陽織、ガード強化(子育て編)
黎人はすぐに、陽織が修也に連れ去られそうになったことを、蓮也、高樹、高嶺、神嶋に伝えた。
そして、彼は異界を使って移動している可能性があること。
その中に、陽織そっくりの何かがいること。
狙いは陽織であること。
高樹はそれを知って、翌日の夜、すぐに陽織のところに飛んできた。
陽織は父が突然来たことに驚いていた。
「父様?どうして。」
「どうしてって、心配したに決まっているだろう。」
高樹に言われて、陽織はちょっとはにかむ。
「だ、大丈夫だよ。わたし、その、強い、から。」
陽織が目を泳がせて言うと、高樹は呆れた顔でため息をつく。
「強い人間が、ご飯食べられないほどになるわけがない。危ないなら、大学を休んで、家にいなさい。」
と、言われてしまった。
「お前は、すぐに食事を抜くから。」
「う。」
返す言葉がない。
でも、大学は休みたくない。
そのうち、黎人が蓮也を連れて帰ってきた。
みんな陽織を心配してくれている。
とりあえず、陽織は3人分の夕飯を用意して、食卓についてもらう。
「陽織、今までのことも、今回のことも、全部まとめて言う。」
高樹が2人を前に話をする。
「大学はいい。頑張って行きなさい。でも、お前に仕事は無理だ。」
今まで、黎人が言いたくても言えなかったことを、高樹はズバリと言った。
「世の中で働く大半は男性だ。家の中でリモートで仕事をするなら大丈夫だろう。でも、就職して通勤できるのか?職場で男の人がたくさんいて、我慢できるのか?誰かにまた、狙われたら、どうするんだ?
病院だって、おまえは男性の医師に担当されただけで、泣いて大騒ぎするんだぞ?今回狙われて、自分では、身を守れなかったじゃないか。弱いって、もっと自覚しなさい。
黎人くんだから、なんとか守ってくれているんだ。なのに、おまえは自分を守れないのに、他人を助けたり、守ったりする。
それが、どれだけ陽織自身の周囲の負担になるのか、考えなさい。」
陽織は返す言葉がない。
さらに輪をかけるように。
「陽織、夕飯食べたの?」
と、黎人が聞いてきた。
(う、たべて、ない。)
陽織が黙っていると、黎人が後ろを向いて、リビングで遊ぶ鷹人に声をかけた。
「鷹人、ママ、ご飯食べた?」
と聞く。
ずるい!
「ママ?まんまない。」
と、答える。
鷹人は賢すぎる!
なんで2歳なのに、ちゃんとわかるんだ!
それを聞くと、蓮也まで陽織に対して、厳しい目を向けて来た。
「陽織さんの気持ちはわかるが、やはりせめて、11月に開かれる天神のパーティまでは、家にいてくれないか?ほんの二週間程度なんだ。」
二週間。
たかが二週間。
だけど、同じコマの実験を2回休む。
レポートが2回分抜ける。
結菜がいない今、羽織たちは5人の実験や実習を4人でこなしている。
それを陽織が休んだら。
「無理、です。」
陽織は、下を向いて答えた。
それを見て黎人が、
「よし、こうしよう。今日も含めて、陽織がちゃんと夕飯を残さず食べられたら、次の日は大学に行っていい。すでに、今日は食べていない。と言うことは、明日は休んで、家にいようね。」
と、言い出した。
はあ?
何言ってんの?
意味わかんない!
「わたし、今日だって、食べたかもしれないじゃない!」
陽織は頑張って言い返したが、すでにその言葉に説得力がないことに、気づいていなかった。
「うん、じゃあ明日は休み。で?明日の夕飯はどうする?明後日は?夕飯だけじゃないよ。
この前の、会議の時も言ったよね。陽織、お弁当全然食べられなかった。社会人は食事も早くないとって。
しかも、昼休みギリギリまで。ああいうの、みんな見てるんだよ?たかが食事かもしれないけど。
あそこで気づいた人は、陽織のことを採用することはないよ。」
黎人の言葉は厳しかったけど、事実だ。
いくら資格があっても、頭が良くても、社会の時間についていかなければ、仕事はさせられない。
当たり前のことで。
初対面の男性だって、自然と話せなければ、仕事にならないことも、当たり前のことで。
そんな当たり前のこと、知ってる。
「でも、今は休めない。結菜ちゃんいないから、実験も実習も、わたしたち4人でやらなくちゃならないから。」
陽織に言葉に、蓮也と黎人は高樹が帰宅する前に、と母屋に向かった。
湊人と話をする。
明日からの二週間、陽織の周りを固めるために。
黎人が戻る前に、陽織は鷹人をお風呂に入れた。
「父様、見ないでよ!」
「見るか、馬鹿もの!」
と言った会話をしながら。
黎人が戻った後、高樹が帰宅し、明日からも普通に大学へ行けるようになった。
翌朝、キャンパスに行くと彩奈と翔太がいた。
翔太の存在に、羽織が気まずそうにしていたが、黎人と湊人が作った、ローテーションでの依頼だった。
黎人が大学にも話してあることで、実験室や実習室に他の課の学生や卒業生がはいっても、何も言われなかった。
大学側も、学生たちには他学部生の見学、や、OB見学と、説明していた。
午後は彩奈と宏輝が来た。
翌日は湊人が午前で、午後が和嶺と神嶋!?
湊人がすごーく、嫌そうな顔を全面に出していた。
笑えた!
彩奈と神嶋は1日交替でやって来た。
神嶋も卒業生だったんだー!
他にも、神林や大神と言った元恩師たちも協力した。
相手は異界を自らの意思で開けて、移動すると言う規格外の術者。
どれほど警戒しても仕切れない。
一週間もすぎると、羽織たちも慣れて
「今日は大神先生なんだ!あ、高校週休日だ。大変だねー、先生も休日返上で。」
お昼を一緒に食べながら、大神に言うと、大神が
「今回は黎人の依頼なんで、依頼料が良いんだ!」
と本音を答えた。
あー、先生はそう言う人だった。
「でも組んでるのが葉鳥なら、楽でしょう。」
「いや、午後は颯斗になる。」
その名前を聞くと、途端に佳織が赤くなる。
順調に交際は進んでいるらしい。
良かった、良かった。
(あと4日。)
「なんでも、他人を操るんだろう?なるべくガードが高い、メンタル強めのメンバーをあつめたんだけど、颯斗って流されやすいよなー。」
と、大神が心配する。
「田神くん?それはないよ。単にわたしたちといると、なぜか巻き込まれるけど。」
と陽織が答えると
「おまえが言うな!お前が!」
と、頭をぐりぐりと絞られた。
「痛い痛い!」
「だいたい、お前が最初に、巻き込んだんだろう!」
「ひどい!あの時は羽織ちゃんもいたよ!」
「ちょっと、陽織!私のせいにしないで!」
「その次は、お前だろう!お前が院長室で泣いて帰ってこないから!」
そんなこんなで、3人が騒いでいると、颯斗がやって来た。
「何してるんですか?先生。」




