陽織、密談の間(子育て編)
岡元修也こと、神次修也は養父である岡元大介と共に、大介が支持する立候補者の選挙応援をするために九州に来ていた。以前は亮一も来ていたが、彼は先のサークル騒ぎで、警察に捕えられて以来、一線から引いてもらっている。
やはりただの坊ちゃんは使えない、と修也は思った。
それにしても、あの神代という夫婦は。
修也は生まれた時から、周りとは違うチカラを持っていた。しかし、それを周囲に理解してもらうことはなかった。それどころか、疎まれ、ずっと、一人ぼっちだった。
唯一理解してくれた宗教団体は壊滅し、また自分は1人になった。
その時、自分の祖先が十神家という特別な力を持つ家で、しかし明治の始まり、周囲との亀裂から断絶してしまったことを知った。神次家。
十神家は表だった存在ではない。しかし、神代、天神、神城、神明、神月、大神、神岡、神倉、神澤、神先、いずれも国内屈指の名家として君臨している家が多い。
なぜ自分の家ではなく、他の家が!
修也の行き場のない怒りは、十神家に向いた。
その中でも、最も高位と言われる神代、そして次期当主となる黎人と、パートナーの陽織。
2人は自分より遥かに若く、そして周りの目を惹く。
ただ特別なチカラを持つだけではない。
世の中は不公平だ。
その時に、岡元と出会った。
岡元は、不思議ない力を持つ修也を疎ましく思うどころか、養子にまでしてくれた。
不公平な世の中を無くす。
力を持たないモノ、虐げられてるモノを助ける、という彼の理想に共感し、ここまで来た。
しかし、ここに来て修也は彼の本心や見た目だけの薄っぺらさに嫌気がさしている。
それなら、現役の十神家で、修也に共感を得てくれた、天神のほうがまだマシだ。
天神はマスコミ大手。
しかも、前十神家の長だ。
岡元を切って、天神に着くことを画策し始めた時、彼の娘婿の存在が目障りになってきた。
たかが、研修医のくせに!
その日の夕方、神代家を訪れた高嶺が神次と会ったことを話し出した。
「彼は最近になって、急に天神の屋敷に姿を見せるようになりました。おそらく義父に取り入ろうとしています。僕がやっている病院建設の資金の話や、土地の名義、梓沙のことなど、かなり詳しく調べていることがわかりました。」
蓮也はなるほど、とうなづく。
「そして、梓沙にも、僕ではなく自分と再婚したほうが幸せなのでは、と言った話も持ちかけていました。一介の勤務医の息子よりも、国会議員の息子である、自分の方が、天神を支えられると。」
高嶺は苦笑いする。
「で、梓沙さんは?」
黎人たちは、少なからず、梓沙のことを知っている。表立ってはいなかったが、巫女として高嶺をずっと支えていたことも。
「彼女は賢い。表立って彼を非難したり馬鹿にするような態度は取っていません。ただ、先日僕の実家に子どもを連れて行き、いざという時は匿ってもらえないか、と相談したそうです。」
「神次は、巫女の意味を知らないのか?」
悠人は、呆れた声で話す。
「一介の勤務医、ねえ。高樹も馬鹿にされたもんだ。」
「怖いモノ知らずですね。」
黎人が父の言葉に続く。
「確か、冬には神月総合はできるんだよね。」
和嶺が兄に確認をする。
「ああ。年明けにはなるが、新年会の時にはお披露目するつもりでいる。」
「パーティーが開かれるのは11月。陽織たちは大学の講義中か。」
「ウチは僕と梓沙、2人の子は欠席するわけにはいかない。もちろん、神月の両親も。」
その時、黎人が突然言い出した。
「高嶺さん、今神次は地方にいるんですよね。それなら、今のうちに、高嶺さんの家に結界を張りましょう。僕と父、高樹さん、高嶺さん、和嶺、悠人がいればおそらく、かなり強固な結界が貼れる。それだけでも、梓沙さんは安心して、生活ができます。」
それを聞いた蓮也は、すぐに高樹に連絡を取った。
「万が一を考えて、着工中の病院の方も。事故でも起こったら困る。」
その話を聞いた湊人が
「悠兄じゃなくて、俺がやりたい!やらせて。」
と手を上げる。
「いや、僕も手伝うよ。」
「2箇所の結界だ。人は多いほうがいい。」
そう言って、蓮也は神鬼と神嶋、神柴親子にも連絡を入れた。
「できれは、もう1人、欲しいな。」
ちょうど、夕飯の用意ができたことを告げにきた美咲が、
「なら、わたしがやろうか?うちの弟に頼んでもいいけど。」
と、珍しく口を出してきた。
「神明神社の結界か、頼もしいかも。」
悠人が呟いた。
一方、その間、梓沙は別宅で陽織と一緒に、子どもを遊ばせていた。
「結婚式ふりですよね。お会いするの。」
「本当ね。きちんとお話しするのは、初めてですもの。いつも、主人から、陽織さんの話は色々伺っていたのよ。」
梓沙はとても上品な女性だ。
本来なら、義理の姉妹ということで、もっと話してもよかった。だが、祈梨と違い学校もすれ違い、現場には出ない梓沙とは、本当に接点がなかった。
「鷹人くんのお部屋が、もうちゃんとあるのね。」
「はい、欧米なら生まれてすぐ、子どもは親とは違う部屋になりますから。」
と陽織が答える。
2階に上がる時、鷹人は1人で階段を上がった。まだ手足を使ってだが、上手にあがる。
2人の子を抱えた梓沙にとって、それはものすごく羨ましい。
数ヶ月違いだというのに、かなり違う。
「たっくん、鷹人は一歳になってすぐ、覚えちゃったんです。わたしが非力だから。」
あははと、陽織は笑う。
「たっくん、大くんに階段よいしよ、よいしょ、教えてあげて。」
陽織が言って階段のゲートの上と下を開ける。
すると、鷹人が上から座りながら降りてきた。
なるほど。
鷹人が降りてくると、大地の手を引いて階段のところへ連れて行く。
そして鷹人は手と足を使いながら、ハイハイの要領で、階段をあがると、大地も真似をする。
あー、こうやって子どもって学んでいくんだ。
上まで行くと、鷹人は自分の部屋に、大地を連れて行く。
保育園で、きっといつも将人とやってるのだろう。
部屋の鍵はかかっていない。
でもドアノブへ届かない、なのに鷹人は手を挙げると、届かないはずのドアノブを回して、扉を開けた。
(う、こうやっていつも開けてたのか。)
陽織は初めてその動きを見て、脅威した。
それは梓沙も同じだった。
「これじゃ、確かに見られちゃうわよね。」
梓沙にそう言われて、陽織は振り向く。
何を!?
「あ、ごめんなさい!その、主人が、黎人くんから聞いたらしくて。結界を破っちゃう、って。」
(ウワッ!黎人さん、一体何を高兄様に話してるんだ!)
美咲に呼ばれて夕食をみんなと一緒に取るが、数か月の違いでも鷹人と大地では大きく違う。
本来なら下の子が生まれて、兄ということになるのだが、鷹人のように保育園という環境で育っていると、それなりにできることが増える。
今日は温野菜のサラダとビーフシチューだ。
鷹人は自分で上手にスプーンを使って、ごはんを食べて、おかずも食べる。シチューも。
食べさせてもらわなくても、少しこぼしながらも上手に食べることができるようになっている。
むしろ陽織よりも、もぐもぐ食べるので、黎人は安心している。
一方、大地はまだ食べさせてもらわないと、食べないものもあった。これからは2倍手が掛かる。できれば大地にもできるようになって欲しい、と梓沙は願う。
だから、こうやって同じ年の従兄弟と触れ合う機会は、これからも作りたい、と申し出てくれた。
今回陽織が作ったのは、ビーフシチューだ。
朝から牛肉を煮込んでいた。
食べていた湊人がそれに気づき、破顔した。
和嶺も気づく。
そして高嶺も。
「なるほど。」
と蓮也も気づいた。
毎日食べている黎人は、そう?と言った顔だった。




