陽織、先に寝んでます(子育て編)
3人が京都から帰ると、GWも終わり本格的な夏が来る。暑さが苦手な陽織にとって、一番避けたい季節。
う、カナダに行きたい。
そんなある日、黎人は父に呼び出されて母屋に行った。もしかしたら、遅くなるかも、と言われて先に休むことにする。
蓮也は自室でお酒を用意して待っていた。
お酒‥。嫌な予感がする。
黎人は蓮也の前に座ると、グラスを持たされて、お酒を注がれた。
「あ、ありがとうございます。」
父はなかなか、話し始めない。
なんの用だろう?
「今、天神さんが、パーティー会場を探している。」
?
天神は、去年の秋に起こった岡元議員の事件と、その前にあった陽織の誘拐事件の、両方から、新しい十神家からは裏にいるのではないか、と注視されている。
まだ本人は知らないが、黎人的には、十神家から、退場いただきたい、とも考えていた。
ただ、天神家唯一の跡取り梓沙は陽織の兄、高嶺の妻だ。子どももいる。
跡取りといっても、梓沙は戸籍上神月になっているので、実家の敷地内に住んでも、紗香のように婿養子を迎えたわけではない。
高嶺も、神月家の跡取りなので。
天神は梓沙が高嶺の巫女と知った時、2人に1つの条件を提示した。
生まれた子の1人を天神の子として、将来継がせること。
それを条件に、高嶺は色々援助を受けている。
と言っても、医学部の学費は神月がきちんと出しているので、どちらかというと、住居的な方だ。
「なんのパーティーを開くんですか?」
黎人は嘲笑まじりの声で、話す。
「もうすぐ、梓沙さんが2人目を出産する。男の子だそうだ。天神さん待望の。」
それを聞いて、黎人は嫌そうな顔をした。
(つまり、天神の跡取りの誕生、ってことか。)
「会場なんて、特に探さなくても。」
そこまで言って、黎人は父の顔を見る。
(あー、妨害してるな。)
「申し訳ありませんが、うちは当分、予定ありませんよ。」
先に答えた。
「わかってる。まだ2人目を流産したばかりだ。それに、陽織さんはまだ若いから、焦る必要はない。」
(いや、それは絶対嘘だ。)
「僕は、もう、陽織が大学終わるまでは考えないことにしています。絶対に無茶なことをやる可能性がある限り、正直怖い。」
それを聞いて蓮也は、笑った。
「もう、高樹の気持ちがわかってきた。」
と。頭をかかえる。
「ところで、白兎様は?」
突然?
「やっと目が覚めました。5ヶ月かかりました。全く、陽織が無茶ぶりをするから!白兎様は基本、花嫁を守るのが本業なのに。」
白桃は陽織のお願い聞いて、他の女性を助けて、逆に陽織の命を危険に晒してしまった。
白桃的にも、かなりショックだったに違いない。
まあ、使役獣にそういった感情があれば、だが。
「無茶、か。本当だな。」
「だから、僕としては陽織が大学を卒業するタイミングで、2人目が生まれるのが、理想かな、と。」
確かに、と蓮也もうなづく。
「でも、就職する、って言ってるんだろう?」
「いや、無理でしょう。だいたい、ほとんどの会社の上層部で、陽織の顔は知れ渡ってる。
採用する前に、うちに問い合わせが来ます。
今はとりあえず、レイリーの仕事に集中するように言ってます。代表なんだから。
そのために作ったんだし。全く。
インターシップがやりたい、とか、バイトしたい、とか。何考えてるんだか。鷹人が保育園を行ってることを、いいことに。」
珍しく黎人が怒っている。
蓮也は思わず笑い出してしまった。
「本当に、陽香さんが心配するわけだ。無茶苦茶な子だな。黎人の妻に、収まり切るのか?」
「わかりません。母上とは違った意味で、めんどくさいです。」
「美咲?」
美咲は政財界を牛耳る人の、パートナーのほとんどを牛耳っている。その手腕は、ある意味怖い。
蓮也も思い当たるのか、あー、と遠い目をした。
「美咲は、陽織さんを自分のように育てようと、あちこち引っ張り回してるが。
まあ、陽織さんなら、美咲を越える可能性もあるけど、それは彼女の本意ではないだろう。これからのことを考えたら。」
そう。陽織が見た目が二十歳くらいになるには、まだ20年はかかる。母と同じくらいの見た目になる頃には、みんなもういない。
「で?お前はどうするんだ?」
「んー、一般の人には、年相応に見えるようには、いくらでもできますから。陽織にも、その時が来たら教えます。」
「では、本題。」
え?今までのはなんだったの?
「神次のことだが、やはり天神が絡んでいる可能性が濃厚になった。」
黎人は、それを聞いて高嶺のことを思い出す。
「パーティーを開くなら、そこに神次自身が現れるか、それにつながるモノが現れるか、可能性があるだろう。」
「それ、神嶋は?」
「いちおう、伝えてある。パーティー当日、会場が決まり次第、連携をする。」
黎人はそれを聞いて、首を傾げる。
「それなら、会場をこちらが用意する、と言う方法もあります。もちろん、知られないように。」
「あとは、セキュリティだが、おそらくうちは頼ってこないだろう。」
「わかりました。それなら、そこも、なんとかしましょう。当てがあります。」
と、黎人は悪い笑みを浮かべた。
その頃、陽織はもう、夢の中だった。




