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陽織、神様のことを知る

辞退?辞退?辞退?

黎人は今陽織に言われたことを何度も頭の中で繰り返す。

(え?やっと会えたのに?僕、嫌われてた?なんで?)

黎人はだんだん、魂が抜けていく感じがした。

「黎兄、なんとかしてよ〜!」

部屋の扉がガラッと開いて湊人が入って来た。

「あれ?美織たちもいたんだ。って、黎兄!呆けてないでさー。いやらしい目つきのオヤジたち、千織たちのこと。ちょっとー、聞いてる⁈」

湊人が呆けている黎人の肩を掴んでガクガクやする。


「なに?なんかあったの?」

湊人は和嶺や美織の顔を伺った。

美織が、今さっき起こった出来事を簡単に説明すると、湊人は思うところがあったようにうなづいた。

「なるほど〜。でもさ、黎兄良かったじゃん。コイツ、スッゲーバカだから、絶対花嫁ふさわしくないって!初めての中間で赤点取ってるんだぜ!赤点。」

陽織は自分の発言を棚に上げて、湊人を睨んだ。

赤点、赤点言うなー!

それを聞いた黎人がハッとする。

「陽織さん、わからない勉強は僕が教えるから、大丈夫だよ!」


少し回復した黎人の襟首を掴んで、湊人が部屋を出て行く。黎人の、苦しい!離せ!という叫び声が聞こえた。

2人を見送ったあと、美織が時計を見て立ち上がる。時計の針は夕方6時を指していた。

「わたしもそろそろ帰らなくちゃ。」

「美織ちゃん帰るなら、わたしも帰るね。」

陽織も一緒に立ち上がると、和嶺が社務所の入り口まで見送ってくれた。

「ごめん。まだ出番があるから、夕飯はいらなって伝えておいて。」

和嶺が、先に下駄を履いて外に出ようとした陽織に伝言を頼む。

「わかった。和兄様も頑張ってね!」

「うん。2人も気をつけて。」

2人は手を振ると、神社の裏参道の方へと帰って行った。


裏鳥居を抜け階段を降りながら、美織がまだ話をしたそうな感じではあったが、そろそろあたりも薄暗くなっている。

「意外と普通なんですね。神様って。」

美織が小声で話す。

2人は湊人に襟首を捕まれ引っ張られて行った黎人の姿を思い出し、顔を見合わせて笑ってしまった。

「ちゃんと、普通に生きてるんだね。」

と陽織も言う。京都で会った、突然現れて、突然消えた青年と顔は瓜二つなのに。

陽織の言葉にショックを受けたり、進路の話しで目をキラキラさせたり。普通だった。

(とはいえ、いくらイケメンでも、好きでもない人に将来を決められたくない。)


帰り道、急に真面目な顔になった美織が別れ際に思い出話しを始める。

「わたしたちは、小学生の頃に出会って、ちゃんと恋をしています。そんな様子を、黎人さんはずっと1人で見ていました。湊人くんの時も、悠人さんの時も、他の人の時も、寂しそうに見ていました。それだけは、忘れないでください。それじゃ、また月曜日に。」

美織はそう言うと、家の玄関を入って行った。


正直、陽織は誰かを好きになったこともなければ、まして恋なんて考えたこともない。ライバルはいても、友人はいなかった。コーチや指導者は信頼していたけれど、あくまで利害関係。以前は手放しで甘やかす家族はいたけれど、最近は家族も変わった。

(ちゃんと人間関係作ってなかったなー。)


6月に入り関東は梅雨入り。毎日ジメジメと蒸し暑い日が続く。寒さには強いけど暑さにめちゃくちゃ弱い陽織はかなり心身共に疲れている。

以前は朝起きると母かコーチの車でリンクに行って、一日中過ごす。夏でも寒いくらい。夜になると母が車で迎えに来て、冷暖房完備の家で過ごす。

雨の日はもちろん、外を歩くなんで海外遠征の時くらい。日本の梅雨。やばい!

暑さとジメジメと、慣れない傘での通学は結構体力を消耗する。アスリートだったので体力はそれなりにあったはずなのに。


学校に着いて陽織がお腹をムニムニ触っていると、千織と羽織が入って来た。

「おはよう、って何してんの?」

「陽織、お腹空いたの?」

2人に声をかけられて、顔をあげた。

「え?あ、腹筋なくなったなーって思って。」

腹筋?と言われて2人はポカンとする。


術士は意外と体力を使うので、普通に体育の授業はある。競技として一般人と競えないだけで、外を走ることもある。

「今日の体育も雨だから体育館かなー。」

運動の好きな千織が窓の外を見ながら言った。

「チオちゃんは、部活とかやりたいなーって思ったことない?」

陽織に突然聞かれ、千織は目を丸くする。

「あるよ。このクラスの子、みんなあるんじゃないかなー。とりあえず競技に出ない条件で、武道や音楽をやっている子多いよね?わたしも近くの道場で合気道やってるし。」

「うん。わたしと葉鳥も空手やってる。心身の鍛錬は必要だから。」

なるほど、と陽織も納得した。そういえば、自分も小さい頃に兄たちが通う合気道教室にしばらく行っていたことがある。

流石にスケートはなさそうだが、武道系は多いようだ。

「美織も?」

「ミオは華道とか茶道とか、あ、日本舞踊やってるよね。あれは競うことないから大丈夫みたい。」

へえー、でも暑そう。と、暑さから避けたい陽織は真っ先にそちらを考えてしまう。

「あ、チア部とかダンス部は大会出ない、って条件で入っている人いるよ?」

「確か犬神さん、入ってるよね?わたしは足とか上げたくないから無理だけど。」


その日の体育はマット運動だった。何せ雨なので、8人しかいない女子は隅でもできることに限られてしまう。体育館の中は、男子が半分使ってバスケ、他のクラスの女子が三分の二と舞台上でダンスをやっている。Sクラス女子はその残りになる。

ネットの向こう側では男子がバスケに興じて楽しそう。外ならテニスとかもあるのに。


2人1組で腹筋背筋とやっていると、確かにみんな体が柔らかい。鍛錬してる、は本当らしい。

その後、マットの上で、側転や前転、後転といったことをやる。

できない人もいたが、先生が何回か補助するとすぐにできるようになった。その他にもY字バランスや倒立、ブリッジなど、ほぼ全員ができたのを、となりのクラスの女子が見ていた。

確かにダンスの中に、こういった技を入れると見栄えが良い。しかしダンスはダンスだ。グループで、呼吸を合わせるのが一番大切だろう。それでも、体操選手の如く柔軟性の高い子の多いSクラス女子が羨ましい。

逆に子どもの頃から鍛錬を必要とされていたSクラス女子は、能力なしでもそれなりに運動能力よ高かった。何せ大人になれば人外のモノと戦うことだって、あり得るのだから。


体育のあと、陽織は腹筋が少し戻ったような気がして嬉しくなった。

(これからは家でやれば良いんだ。)









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