陽織、鷹人が迎えにくる(子育て編)
事故から2時間になろうとしている。
神柴から湊人に電話があって、もう20分。
「しや、ちょ、黎兄、やっと、見つけ、た。」
湊人の様子を見て、黎人はただ事ではない様子はわかった。
「どうしたの?そんな、焦って。」
「神柴、さんから、電話。社長、出ないって、20分くらい前。に。」
黎人は慌ててスマホを出す。電源を切っていた。
電源を立ち上げると、綾人の他にも、父や湊人から、会社からとたくさんの着信履歴があった。
慌てて綾人に電話を入れる。
「あ、社長、陽織様が!」
いきなり綾人の焦った声が聞こえた。
「事故のニュースを見ていたら、その、意識だけ持っていかれてしまった、ようで。」
黎人は話の途中から、会長室へ向かう。
蓮也はすでに連絡を受けていて、すぐ黎人にレイリーに行くように指示をした。
黎人は頭を下げると、地下鉄の駅に向かった。
まだ白桃は、寝たり起きたりを繰り返している。
白桃が本調子なら、陽織の意識がなくなることを止められたに違いない。
お母さんは泣いていた。
ベビーカーの中の赤ちゃんも泣いているが、赤ちゃんの方はただ驚いているだけのようだ。
赤ちゃんをおいて、逝かなければならない。
きっと、たくさん心残りがあるのだろう。
陽織は、お母さんをそっと抱きしめる。
どうか安らかに。
どうか、悔いを残さないで。
赤ちゃんは、あなたが守った赤ちゃんは、きっと元気に育っていくから。
赤ちゃんのためにも。
どうか、逝って。
地下鉄に乗って10分。とにかくレイリーに急いだ。
陽織が意識を失って、1時間が過ぎている。
話では、普通に呼吸はしている。
しかし、全く意識がない。
「こんにちは。」
黎人が飛び込むと、保育士の1人が出迎えてくれた。
黎人はすぐに2階に案内される。
陽織は、ソファーに横たわっていた。
「陽織‥。」
神柴が陽織の手を握っていたので、黎人が変わる。
陽織に力を込めてみるが反応がない。
霊力が足りない、と言うことはないようだ。
黎人の後ろに、いつのまにか、鷹人がついて来ていた。
「鷹人くん?」
調理員と夢子が驚きの声を上げる。
「え?鷹人?」
黎人も気づいていなかった。
陽織が抱きしめると、お母さんは少しずつ光の粒になっていく。
赤ちゃんのことは心配しないで。
お母さんが消えると、陽織は一人になった。
ホッとした気分と、寂しさと、そして
「ママ!」
後ろを振り向くと、鷹人がいた。
「ママ。」
「たっくん!」
陽織は走り出して、そして鷹人を抱きしめた。
「たっくん、たっくん、たっくん!こんなところに来ちゃ、ダメ、だよ。」
そして、そのまま、陽織は、鷹人に手を引かれて光の方へ行く。
「陽織。」
陽織が目を開ける。
目の前に黎人がいて、腕の中には鷹人がいた。
「たっくん。」
陽織は泣いたまま鷹人を抱きしめる。
「ママ、お母さんを助けられ、なかった。」
陽織は泣き出す。
それを見て、黎人が陽織を抱きしめる。
「陽織、亡くなった人を助けることはできないよ。もし亡くなった人を助けるなら、それ以上の対価が必要になる。」
黎人は冷ややかな声で言う。
「それに、あのお母さんはもう、亡くなっていたよ。」
「対価?」
「陽織は、もうわかるよね?」
黎人の言葉に陽織はハッとした。
「もしかして。」
陽織の顔色が変わった。
「わたしは、あの時、対価を払ったの?」
「ごめん、なさい。」
陽織は、誰にかわからない、謝罪をした。
さらに2時間ほどして、陽織が落ち着くと、黎人と綾人は会社に帰って行った。
幹線道路の事故も片付いて、渋滞も、少し良くなったようだ。
そのまま仕事の続きはできないまま、陽織は笹神の車で、鷹人と家に戻った。
「たっくん、また、助けられちゃったね。」
陽織ふ鷹人の手を握る。
「今日は、たっくんの好きなものに、しようかな。」
「な、な!と、と!」
「お魚が良いの?」
鷹人はお魚の煮付けが好きだ。
中でも、白身魚の、カレイが一番。
でも、残念ながら、今日カレイはない。
「んー、それじゃアジフライにしよう。たっくんは、白いお魚、ね。」
「しゃか、な!」
「そう、お魚さん。」
その日、黎人は少し遅かった。
やはり事故の影響で、納品の時間がズレたようだ。
そのことで、全体に仕事がおしてしまったのと、陽織のところにいた時間が、ロスになったらしい。
「また、わたしのせいだ。」
「それに、あの時黎人さんは、わたしは悪くないって言ったけど、わたしのせいで、わたしがハクにあの妊婦さんを助けて、ってお願いしたから、だから、お腹の赤ちゃん、死んじゃったんだ。対価に、持っていかれちゃったんだ。」
そう思うと、陽織は自分が嫌になる。
なんで、わたしが、花嫁なんだろう。




