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陽織、みんなのアルバイト事情(子育て編)

時間は8月初旬までさかのぼる。

お盆を前に、本社では毎年恒例の懇親会が行われていた。

ここには、湊人をはじめとするアルバイトも参加する。

今年は、湊人のほかに、宏輝や羽織、日緒理の姿もあった。が、黎人がいない。

肝心の社長がいなくていいのか、と思ったが、急遽外せない用事が出来てしまったということだ。


その日の昼間、大型トラックが幹線道路で大事故を起こし、三台の車が衝突、運転手や歩行者の中に亡くなった人もいた。

そのすぐ近くに、陽織が代表を務める認定子ども園レイリーがある。

そして、そのトラックの荷物の一部に神代製薬の品があり、会社でも打撃を受けた。

それが黎人が欠席した理由の一つだった。


しかし一番の理由は、昼間、レイリーにいた陽織が、事故で亡くなった母親の霊に意識を引きずられてしまったことだった。何とか無事に回復し、帰宅した知らせを受けたものの、黎人は飲み会に参加する気分ではない。

大丈夫だと言われたが、それ以外にも気がかりなことがある。

今回も鷹人が陽織を助けている。

そのため、鷹人の体調にも不安がないわけではない。


ということで、商品の再搬送の手続きを終わらせると、黎人はすぐに帰宅した。

そして、黎人が帰宅すると、鷹人は元気にごはんをいつもより多く食べていた。

健康だ!

陽織は、というと相変わらずごはんを食べずに、うとうとしている。

毎回のことながら、陽織はこうやって体力を減らしてしまう。

そんな、眠い陽織の口に鷹人が逆にごはんを突っ込んでいた。

笑える。

「ママ、まんま!」

黎人が着替えて、陽織にただいまのキスをしても、覚醒しない。

「鷹人、困ったねー。」

と2人で、なんとか陽織を起こす。

やっといつもの半分くらい食べたところで、完全に意識を手放した。

   やっぱり早く帰って良かった。


一方、湊人達はというと、三年目ともあり、バイト仲間との連携もできて、宴会を楽しんでいる。

誰に似たのか、なぜか神代兄弟でアルコールに弱いのは黎人だけで、父も悠人も湊人も強かった。


宴会中、綾人からレイリーの近くでの事故と、陽織の意識が引きずられたことを知って、黎人の帰宅理由がわかった。

(まあ、黎兄も飲み会好きじゃないから、良いか。)


薬学部の五年生になった雨宮は今年でアルバイトが最後と言っていた。

来年は国家試験があるので、勉強に専念するらしい。4年生の去年、CBTとOSCEも無事に合格しているので、それなりに実力はあるが、国家試験となると、話は別なのだろう。


それは医学部の和嶺も同じで、来年はみんな忙しくてあまり行動を共にできなくなる。

いずれ湊人や宏輝もそうなるのだから、他人事ではない。


そのため、今回は9月の最後のバイト仲間の飲み会は、五年生の雨宮の送別会も兼ねていた。

来年は四年の橋本と宮下が最後になると言っていた。

その時、なんのきっかけか、雨宮と日緒理が都立高校出身、と言う話になったらしい、

ほとんどが私立、しかも湊人たちのように中学から明王と言うメンバーの中、標準的な一般家庭という話から、気が合ったらしい。


時々このメンバーでご飯は食べていたので、以前もよく話してるなーとは、みんな思ってはいた。

そのあと、日緒理が高校の先輩から、振られた話などになり、紆余曲折?の末、いつのまにか、2人の雰囲気が違っていた。


雨宮は普段、神代グループの処方箋薬局でも、週一アルバイトをしているらしく、そんな話にも、2人は盛り上がっていた。


9月末、佳織は、と言うと陽織に頼まれて、美織と2人、レイリーのバイトを2日間受けていた。

内容は、公認会計士に出す前の、書類のダブルチェック。

2人に頼んだはずなのに、8月の陽織と黎人の会話で不安になった和嶺も来た。

「兄様の分はバイト代出さないよ!」

と陽織がいったが、それ以上に陽織の説明で2人が理解できるかの方が不安だったらしい。

「もう!バカにして。とにかく、今回はわたしのポケットマネーなんだから!」

と、陽織が偉そうに言う。


キクリの話の後、佳織がその時の様子も話し出した。

小さい子が可愛かった。

夢子先生に色々教えてもらえた。

陽織が一生懸命、お金の計算していた。

でも、領収書の意味がよくわかってなかった。

「楽しかった、と言うか、面白かった。」

   なんで?

と、陽織が佳織の方を向く。

「和嶺先輩、一応美織ちゃんに着いてきただけ、って言っていながら、ことあるごとに陽織のミス見つけて。

喧嘩するし、陽織のこと怒るし、でもう、美織ちゃんと笑っちゃって。

やたら、陽織は自分のポケットマネーなんだから!って言って、和嶺先輩に、ポケットマネーの意味、わかってるのか?って。」


「え?陽織、ポケットマネーなんて、あるの?」

と、羽織が失礼なことを言う。

「あ、あるよ。ちゃんと、黎人さんからもらったんだから!」

と答えた。

それ、陽織のポケットマネーじゃないじゃん!

黎人さんのポケットマネーじゃん!

と、周りの3人は思った。

「でも、本当に監査のためのチェックと、書類の書き直しの手伝いで、あんなにもらって良かったの?って言うくらい、いただいたよ。笑ったし。」

と、佳織は喜んでいた?笑って。

「お昼も、出たしね。」

と言う言葉に、陽織はドヤ顔をする。

   だから、陽織のお金じゃないだろう!


「陽織って、結婚してからお金使ってるの、あまり見ないよね。」

と、羽織。高校の時は一緒にかき氷食べに行ったし、お祭りにも行った。

「持ってるよ!ちゃんと。えと、ほらお茶する時、用とか。」

「普段はどうしてるの?だって陽織、ご飯とかお菓子とか、自分で色々作るの好きだよね。」

「羽織ちゃん、古いなー!わたしはネットで注文してるよ!で、これ欲しいって言うと、黎人さんが見て?見て?あれ?注文する時払ってくれる。」

陽織は途中から、自信がなくなる?


「服とかは?」

「え、と。いつも行く百貨店で、決まった人がいて、その人と選んで。黎人さんが、最後に良いよって言ってくれると、払って、くれる。」

「本は?」

「本屋さんとか、近くのコンビニ行くって言うと、その、黎人さんがコレ使いなさいって、カード、渡されて。それで。」

「外食とかは?」

「んと、家族で行く時は、黎人さんが。他の人がいる時も、黎人さんが。」


「もしかして、陽織、黎人さんいないと何も買えないの?」

そう言われて、改めて自分がお金、払っていないことに気づいた。

「やっぱり、就職、したい。」


「悠人さんに、バイトで雇って、って言ったら、断られた。」

と、さらに落ち込む。


しかし、黎人が陽織にお金を渡さない理由は別にあった。

陽織は、お金を触るのが苦手。

子どもの時、父親に

「お金は、たくさんばい菌が付いていて不衛生なもの。」

と教えられた。

それ以来、お金を触ったらすぐに手を洗うか、消毒をする。

そしてハンドクリームで、コーティングする。

他の人も同じ。

黎人がお金を触った手で陽織と手を繋ぐなんて、もってのほか!

なので、黎人は面倒になって、陽織にお金を持たせるのをやめただけだった。


全ての元凶は高樹にあった。





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