのでしょうか。」

   はあ??無礼も何も!

   ガムテープで口を塞ぐのは

   礼儀正しいのか!

「お食事もお出ししたのですが、手をつけられなかったようで。」

   怖くて食べられるか!

岡元は、いかにも申し訳なさそうな顔だけ、している。


「ところで、私の息子、修也が陽織様のことを大変気に入ったようなのですが、今度ごめいわくでなければ、お茶などご一緒させていただけないでしょうか?」

岡元の言葉に、黎人はカチンとする。

「申し訳ございませんが、私の妻となぜオタクの息子さんがお茶を?それは可笑しな話だとは思われませんか?」

「いえいえ、他意などはございません。ただ皆さんのように、親しくさせていただけたら、そう思った次第でございます。」

「皆さんとは?」

「例えば、そちらでお話しされていた神岡様の息子さんとか。そういえば、社長の秘書の方とも親しくされているようですね。」

なるほど、そうきたか。

「皆さん、私もよく知っている、信頼できる友人たちですよ。無闇矢鱈と妻が若い男性と一緒にいるわけではありませんので。あまりに失礼なことをおっしやらないで、いただきたいものです。」

「ほう。では修也が信頼にたると思っていただければ良いと?」

「ご冗談を。信頼というのは、そう簡単に作れるものではありません。神岡くんも、神柴くんも、長年のお付き合いの中で、築かれたものです。」

「なるほど。では、天神さんのように長年お付き合いをされている方の推薦ならば良いと言うことでしょうか?」

陽織はこの話を聞いて、クスクスと笑い出した。

「わたくし、天神さんのことは、よく存じませんが?」

と陽織が答える。

要は、黎人が知っていても、陽織は知らない。

他の2人は、黎人も陽織も知っている。

と、伝えたかったのだ。

それでも岡元は負けずに

「おかしいですね。お兄様は天神さんのお嬢様と、ご結婚されたはずですが、間違っておりましたでしょうか?」

「梓沙様とも、歳が離れておりますので、わたくしあまりお話ししたことがございません。兄から聞いている程度ですわ。義理の姉妹だから、よく存じ上げている、とは限らないのではございませんか?」

陽織はいつもと口調も目付きも全く別人のようだった。


陽織はスイッチさえ入れば、いつものぽややんではなくなる。特に、今日はそう見えるように、黎人が仕立て上げたのだから。

「妻もこう申しておりますし、わたくしどもは、このあたりで失礼致します。」

黎人はそういうと、陽織の腰に手を回し、抱き寄せるようにして、岡元と神次の前を去った。

   わたしだって、やればできる!

   ぽややんなんて、言わせないんだから!


その様子を少し離れたところで見ていた高樹と陽香、明孝が陽織を褒めた。

「陽織、エライエライ!」

「すごいじゃないか。かっこよかったよ。」

「陽織、大丈夫?怖くなかったの?」

父と伯父に褒められ、母に心配された。

「陽織ぽややんじゃないもん!」

と、陽織が3人に言うと、黎人が

「ぽややんってなに?」

と聞いてきた。

陽織は黎人を引っ張って美織たちの方へ移動する。

「お祖父様、ママのお祖父様が、大学で2回も誘拐されるなんて、陽織はぽややんだからだって!」

それを聞いて、黎人は吹き出した。

たしかに、そうかも、しかし

「だから、黎人さんにも騙されるんだって!」

と陽織が続けると、さすがに黎人も苦い顔になった。

(騙されたって。)















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