陽織、大丈夫だよ(子育て編)
夜、黎人はなぜか疲れ切った顔で帰ってきた。
家族3人、夕飯を食べてお風呂を済ませる。
鷹人が眠ったあと、黎人と陽織は部屋で話をしていた。
あのあと、陽織が今日一日、頑張っで終わらせたレイリーの会計監査のチェックを見ている。
「あの?わたし、何か間違ってましたか?」
「いや、大丈夫。全部あってるよ。」
??
「ごめん、明日も父に付き合うことになってしまって。」
「そう、なんですか。ちょっと、残念です。」
陽織はせっかく頑張ったのに、と、落ち込んだが、仕方がないと、顔をあげて、ニッコリ笑った。
「でも、黎人さんのおかげで、わたしは安心できますから。」
その言葉だけで、苦労が報われる!
黎人は落ち込んでた気分が、少し上がった。
そのまま。
が、しかし。
「明日、高樹さん来るんだよねー。お義父さんに、会うんだー。なんか、それが気が重い、っていうか。」
陽織さ不思議顔をする。
「何かあったの?父様と。」
「ほら、この前陽織が、その、流産、したから。なんか、責任、感じて。色々、陽織を幸せに、してないなって。で。」
黎人は真実を告げることなく、うまく話すことができない。陽織の1回目の流産。黎人の責任。
それがまた起こるなんて!
と、黎人は頭を抱える。
日曜日は鷹人と3人、出かけるつもりでいた。
それが対策会議に出ることになった。
それはまだ仕方ない。
それよりも、また高樹に会わなければならない。
それが一番気が重かった。
「黎人さん?大丈夫?わたしも、もし大変なら、その、会議、でるよ?」
陽織に言われて、黎人は逆にギョッとする。
妻の親に怒られるところなんて、はっきり言って見られたくない!
「父様、知ってるよ。わたしが、その、流産しちゃった、こと。ママが話したから。」
「え?」
「だって、あれは、その、わたしの責任、だから。」
陽織は下を向く。唇を噛む。でも、そのあと顔を上げて、笑った。
「わたし、大丈夫、だよ。それに、わたしは、幸せ、だよ?」
あー、これか。
神鬼先生が言ってた。
その陽織の笑顔が、あまりにもせつなくて、可愛くて、どうしても、抱きしめた腕から離すことができなかった。
やっぱりダメだなー。
反省したのに。
翌朝、鷹人は起きると怪獣ショーに行けないことを知って、泣いて騒ぐ。
高樹と一緒にやってきた陽香はそれを知って、きちんと話すことを進める。
そう言われ、黎人と陽織は鷹人を連れて、蓮也のところに行き、きちんと話し、お出かけに行けることに。
蓮也はなんとなくわかっていて、意地悪をしたようだった。
「黎人、何が一番大切なのか、ちゃんと見極められるようになりなさい。今日のことは、また改めて話す。今日は楽しんできなさい。」
蓮也にそう言われ、黎人と陽織は感謝を告げる。
黎人の車で水道橋へ行き、ドームの中へ入った。
楽しみにしていた怪獣ショーに、鷹人は大興奮!
「ジュージュー!」
「鷹人、楽しかった?」
ショーの間、他には飽きてしまう子どもがいる中で、鷹人は飽きることなく、夢中になって見ていた。
それだけでない。
自分の周りに、周囲のざわめきが入らないような、防音の結界も貼っている。
ショーが終わって、黎人が鷹人を抱き上げて歩くと、ところどころで、振り向く女性がいる。
それを見るたび、陽織は少しだけもやっとする。
(やっぱり、黎人さんカッコいいんだ。)
でも、それは一緒に歩いている黎人も、同じだった。
(陽織を離さないようにしなくちゃ。)
お弁当ではなく、外食になることを少しだけ懸念していた陽織。
その時、同じお土産売り場で、綾人と絵梨花、将人の親子を見かけた。
「絵梨花お姉様?」
絵梨花は陽織の声に気づいて、家族に声をかけてくれた。陽織も。
「まーくん!」
「たっくん!」
子どもたち2人も、互いの顔にわかって、手を伸ばしていた。
「あれ?神柴、と、綾人も来てたの?わー、良かったー!鷹人も嬉しいね!」
心なしか、黎人も楽しそう。黎人はプライベートの時は、神柴を下の名前で呼ぶ。陽織は、その時それを初めて知った。
「え、と?黎人さん?」
「あー、綾人は元々、子どもの頃から、僕のお目付け役みたいなところがあったんだ。」
「そう、だったんですね。大人になってから、知り合いになられたのかと。」
それを聞いて、黎人はクスリと笑う。
「まあ、色々あったからね。」
6人は近くの個室で入れるお店を探して、お昼を取ることにした。
綾人は黎人の秘書兼お目付け役ともあり、今回の話しについても知ってはいた。
事実、今日蓮也のところには、綾人の父も行っているとのことだった。黎人はそれを知って、心から、対策会議の第二弾を免除してもらえたことに、ホッとしていた。
「もう、綾人のお父さん、ウチの父上以上に怖いんだもん。怖さから言ったら、綾人父、高樹さん、ウチの父上だよ。」
「え?黎人さんは、わたしの父様の方が、怖いんですか?」
陽織が目を丸くして聞くと、
「当たり前じゃないか!もう、色々ありすぎて、陽織のお父さんには、はっきり言って頭、上がらない。」
と、遠い目をして答える。
「高樹さんは、陽織のことが大事だから、可愛がってるけど、その分、僕にはあたりキツイよ?知らなかった?高嶺さんも、だよ?」
そう言われ、兄様まで、と、目を見開く。
そういえば、まだ出会った頃、高嶺に怒られて、黎人がめちゃくちゃ凹んでると、湊人から聞いたことがあったっけ。
「それじゃ、父様と兄様のことは、わたしに任せてくださいね。」
と、陽織は答えたが
「イヤイヤ、それも怖いからだめ。無責任だって、余計に怒られる。」
と。意外にも、綾人たちの前で、素の黎人の姿を見ることができた。
「黎人くんは子どもの頃、ウチの父から、よく悠人くんと2人、怒られてたらね。悠人くんは要領いいけど、黎人くん、要領悪いんだもん。」
陽織には、要領の悪い黎人が、想像できなかった。
そして、いつもは敬語の綾人が、フランクな言葉遣いで、黎人に話すのも。
「あ、あの、綾人さん。わたしもっと、黎人さんのこと知りたいです。また、黎人さん抜きで、依頼受けましょう!」
と陽織が嬉々として提案すると、黎人に怒られた。
しかし、そんな陽織の願いは、意外にも早く、叶うこととなった。




