陽織、怪獣をもらう(子育て編)
お盆を前に、黎人は陽織と鷹人、湊人、千織と岩福寺に行った。湊人たちは連れて行かなくても良かったが、勉強のためもあった。
本来なら湊人の仕事だし。
岩福寺では、3回目の訪問に法子も慣れ、いつものように人形たちの部屋の隣に案内してくれた。
今回は息子の明彦もいた。
お盆が近いので、檀家の家に回るということだ。
それなら、と、明彦にも見てもらおうと思った。
「お父上は、人形供養をおひとりで?」
と聞くと、はい、と短く答える。
「わたしには、まだ難しくて。」
と、言うが、才能がないとは思えない。
6人で人形の部屋にはいる。
夜にしか動かないと言う、まゆの人形が動く。
それを見て、明彦が目を見開く。
千織は安全を考えて、部屋全体に結界を貼った。
その中で、陽織が人形に近づいた。
「まゆちゃんの人形さん。」
陽織が声をかけると、人形はまた後ろに下がった。
「聞いて欲しいことがあるの。」
陽織は前に正座して、声をかけた。
「まゆちゃんのお父さんとお母さん、すごく後悔していたよ。ごめんなさいって。」
陽織がゆっくりと、話しかける。
「いまさら言われても、遅いよね。でもね、そこにまゆちゃんを縛ったら、もっとまゆちゃん、かわいそうだよ。」
湊人が、その言葉に警戒する。
人形に閉じ込めていたのか、と。
「まいちゃんのことばかりで、まゆちゃん、寂しかったよね。だけど、お母さんも、疲れてたんだよ。本当はお母さん、もっと他の人に、助けてって言えればよかったんだよね。」
陽織はそこまで言うと、鷹人を手招きした。
湊人は、大丈夫か?と言う顔で、黎人を見る。
「わたしもお母さんだからわかるの。わたしは助けてくれる人がいたから、頑張れたの。
でも、助けてくれる人がいないと。
お母さんもきっと、まゆちゃんのこと、大丈夫って信じていたかったんだよ。
だから、ごめんなさいって。気づかなくて、ごめんなさいって。
わかってあげて欲しいの。
お願い。そこにまゆちゃんがいるなら、ちゃんと放してあげて。
そして、送ってあげようね。」
明彦は、その様子を黙って見ていた。
陽織は膝の上に鷹人を乗せている。
すると、人形が一番前に動く。
湊人はさらに警戒を強めるが、黎人が前に出るのを抑える。
人形の目から、涙がこぼれ、陽織と鷹人以外の全員の顔に驚異が現れる。
そのまま、人形から小さな霊が浮き上がってきた。
それを見た鷹人が、陽織の上から立ち上がり、トコトコと人形に近づくと、人形の頭を撫でた。
「いい子、いい子。」
と、言いながら。
霊は静かに消えて、キラキラと光の粒に変わった。
部屋の中が、静まり返り、急に空気が軽くなる。
陽織は肩から、大きな息を吐き出した。
「鷹人、お利口さん!」
黎人が両手を広げると鷹人が飛び込んでくる。
その様子を見た湊人が
「すげーっ。」
と、小さく呟いた。
「明彦さん、霊が見えましたが?」
黎人が聞くと
「はい。すごかった、です。」
という返事が。
「今の、鷹人くんが、祓ったってこと、ですよね?」
千織が驚いていた。
そうだねー。と、黎人が笑う。
いつのまにか、鷹人は黎人の腕の中で眠っていた。
「ね、うちの子、天才でしょ?」
「神嶋が欲しがるわけだ。」
という湊人の言葉には眉を寄せた。
「あげないよ!」
終わったあと、法子がお昼を用意した、というのでご馳走になることにした。
明彦は、さっきの様子に未だ呆然としている。
「あのように、お一人お一人を送って差し上げられたら、こんなことは起きないのでしょうか。」
明彦は、神妙な顔で話し出した。
「んー、まゆちゃんの家は、檀家さん?」
「いえ、ただのご近所で。そのため、ご葬儀は普通のセレモニー会社だったと聞いています。」
そうかー、と黎人と湊人はため息をつく。
「ああ言う葬儀会社が悪いわけではないけど、全てが全て、寄り添ってってわけじゃないよね。」
「何もない、大往生とかならいいけどね。」
「これを機に、檀家さんになって貰えば?本当なら、今回の件、お金もそっちに請求していいくらいだよ。」
神代兄弟、容赦ない。
千織と陽織は笑う。
すると、鷹人が起きた。
「あ、たっくんお目目覚めた?」
と聞くと
「ママー。」
と甘えてくる。
鷹人は陽織のご飯から、色々もらってパクパクと食べる。好き嫌いがないので、香辛料や魚の骨、アルコールなどを気をつければ、陽織よりも何でも食べる。
茶碗蒸しのスプーンを持って、上手に食べてると、今度は海老の天ぷらに目をつける。
まだ、病み上がりだから、と陽織は衣だけとる。
「たっくん、おてて、キレイキレイしてから。」
とウェットティッシュを出すと、ちゃんと手を広げた。綺麗に拭いてあげると、衣をとったエビを手持って食べ始めた。
「もう1人分必要でしたね。」
と法子が気を使うが、その必要は全くない。
「たっくん、骨があるからちょっと待ってね。」
と、今度は焼き魚の身をほぐしてもらって食べていた。
「ごはん、ごはん。」
と言うので、白いごはん茶碗を寄せてあげると、茶碗蒸し用のスプーンのまま、食べる。
「美味しい?」
と聞くと
「オイチ。」
と答えた。
特に、さっき力を使ったので、お腹が空いたのだろう。良いことだ。
「陽織ちゃんよりも食べるねー。」
と、千織が感心してる。
「んー、今回の依頼の一番の功労者は鷹人かなー。」
と、黎人が言うと、湊人も苦笑いした。
「たっくん、パパがなにほしいですか?って。」
と、とりあえず聞いてみる。
「かいじゆー。」
と答えた。
その話を聞いた明彦が、席を立つ。
そして戻ってくると
「これ、わたしが子どもの頃のですが。」
と、今では超レアになっている怪獣のソフビ人形を差し出してきた。
「え?エボルキングじゃん!」
と、湊人が驚く。
??
陽織はわからない。怪獣は皆同じに見える。
「スッゲー、人気の宇宙人シリーズ!」
と、湊人の方が欲しそうだった。
「良かったら、もらってください、」
と言われたが、価値を知る黎人と湊人は素直にハイと言えない。
「これ、今すごい値、ですよね。」
「イヤイヤ、中古ですし恥ずかしいくらいです。」
「でも、状態も良いし。」
もう、男性2人は鑑定士の様な目だ。
「よし!鷹人、これはお兄ちゃんが受け取る。鷹人にはもっと新しいものを買ってあげよう!」
と、湊人が言い出し、黎人に頭を叩かれた。
岩福寺を出る時、黎人が
「あの、先ほどのやりかたはイレギュラーなものです。時間がかかります。力も必要です。よほどの事情がない限りは、進めませんので、参考までにしてください。」
と、明彦に告げ、5人は帰路についた。




