陽織、また異界へ
神嶋の家は十神家の中で裁定者と呼ばれていた。彼らは必要な場所に術士を派遣したり、浄化された場所の後始末をするのが神嶋の役割だった。
先代から、その仕事を警察内部を通して行うことで、世間一般の調整もしている。
翌朝、陽織は昨夜のことを美織たちに尋ねると、神嶋はあの時引き込まれた5人の家全てを訪問して、話をしたことがわかった。
勉強会で他の4人にも共有しておこう、ということで意見は一致した。
大神はそのことを、美織と陽織から相談されると、大きなため息をついた。すでに学校関係者には、その前の日に説明があり、生徒には大神から話すと言っていたそうだ。
「全く、相変わらず勝手なことを。とりあえずみなさんは、今試験前の大切な時期なので、一旦忘れて、勉強に取り組んでくださいね。」
大神は試験が終わったら、話そうと思っていたらしい。
期末試験は中間の九科目の他に、情報や保健体育、家庭科もあり、4日間になる。その代わり試験の翌日はお休みで、翌週に答案が返されたら、あとは夏休みだ。
中間試験の反省から、生徒は一斉に帰宅にならないよう、委員会や試験明けの生徒会選挙、など色々な予定を組まれた。
陽織は図書委員だったので、Sクラス専用図書室の、書庫整理と夏休み中の貸し出し業務についての話し合いがある。
他にも秋に行われる学園祭、休み中にあるサマースクールに関する話し合いなど、各自がバラバラになった。
陽織が図書委員の仕事を終えて下校する時は、羽織がちょうど教室にいたので、駅まで一緒に帰ることにした。
2人きり、というのが珍しくて、いつもは聞けない話しをしたり、お祭りのことなどを話した。
「羽織ちゃんたちは地下鉄なの?」
「うん。ウチは湯島の先なので、陽織ちゃんの家より少し北側?西側かな?根津までは行かないけど、駅は根津です。」
「それじゃ、わたしも今日は地下鉄乗ろうかな。」
などと話しながら。地下鉄に乗ってすぐ、陽織は隣の車両に黎人と悠人の後ろ姿を見たような気がした。しかし、いつもなら気がつくはずの黎人が何のリアクションもないので、そのことをすぐに忘れてしまった。
「で、どう?明日、千駄木のかき氷屋さん、行ってみる?」
羽織が明日の休み、谷中に出かけようと、誘ってくれた。こんな風に休みの日、クラスメイトと出かけるのは美織以外で初めてなので、陽織は二つ返事でOKした。
翌朝は暑く、まさにかき氷日和!陽織は千織と羽織の3人で初めて地下鉄を北上する。美織は家の都合で欠席だ。残念。
3人は初めて降りる千駄木の駅と、その先に広がる谷中銀座に思わずキョロキョロしてしまう。高校生は、ほぼ同じ頃に試験が終わるのか、私服姿の同年代の女子が他にもいる。
「あ、ココ、ココ。」
「うわっ、並んでる!」
まだ、朝も早いというのに、かき氷のお店の前は、すでに数人の列を作っていた。
しかし、意外と回転が速いのか、30分もおしゃべりしていると、陽織たちの番になった。
すでに注文はしているので、席に着くとすぐに氷が運ばれて来た。
「うわーっ、大っきい!
「あーっ溢れてるー!」
3人ははしゃぎながら、大きくて冷たい氷をぺろっと平らげてしまった。
「全然、頭痛くならなかった!」
「結構、食べられちゃったねー!」
「お昼いらないかもー。お腹いっぱい!」
などと言いながらお店を出る。
そのあとは近くのお店をぶらぶらと眺めて、お昼になってもお腹いっぱいで、普段は行かない駅の反対方向に行ったり、このまま根津まで歩こう、という話になったが、炎天下、流石に一駅歩く気にはなれなかった。
3人が千駄木の駅の中に入ると、目の前の車両に黎人と悠人が乗っていた。
「あれ?湊人のお兄さんたち?」
千織がそう言って、電車に乗り込む。と、その時、電車がグニャリと歪むような感覚がした。
陽織は5月の出来事を思い出し、呼吸が苦しくなる。
黎人と悠人は、依頼があった地下鉄に乗り、やっと目的のモノと遭遇した。
「もう、昨日から何往復したことかー。」
「やっと捕まったかー。」
たくさんの悪霊らしきものが蠢いている空間にいても、2人は顔色を変えない。事前に依頼内容を聞いていたし、想定内、ということで。
と、思った時、想定外のことが起こった!




