陽織、双子の上と下(子育て編)
6人が部屋に入ると、陽織は人形に向かって
「まゆちゃん。」
と言った。
「まゆちゃんの人形はあなた?」
まゆの人形は体を後ろにずらす。
その動きで、周囲の人形もズレる。
昼間でも動いた!
まゆの人形は自身よりも、周りの人形が前に行くように動いた。
「前と後ろ、どういう意味があるんだろう。」
「前より後ろが良いってことだよね?」
「んー、後ろの方が得なこと。」
「注射の順番。」
「何それ。」
「後の方がいい。」
「名前の順?」
「席順。」
「でも、5歳でしょ?」
5人が色々な意見を話している。
黎人は一度部屋をでて、法子に人形の持ち主のことを聞く。
詳しい話はわからないが、持ってきたのは近所の夫婦で、双子の娘がいたということだ。
今回は、そのうちの姉の方がインフルエンザで亡くなった。
「姉、ということは、妹がいた、ということですよね。」
羽織が黎人に確認する。
「双子、双子、双子。羽織さんの家は、どちらが上?」
黎人が聞く。
「ウチは、わたしが姉で、葉鳥が弟です。」
「僕は、悠人が弟‥。双子って、先に生まれた方が、上になるんだよね。」
黎人が言う。
「確かに。でもウチは、女と男だから、あんまり区別とか差別って気にならなかった、ですね。」
「ウチも、僕は神様の生まれ変わりで、悠人は普通の術者。でも、両親は陽織のことを後継の嫁ってよく言うよね。僕も、何かと跡取りって言われてきた。長男なんてもうない言葉なのに、やたら言われる。」
黎人の話に、湊人と千織が顔を見合わせる。
言われてみれば。
「双子なんだから、って思うけど、もし真由さんが、姉妹と差別、と言うか、姉だから我慢しろって言われてたいたら。双子って、病気も同時になること、多いじゃない。」
羽織が確かに、とうなづく。
「わたしたちは、子どもの頃同じ部屋だったから。病気の時は、一緒に見てもらってました。」
思い出しながら羽織が笑う。
黎人は基本、病気をしない。だから悠人がインフルエンザや水ぼうそうなどにかかると、いつも母が付きっきりだったのを覚えている。
もし自分も同じように病気になったら、母は両方の看病で大変だったろう。
そういえば、湊人も一緒にインフルエンザになって、黎人が手伝ったこともあった。
家族が病気になるってそう言うことだ。
もしもまゆより、もう1人の方が、何らかの理由で目が離せないようなことがあって、それでまゆの異常に気づかなかったなら。
陽織が見たのは、母親に見捨てられて、亡くなったまゆ。人形が知ってるのは、それだけ。
「この仕事、もう一度調べ直したい。」
黎人が言った。
4人は急にどうしたのだろう、と顔を見合わせる。
「きちんと、調べてその、まゆ、って子のこと、ちゃんと送ってあげたい。」
尾上真由は双子の姉だった。
妹は麻衣。
双子だけど、麻衣は真由よりも小さく生まれた。
生まれたときは500gも体重差があり、両親は麻衣が生きられないのではないか、と心配していた。
その後も、体の弱い麻衣は病気にかかるたび、両親が心配した。
真由の方は、丈夫だから、とあまり心配されることはなかった。保育園に行っていても、真由は滅多に病気にかかることはなかった。
5歳のとき、2人はほぼ同時にインフルエンザにかかった。麻衣は高熱が続き、両親はずっと付きっきりだった。
その日、父が仕事に行くと、母は麻衣の看病ですっかり疲れていた。真由も熱が高く、喉が渇いていたが、ほとんど真由の食事や飲み物を、母が用意することはなかった。仕方なく、真由は自分で用意していた。しかし、たった5歳の子ども、しかもインフルエンザにかかって熱がある。
当然自分で食事は作れない。
病床から真由は何度も母を呼んだ。
しかし、母はとうとう真由のところに来ることはなかった。
わたしはお母さんにとって、いらない子だったの?
その後、真由は何度も嘔吐し、その嘔吐物が喉に詰まり、とうとう窒息してしまった。
麻衣の熱が下がり、父が帰宅し、母が真由に気づいた時、真由はすでに息をしていなかった。
月曜日、会社に行くと黎人は綾人に、あの依頼を持ち帰った話をした。
「珍しいですね。」
「うん、気になることがあって。」
黎人はいつもとちがい、弱気な顔をしていた。
「今回、もう少しきちんと調べたい。」
仕事に神次のこと、そしてまゆの人形。
黎人が抱えすぎるのは嫌だな、と陽織が調べると言ったけど、首を横に振った。
さらに翌日、火曜日、鷹人が保育園で手足口病に感染してしまった。
1日目は、あちらこちらに発疹ができて、陽織は慌てて明王大病院の小児科に連れて行った。
熱も高い。
鷹人は口の中に発疹ができて、食べることも、飲むことも嫌がり、陽織は眠ることもできず、付きっきりになった。
鷹人も、スポーツドリンクがあまり好きじゃない。
好きな牛乳も、スープも口の中が痛くて泣く。
スプーンで、時間をかけて少しずつ飲ませる。
つるんとするものは大丈夫なのか、プリンとゼリーは食べられた。
初めての子どもの病気、という経験に、陽織は目を離すことができず、自身もまともに食事が取れない。
おでこに貼る熱冷ましのシートも、数時間おきに取り替え、その都度、熱を測る。
眠れない。
鷹人の部屋にクッションとタオルケットだけで、陽織は寝ていた。
家のことは2人の精霊に任せて、黎人の食事は美咲に。
4日目に鷹人の熱が下がると、やっと陽織はシャワーを浴びた後に、ベッドに入って眠った。
それでも、朝早く起きると鷹人の部屋に行く。
「だいたい、1週間って言われたんだよね。」
黎人に言われて、陽織もあと2日くらいかな、と少しホッとした。
(これが普通の親だよね。)
陽織の姿を見てそう思う。
それでも、感染の可能性があるので、まゆの件はもう1週間後に伸ばした。
土曜日、黎人は湊人を連れて、岩福寺に行った。
まゆの親に会うために。
その日の夜は、久しぶりに陽織が夕飯を作り、あちらこちらのブツブツが綺麗に治った鷹人も食卓にいた。
「パパ!」
ずっとグズグス泣いていた鷹人が、久しぶりに笑って機嫌も良かった。
「鷹人、痛くなくなった?」
と聞くと
「たいたい、ない。」
と答えた。
お風呂にも入れた。
「たっくん、がんばったんだよね。エライエライ。」
陽織が頭を撫でると、黎人にも頭を向けるので、同じように撫でてあげた。
「お薬も、ちゃんと飲めたもんね。」
「いい子?」
と聞いてくる、のでまた撫でる。
鷹人が眠った後、まゆの話をする。
ネグレクトとは違っていたけれど、やはり親はもう1人の妹から、目が離せず、まゆのことを放置してしまったようだ。
まゆが亡くなって、母親はものすごく後悔していた。
父親もだった。
「わたしも、今回、もう1人子どもがいたら、無理!って思った。たっくんのことだけで、こんなに大変だったんだもん。双子なんて、どんなに大変か。
黎人さんのことだって、お母様がいたから、お願いできた。親って、こんなに大変なんだ、って、改めて思った。」
そこから、もう一度、あの人形にきちんと話をしなければいけない、と2人は思った。
ただ悲しくて、辛いだけで、まゆを送ってはいけない。




