陽織、また人形?(子育て編)
全員が揃うと、綾人がペットボトルのお茶を持って来た。
そして、自分は黎人の後ろに立ったまま、タブレットを開く。
「わたしは今回、社長が来るまでの繋ぎですので。」
そう言って。
黎人も同じ画面を立ち上げて、今回6人、もとい7人が行く場所を見せた。
「今回は隣の県にある、人形供養のお寺。」
黎人が言った途端、陽織と湊人は、嫌な顔をした。
それを見た黎人はクスクスする。
「うん、前のよりは少しマシだと思う。数も少ないし。二百体くらい?」
「マシって、どれくらい?わたしまた、髪引っ張られる?」
陽織が自分の髪を押さえながら、黎人の方を向いた。
「人形かー、良い思い出ないんだけどー。」
湊人も同じような顔だ。
「わたし、今回は髪まとめて、ぴっちりお団子にして行こう!」
と、陽織。
「と、経験者がいた方が良いってことで、2人はご指名だったんだよね。」
陽織は黎人に言われて、すごく嫌!と言う顔になった。さらに陽織にとっては、あまりにも嫌な話に
「前も黎人さん、いなかったじゃない!しかも、浮気してた!」
と言ってしまった。
「浮気?」
「ちょっと待って、それ違うって言ったじゃない!」
「え?黎人さんでも、浮気するんだ。」
と、話が違う方向へ行く。
その上、どこで知ったのか、綾人にまで
「もしかして、奈緒さんですか?」
と名前まで、出されてしまった。
「あ、俺聞いたことある!悠兄が嫌いな女!」
「だから、話が進まないから、それは違うから!」
黎人は綾人を睨む。
「本当に、浮気なんて、してないから!」
黎人は必死に訂正すればするほど、大学生組は胡散臭そうな目をする。
「もう!陽織が余計なこと言うから。」
と、黎人は陽織のことも睨むが
「わたしの、髪。」
と言われた途端、口を閉じた。
それを知る湊人は
「アレは、酷かったよなー。」
とまで、陽織を加勢する。
「話、進めて良い?」
あまりにも話しが進まないことに腹を立てた黎人が、ちょっと怒って言った。
すると、わいわいと黎人の浮気について話していた大学生組が黙った。
「とりあえず、隣県にある岩福寺の人形供養の依頼です。今、こちらには、二百体の日本人形が収められているんだけど、人形たちが夜になると動く、と言うもの。毎朝みると、人形の位置が変わっている。以前はそんなことはなかったのに、1週間ほど前、病気で亡くなった子どもの人形を預かってから、それが起こるようになった。」
「でも、黎人さん、それじゃ夜にならないと、わからないんじゃないですか?」
「万が一の時は、次の日の朝までかかる覚悟で。」
「てことは、土日潰れるかもってこと?」
「まあ、そうだね。」
「えと、わたしは本当に社長が来たら交代して良いんですか?」
「うん、別にいいよ。神柴はあくまでも代理だから。事前準備に行くくらいで。」
「かしこまりました。」
「徹夜かもかー。千織たちは大丈夫?」
「神嶋が親に許可取ってるはず。」
と、そんなやりとりで、話しは終わった。
今回は、本当に動くのか、と言うのを、無人にした部屋にカメラを仕掛けて、別室から監視することになった。
動き出してからの、勝負だ。
「千織ちゃんたちも、髪はまとめておいた方が良いよ!」
と、陽織は自分の経験で、強く言っている。
「服も、スカートじゃない方が良いね。」
と、羽織はそこも注意した。
しかし、そう言われて、ハタと陽織は困った。
陽織はパンツ系の服が一枚もない。
寝巻きだってワンピース型だ。
「あの、わたしもう帰って良いですか?」
陽織が手を挙げると、一斉になんて?と言う顔になる。
「あの、わたし、スカートしか持ってない。その、実家きら持って来たいので。」
「アレで良いじゃない!ほら、お腹大きい時、ロングTシャツの時に履いてたスパッツ!」
「ハオちゃん、それは、お腹が大きい時!今履いたらブカブカで、脱げちゃう!」
「陽織ちゃん、わたしのチノパンで良ければ、貸すよ?」
千織に言われるが、それでも大きくて脱げそうだ。
「大丈夫だよ。陽織は足引っ張られないように気をつければ。」
??引っ張られること、前提ですか??
翌朝、陽織は湊人が運転する黎人の車で、宏輝と羽織、千織を途中で拾い岩福寺へ向かった。
帰りは梢絵が迎えに来るらしい。
寺に着くと、すでに綾人が待っていた。
綾人はカメラなどの機材を持って来ている。
「おはようございます、綾人さん。」
陽織が挨拶をすると、他の人も一斉に挨拶をした。
「綾人さん、休みの日まで黎兄の代理なんて、たいへんですね。」
と、湊人に同情される。
「大丈夫ですよ。たまにはこう言うこともやらないと、忘れてしまうので。」
笑いながら、6人はお寺に入り、挨拶をする。
岩福寺は住職が普段いない。
前の住職が亡くなった後、跡取りの息子が現在修行中だ。
今いるのは、亡くなった住職の妻と、年老いた母親の2人。法事が入ると、息子が修行している寺の住職が来てくれる。
「高齢者と女性だけ。」
「しかも、肝心の住職がいないのかー。」
メンバーはまず、広間に案内され、そこを拠点に準備をすることに。カメラは人形が集められている専用の部屋が全体に映るようにセットする。
亡くなった住職の妻、福山法子から話を聞く。
一週間前、近くに住む夫婦が病気で亡くなったと言う子どもの人形を持って来た。
人形は娘、子どもが生まれた時に、祖母からもらった日本人形だった。
子どもは5歳で、亡くなった原因はインフルエンザということだった。
「インフルエンザ‥。」
「まあ、絶対に安全な病気とはいえないよね。」
話を聞いた後、4人はカメラをセットしている綾人と湊人のところへ行く。
部屋の中には、確かに200を超える人形があった。中には雛人形も。見ただけで、陽織も、千織も、羽織も目眩を起こしそう。
その中で陽織は一体のまだ手前に置いてある人形に目が行く。まだ新しい人形。おそらくこれが今回持ち込まれた人形だろう、そう思って法子に尋ねると、間違いなかった。
それを見た湊人が
「陽織、引き込まれるなよ!」
と、小さいが強い声で、陽織の腕を掴んで言った。
「では、この人形は、最後の一台でズームにしましょう。」
綾人はそう言って、最後のカメラをセットした。
全員で隣室の広間に集まり、5台のモニターを立ち上げた。全体が写ったもの、右、左、上、そしてあの人形をズームしたもの。
途端、陽織の顔色が変わる。
「お母さん、熱い、熱い。」
「のど、渇いた。」
「誰か、助け、て。」
「体が、痛い。」
『まゆ、ちゃん。まゆちやん!』
最後に聞こえたのは、人形の声、だった。
まゆ、と呼ばれた子は、そのまま息を、引き取った。
確かに、原因は、インフルエンザ、だった。
でも、誰も、そばにいなくて。
ネグレクト!?




