陽織、事件のことを知る
七月に入ったら期末試験がある。試験‥。
陽織の周りでは、中間試験後の追試時に結成された勉強仲間が、一週間後に迫った期末試験の勉強をしている。
美織や湊人のおかげで、古文や日本史も少しわかるようになった。翔太は何故か、妥当陽織を掲げている。
例の事件に巻き込まれた9人が、その日の都合で減ったり増えたり、とりあえずは結界のある、学校内のSクラス専用図書館の一角で、勉強に励んでいた。
そこに中高6年間常に一位の座を明け渡したことなし、神龍の次に高位となる青龍を使役する、生徒会長の神月和嶺が現れた。
図書館で勉強する他のSクラス女子から、ため息が漏れる。和嶺の姿に気づいた陽織と美織は、小さく手を振った。
和嶺は陽織たちのグループの方へ近づき、湊人を押しのけ陽織の隣に腰掛けた。
「父上からの命だ。陽織の赤点回避に俺も手伝うようにってさ。」
陽織は何も言えない。確かに陽織の成績のことを知った両親はかなりショックを受けていた。
中学生の時は学校へ行かなくても、家庭教師に教えてもらったことて、ほとんどの模試は問題なくすり抜けていた。
公立の中学だから、退学や落第もないうえ、陽織はむしろテストだけなら優秀だった。
その結果が中間の時の他教科だ。
さらに中学は古文と現代文は同じ「国語」、日本史は「社会」の一部だったので、ほぼ白紙でも他の問題でカバーしていた。およそ8割以上の点をとってしまう。そのため、両親は知らなかった。陽織の苦手意識に。
「どうせ日本史なんて、絶対受験の時選択しないし!」
陽織は膨れて和嶺に返した。
その日の夜、神月家に陽織は知らない男性が訪れた。
夕飯の前に陽織は父の部屋に呼ばれ、その男性を紹介された。
彼は警視庁に勤める十神家の分家の1人で、神嶋と名乗った。一カ月前に陽織たちが巻き込まれた件を調べていたらしい。
「なるほど、神様の花嫁というのは、素晴らしい。」
神嶋はニコニコ笑って陽織に握手を求めた。一応笑ってはいるが、どこか胡散臭い。
「みなさんは、何故あの日、あんな場所で巻き込まれたのか、気になりませんでしたか?何故2年近く前の放火事件の被害者がみなさんを襲ったのか。」
神嶋は一息つくようにお茶を口に含む。
「あの日、橋の前にある国立医科学病院で被害者の方たちが亡くなって、ちょうど二年だったんです。」
陽織は、目を見開いた。
「近くのお寺では三回忌を行っていた遺族もいたそうです。遺族の中にもきっと無念があったり、思うように進まない裁判の怒りもありましたから、そういった気持ちも溜まっていたんでしょうね。」
「でも、無関係な人を巻き込んだら、放火の犯人と、同じ、です。」
陽織は俯いて言う。
「その通り。ですが、みなさんの力で浄化され、きっと澱んだ気持ちも、少しは癒されたことでしょう。まあ、ご遺族は別ですが。」
その時、陽織は疑問に思ったことを聞いてみた。
「もし、なんの力もない人が通ったら、どうなるんですか?」
「あの時、他の人は巻き込まれなかったでしょ?全く動じない人は引き込まれません。大丈夫です。そうですね。一番怖いのは、全くの素人で、ちょっと力のある人ですね。そして、私たちの中にはそういった被害者がいることに、気づかない時もあります。そういった被害者がどうなっていたか、ご覧になったのでは?ああいう場所には、巻き込まれた人の魂も、澱んだまま留まり、さらに大きくなることがあります。彼らは、行方不明となり、骨すら見つからないことがあるのですから。」
陽織はあの闇の中、足元にあった骨を思い出した。思い出してさらに気持ちが悪くなった。陽織が口元を抑えて、真っ青な顔をしたのを、神嶋も両親も気づいた。
「ネェ、陽織さん。私たちはこうやって、誰かの魂を浄化させたり、人知れず命を落としてしまった人を見つけることもあります。私たちの仕事は、こういうことばかりです。さらに今回は、あの件の後、幼稚園があった場所から、当時発見されていない、新しい骨も出てきて、ウチは新しい事件では?と大騒ぎです。」
神嶋は苦笑いをする。
「でも、それはきっと霊に呼ばれて行ってしまい、出られなくなった人のものでしょう。そう考えると、みなさんが助かって良かったです。」
神嶋はそこまで話して帰って行った。今の話を湊人や美織の家族にも話すそうだ。
それが神嶋清也という人間の仕事だという。




