陽織、力を使う!
大学生になって、依頼を任されるようになった。高校生の頃は、大人が必ず同行していたが、大学生になったので、やってみろ、ということになった。
それから、すでに何件か二人でこなして来た。
今回の依頼に似たモノも、何回かこなしている。
「陽織、に、任せ、る?」
黎人は悠人の言葉を反芻する。
「む、無理だっ!まだしっかりと自分の力を把握してない、と思う。ついこの前まで、力があることも、知らなかったのに。」
珍しく黎人が狼狽えている。
陽織はその女の子に手を差し伸べる。
「えっと、あの、あなた、大丈夫?」
女の子は、顔を挙げる。顔は原型をとどめていない。頭もあちらこちらがグシャグシャと潰れている。電車に跳ねられた時、頭を強く打ち付けたのだろう。
首も半分くらい、取れかけている。
顔は血だらけで、目が飛び出して、鼻も口も形をとどめていない。
身体も、曲がったり、腕や足がなかったり。
(たぶん、ご遺体の損傷が激しくて遺族に見せられない、という状態なんだろうな。)
先日まで読んでいた、葬儀会社が舞台の小説を思い出した。そんなことを考えていないと、吐いてしまいそうだ。
まるで血肉の塊のような身体に、陽織は思わず顔を背けそうになったが、グッと堪えた。
ここで目を逸らしたら負けだ!
陽織は震えてる手をなんとか握りしめて、まっすぐに見据える。がんばれ、わたし!
陽織は、後ろでうずくまる羽織と千織を背に踏ん張った。
すると、陽織の身体から白い光が少しずつ溢れてくる。キラキラとした光が溢れる。
すると、女の子の頭が少しずつ、形を変えていく。
「頑張ってるなー、陽織さん。」
悠人が感心したように言った。
黎人は陽織の姿を、ただ見つめていた。
「アレが、花嫁の、力?」
陽織から、光が溢れるたびに、女の子の姿が少しずつ見られる様子に変わって行く。
頭が綺麗になった。
割れていたところ、潰れていたところが治る。
ボサボサの髪も、綺麗に整えられている。
おさげのようだ。
離れたところにあった、足や手が繋がる。
おかしな方向に曲がっていた身体が真っ直ぐになり、張り裂けていた身体も綺麗に治っていく。
さらに溢れると、少女の姿は生きていた頃の姿に戻っていた。
と、同時に黎人と悠人の前にあったガラスのようなものが消える。
二人は同時に走ると、陽織の元へ急いだ。
「陽織っ!」
黎人が叫び腕を伸ばすと、陽織はその中に倒れ込んだ。そして空いている片方の手で、黎人は女の子に祝詞を唱え始めた。
ありがとう。
声をかけて、くれて。
ありがとう。
少しずつ、少女の姿が薄くなって、消えて行く。
羽織と千織は、悠人に支えられて、立ち上がった。
「陽織ちゃん!」
「ヒオ!」
羽織と千織が、駆け寄って陽織を覗き込む。
「大丈夫。初めて力を使い過ぎただけだと思う。」
黎人が陽織を抱きあげて、二人を安心させた。
周りの光景が、駅のホームに戻る。あれ?確か電車に乗ったような?
「あー、たぶん外に押し出されたんだなー。」
千織が不思議そうにすると、黎人が教えてくれた。
「え、と千織さんと、羽織さん?だよね。この前お祭り手伝ってくれた。」
悠人が言うと、二人は揃ってハイと返事をする。
「どうする?病院にとりあえず行く?」
悠人が聞くと、二人は首を横に振った。
「わたしたち、腰抜かしてただけですから。」
羽織が恥ずかしそうに答えた。
「陽織さんは、こちらで様子を見てお家に送るから。それじゃ二人は帰って、ゆっくり休んで。あまり眠れなかったら、明日大神先生に、相談してね。」
羽織と千織は、悠人にそう言われて、次の電車に乗り帰って行った。
「さて、どうしようか?」
悠人が声をかけるが、黎人は陽織を抱きしめたまま顔も上げない。
「おーい、そのままじゃ不審者と間違えられるぞー。」
と言われてやっと顔を上げた。
黎人が陽織の様子を気にしている間、悠人は和嶺に連絡を入れていた。
二人が陽織を抱えて地下鉄の出口を出ると、目の前に神月家の車が止まり、中から高嶺と和嶺が降りて来た。
「陽織っ!」
和嶺は黎人から奪うように陽織を抱き上げると、押し込むように車に乗せた。
「なんか、君たちから連絡があると、いつもこういう状況なのはどうしてかな?」
高嶺がいつもとは違う声色で、黎人と悠人を威圧して来る。
「す、すみません。」
「申し訳ありません!」
二人は同時に頭を下げる。
「今回は、本当に偶然です!」
言い訳をするつもりはないけれど、わかって欲しい。
「まあ、陽織は黎人くんに会いたくないみたいだから、今後気をつけてね。」
高嶺にそう言われて、黎人は完全に項垂れてしまった。
高嶺が運転席に乗り込むと、車は去って行った。
「まじか。」
「かなりお怒りだったね。」
「あー、もう、へこむ!」
「まあ、運命の相手なんだから、大丈夫だよ?」
悠人の軽い慰めが、黎人には軽く聞こえない。




